第25話 10年後の世界?

 ここはどこなのかしら? あれは夢だったの?


 私は魔法学校にいて、ライムントとお茶会をしていた。そして、ライムントからリュディガーが拉致されたと聞き、心配になり、ことの次第を知るために、バウムガルテン王国にライムントと一緒に戻ったはずだった。


 ところがついた先はバウムガルテン王国ではなく、一緒にいたのもライムントに化けた神様だったらしく、私は神様からせっかく転生させてやったのにつまらないから“死ななかった、でも生きてもいなかった”状態にするって言っていたわよね? それに私がミアに刺されてから10年後に時を進めるとも言っていたわね。


 あと、トルデリーゼが時を何度も巻き戻した事による歪みで永遠の9歳になっているとも言っていたなぁ。


 それはなんとなくわかる。トルデリーゼと話していて何度も本当に9歳? 同じ位の年齢なんじゃないかと思っていたものね。


 とりあえず起きよう。寝ていても仕方ないわね。


 私は目を開けて体を起こそうとしたがる、目も開けられないし、身体も動かない。


 焦る。ジタバタしてみるが、全く動かない。ははん。これが神様の言った“死ななかった、でも生きてもいなかった”ということか。


―パタン


 扉が開く音がした。


―バタバタバタバタ


 足音もする。耳は聞こえるようだ。


「エデル、おはよう」


 この声はライムントだな。ちょっと老けたか? 昨日見た本物のライムントよりかなりスリムだ。痩せているというよりやつれている感じだろうか。決して生きる屍ではないのはギラギラしている瞳を見ればわかる。


 目が開いていないのに見えるのはなんだか不思議だ。


 ライムントは横たわっている私の頬に手を当て、回復魔法をかけた。私の身体にはライムントのエネルギーが入ってきたのがわかる。だがしかし、ライムントから見ると特に変化はないようだ。


「今日であれから10年だよ。私がもっと早く毒に気がついて無効化していれば、君はこんなところで横たわってはいなかったのに、回復魔法で命は助かったけど……」


 頬から手を離し、今度は髪を撫でる。愛おしいそうに何度も何度も指で私の髪をすく。

そして浄化魔法をかけ、身体を清潔にしてくれた。

 まさか、彼は10年間毎日回復魔法や浄化魔法をかけているのか?


「ごめんな。なんとか元のエデルに戻そうと色々研究しているのに未だに戻せない。まったくこんな私が天才魔導士なんて聞いて呆れるな」


 ライムントは乾いた笑いを浮かべている。


―コンコン

―パタン


「ライ、いるか?」


 扉が開き、誰かが顔を出した。


「姉上は? 変わりないか?」

「あぁ、変わりないよ。今日も薔薇色の頬のまま眠っている」


 姉上ということは、アーベルか? あのまま10年私が眠っているのなら、今の国王はアーベルがやっているのだろう。


 アーベルは私の顔を上からじっと見ている。


「姉上、そろそろ起きてくれよ。寝坊するにも程があるよ。民はみんな姉上が目をさますのを待ってるんだよ」

「ほんとに早く目を覚ましてほしいな」

「ああ」


 ふたりはこの世の終わりのような暗い顔をしている。これでは王宮は息苦しいのではないかしら?


 ローザリアはどうしているの? それに子供達は? 3人いるはずよ。


 私は意識はあるし、見えるが、それは私の中でだけだ。誰かと意思の疎通を取ることはできない。


―コンコン


 また誰か来た。扉を叩く音がする。今度は誰だ?


「陛下、ライムント様、クラウベルク王国のダウム公爵令嬢から、ぜひエデルガルト様に会いたいと先ぶれが来ておりますがどういたしましょうか?」


 リーゼだ! リーゼが会いに来てくれるんだ。きっとリーゼは時の歪みが直ったことに気がついたんだわ。


「ライ、ダウム公爵令嬢って? 知り合いか?」

「知らないわけではないが、親しく話したことはない。エデルとも面識はないはずだ。なんだろう?」

「どうする?」

「ダウム公爵家といえばうちの国の暗部を仕切る家だ。あの家のものは皆手練れだと聞く。エデルに何がするつもりか……」


 しないしない。リーゼがそんなことするわけないでしょう。早くOKの返事してよ。


 私はふたりに訴えるが反応はない。


「とにかく、先に私が会ってみよう。エデルに会わせるかどうかはそれからでもいいだろう」

「そうだな」


 アーベルは従者にその旨を伝えた。


―コンコン


 まだ誰かきたのか? 次は誰だ。


「陛下、ライムント様、よろしいですか? 子供達がお義姉様にお会いしたいというので連れて参りました」

「入れ」


 ローザリアと3人の子供が入って来た。


 女の子は私の魂が入っていた子だな。元にもどったのね。ローザリアによく似た綺麗な子だわ。アルフレッドてリュディガーね。前と同じ顔。ちょっと大きくなったわね。あれから3年経っている設定だもの。そりゃ大きくなるわね。


「お義姉様は? 変わらない?」

「ああ、変わらないよ」


 ローザリアは私の顔をじって見ている。


「なんかいつもと違うわね。なんだか魂が入ったような感じがするわ。お義姉様、今日は私達の言葉がわかるのではないかしら?」


 さすが才女。ローザリアには変化がわかるのだな。


 ローザリアは手招きをして子供達を傍に呼ぶ。


「お義姉様、聞こえますか? この子は私とアーベルの1番上の娘ですわ。あの日から一年後に生まれたの。名前はエルネスティーネよ。エルって呼んでね。エル、挨拶しなさい」


 エルネスティーネは私の枕元に立った。


「伯母様、エルネスティーネでございます。早く目を覚ましてくださいませ」


 私も早く目を開けたいのだけれど開けられないのよ。それにしても長い名前つけたのね。覚えられないわ。

 アルフレッドとリュディガーも枕元に来た。

二人ともしっかりしてきたわね。


 そういえばアルフレッドの婚約者候補として、我が国にきたテレーザリア母娘はどうしたのだろう?

 私の疑問は全て、トルデリーゼに会えば解決するような気がする。


◇◇ ◇


 みんなが部屋から出て行った。することもないし、あってもできない。仕方ない。寝よう。

少しうつらうつらしかけていたが、人の気配で目が覚めた。


 私の顔の前に見たような女がいた。


「眠ったままなんて、神様もひどいことをするわね。こんなままならいっそ死んだ方がいいんじゃない? 私が殺してあげましょうか?」


 女は気持ちの悪い笑顔をうかべている。


 何を言ってるんだ? これが神が言っていた面白いこと?


 私の首に女の両手が巻き付く。女はヘラヘラ笑いながら「死になさいよ。あんたが悪いのよ」と呟いている。

 殺されるの? まさか殺されないわよね? 苦しい。息ができない。すごい力だ。女な顔が近づいてきた。


 ミア? ミアだ! まさかミアがまだ生きていたなんて。


「助けて!」


 私は叫んだ。聞こえないだろう。無駄だとわかっていたが私は叫んだ。


「間に合ったわね」


 声と共に現れた粒子が形になっていく。移動魔法か?


「エデル、私が来たからもう大丈夫よ」


 トルデリーゼ? 大人だけど間違いない。トルデリーゼだ。


 トルデリーゼはミアの手を掴み私から離した。

 そしてミアの手を掴んだままミアを引き摺りながら移動し、扉を蹴り開け叫んだ。


「賊よ! 誰か来て! エデルが狙われたわ!」

「離しなさいよ! 邪魔しないで!」


 ミアは必死で抵抗しているが、トルデリーゼに敵うわけがない。トルデリーゼリーゼが魔法で出した縄にあっという間にぐるぐる巻きにされてしまった。


「エデル、会いたかったわ!」


 トルデリーゼは私に抱きついた。そして耳元で囁いた。


「私の呪いを解いてくれてありがとう。今度は私がエデルの呪いを解く番よ」


 エデルは魔法陣を指で書き、私に被せた。魔法陣から白い光が溢れ出している。


「何事だ!」


 ライムントが部屋に走り込んできた。


 ライムントはぐるぐる巻きで床に転がるミアと光に包まれている私を見て言葉を無くし立ち尽くしていた。




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