第10話 ほんとにもう

 生まれ変わりの事実をファビアンとハウルにカミングアウトした次の日、クラウベルク王国の国王陛下と妃殿下に謁見することになった。

 おふたりは私が転生していることはすでにライムントから聞いていて知っているらしい。

 前世のエデルガルトの時は、クラウベルクに留学中にお世話になっていたし、ライムントとのことも温かく見守ってくれていた。

 ライムントに公爵位を与えるから、このクラウベルク王国に嫁いできて欲しいと言っていた。それが馬鹿エアハルトのせいで国王代理になり、ダメダメアーベルのせいで女王になってしまった。

 ライムントは王配になってくれると言っていたが、クラウベルク王国側も色々事情があるようであの時は待ったがかかっていた。


 私が死んでからライムントが生きる屍になったせいでクラウベルクに戻るわけでもなく、かと言ってバウムガルテンで手腕をふるうわけでもなく、ただ引きこもっていただけのようなのでクラウベルク王国も困っていたのだろう。


「国王陛下、並びに妃殿下にご挨拶申し上げます」

「堅苦しい挨拶はよい。エデル久しいのう」


 国王陛下は玉座から降りて私の傍に来て頭を撫でる。


「お久しぶりでございます。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」

「エデル、なんだかより可愛くなったわね」

妃殿下は苦笑しながら私を抱きしめた。

「よく戻ってきてくれたわ」

「ほんとによく戻った。神に感謝しなくてはならんな」


 お二人はそうおっしゃるが、私は時を戻して欲しかった。転生など全く望んでいない。


「本当は私達も昨日エデルに会いたかったのだ。しかし、ギルとベルが先に自分達と話をしてからにしろと言いよってな。エデルに会うのが今日になってしまった。今日はエデルの好きな菓子をたくさん用意したから、ゆるりと過ごしてくれ」


 陛下は嬉しそうに目を細めた。


 私はなぜか陛下の膝の上に抱っこされたままお菓子を食べさせられている。小柄ではあるが7歳児はまぁまぁ重いぞ。陛下は足痛くないのかしら?


「重くないですか?」

「ん? 何を言うか。エデルは羽根のように軽い。さぁ、菓子をたくさん食べなさい」


 はい。貴族令嬢の褒め言葉『羽根のように軽い』もらいました。私は目の前のフィナンシェを頬張った。


「私達は娘もいないし、孫も男ばかりだからエデルが小さくなってまた私達の前に現れてくれて本当にうれしいの。もう、いなくならないでね」


 妃殿下は涙ぐんでいる。手元に目をやると、昔私が刺繍をしてプレゼントしたハンカチを持っている。まだ持っていてくれたのか。嬉しいなぁ。私はにっこりと笑った。


「はい。1日も早く犯人を捕らえて安心して過ごしたいと思っています」


 私の言葉にお二人は驚いているようだ。


「犯人? あの時、捕まったのではないのか?」

「はい。彼女は実行犯であって黒幕は他にいるようです。生まれ変わってからも何度も狙われています」


 国王陛下は腕組みをして何かを考えているようだ。しばらくの沈黙の後口を開いた。


「うん。結界を張ろう。エデルの身体に結界を張る。狙ってきたやつに跳ね返る術を付与しよう」


 は? なんだそれ? いやいや身体に結界って? 魔法大国だけあって考えることが訳わからん。


「我が国でエデルに危害を加えようなどという奴にはそれくらいの、いやそれ以上のことをしてやってもかまわん。捕らえたら生かせておいて、死にたいと思うくらいの罰を与えてやればいい」


 国王陛下はヤバイ系の人だったのね。


 まぁ、この国にいる間は安全なようだし、なんとか捕らえたい。そして私を殺した理由が聞きたい。


「もう、そんな難しい話はこれくらいにしましょう。エデルには影を100人くらいつければいいわ」


 100人もいらん。妃殿下は以前から私を可愛がってくれていたが、小さなエデルになったせいか余計に増長して過保護が増している気がする。


「そうだわ、エデル。ライムントとの婚約は白紙に戻さない? あれは前のエデルで、今のあなたとは年も離れすぎてるわ。どちらかといえばファビアンやハウルと結婚してくれる方が嬉しいのだけれど」


 はぁ〜? またややこしいことを言ってきたな。


「王妃、そんなことを急に言ったらエデルも驚くだろう。ここにいる間に決めればいい。ライムントにこだわらなくてもいいが、ライムントが好きなら年のことは気にしなくていい」


 国王は妃殿下の肩に手を置いた。


 それから少し世間話をして謁見は終わった。疲れたわ。


 自室に戻り、普段用のドレスに着替えて伸びをした。


 ライムントに会いたいのだが、クラウベルク王国にきてから、なかなかライムントと会えない。故意にそうされているのか? ライムントには年の近い令嬢と結婚させ、私はファビアンやハウルと結婚させたいのだろうか?

 ライムントが好きな人がいると言うなら仕方ないが、そうでなければやっぱりライムントがいいように思う。



―コンコン


「夕食の前に着替えましょう」


 メアリーが侍女達を連れてやってきた。王家の侍女達のゴッドハンドにより、私はどんどん可愛くされていく。

 自分でいうのも変だがこれは天使の域だと思う。これではファビアンやハウルが私を好きになるかもしれないな。


 まぁ、外見だけなんだけどね。中身はおばさんだし、感覚も違うだろう。


 私が暗殺されないでライムントと結婚していればハウルやアロイスくらいの年の子供がいてもおかしくない。

 自分の子供くらいの年の人と結婚するのはなんだかちょっと躊躇するなぁ。


 支度が終わったのでダイニングに向かう。廊下でファビアンが待っていた。


「お姫様、エスコートいたしましょう」


 ん? 冗談か? 笑えないわね。ここは乗っとくしかないか。


「ありがとうございます」


 ファビアンの手に手を乗せた。


「エデル、私は前世のエデルを知らない。だから前のエデルにとらわれることはない。エデルも前のエデルのしがらみは取っ払って今のエデルとしての人生を楽しめばいい。私は10歳で二度目の人生を送っているエデルからすれば頼りないと思うが、今のエデルに好きになってもらえるように頑張る。叔父上には負けないつもりだ」


 なんだこれは? 愛の告白? 


 私が黙っているとファビアンは優しい微笑んだ。


「困らせたな。すまない。今すぐどうと言うわけではない。エデルが我が国にいる2年の間に仲良くなれれば嬉しい。だめかな?」


 だめではないが……。


「はい。恋愛感情はどうかわかりませんが、仲良くしたいと思います。ファビアン様もハウル様もアロイス様も……」

「ビアンと呼んでくれと言っただろう」

「ビアン様?」

「様はいらない」


 いやいや、一応次期王太子だ。婚約者でもないのに様なしはだめだろう。


「今はまだビアン様ですわ」


 私はおばさんモードでふふふと笑っておいた。


 廊下を進み角を曲がるとハウルが腕組みをして、壁に寄りかかり待っていた。


「兄上、抜け駆けですか?」

「あぁ、私の方が一歩リードだな」


 ファビアンの言葉にハウルは眉根を寄せる。


「エデル、兄上より私の方がいいぞ。兄上はいずれ国王になる。兄上と結婚したらエデルは王妃だ。エデルは王妃なんて嫌だろ?」

「嫌ですね」


 即答してしまった。


 ハウルはファビアンを見て勝ち誇ったように口角を上げている。


「じゃあ、お前が王太子になればいい。エデル、私はエデルが私を選んでくれるなら王太子なんかにならないよ」


 うわぁ〜。何言ってるんだ。


「馬鹿かお前ら。子供が何を言ってるんだ。お前らが取り合っても、エデルは私の婚約者なんだ。お前らには渡さん」


 どこからともなくライムントが現れた。おとなげなく子供達と張り合うつもりだな。


 私は3人を見てため息をついた。


「早くダイニングにまいりましょう。ギルベルト様とベルが待ってますよ」


 3人は誰が私をエスコートするか揉めている。


 馬鹿か?


 ライムントが私を抱き上げた。


「叔父上! それは反則です!」

「うるさい! お前らにはできないだろう」


 ライムントはヒヒヒと笑っている。


 本当におとなげない。


 私はライムントに抱っこされながら今日何回目かわからないため息をついた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る