第16話 トルデリーゼ、ライムントにマウントを取る

 私はクラウベルク王国に戻ってきた。ランチを食べたあと、魔法学校のサロンでトルデリーゼとお茶を飲んでいた。


「そういうことなのね」


 トルデリーゼは人の心を読むことができる。


 私は話すのが面倒な時や込み入った話の時は読んでもらっている。


「それにしても、自分から心を読んでなんて言う人はエデル以外にはいないとおもうわ」

「だって面倒なんだもん」


 私はへへへと笑う。


 それもトルデリーゼのことを信用しているから出来ることだ。


 トルデリーゼはパチンと指を鳴らした。


「とりあえず遮音魔法かけたわ。しかしクラッセン王国か。うちが潜入させている諜報員から情報をもらうことにしましょう。しかし、あの国第2王女なんていたかしら?」


 トルデリーゼは首を捻る。


「その王女が来たら私に会わせて。エデルの侍女にでも化けるわ。私なら簡単に見破れるわよ」

「確かに。その時はお願いするわ」


 私は頷いた。


「ねぇ、エデル、念話魔法って知ってる?」

「念話魔法?」


 なんだそれは? ほんとに魔法大国は色んな魔法がある。


「心の中で念じると話ができるのよ。だから念話。例えば私がエデルと念話契約をしたら、私たちは遠くに離れていても話ができるの」

「へえ〜。便利ね。リーゼ、念話契約は難しいの?」


 私はトルデリーゼに聞いてみた。トルデリーゼは笑っている。


「魔力がないとできないわ。でも、エデルの魔力なら問題ないわ」

「なら契約しましょう」

「OK。私の手に手を乗せて」


 トルデリーゼは私の手を取り、自分の手に重ねた。


 トルデリーゼの手から私の手に何かが流れてきた感じがした。そして私の何がトルデリーゼに流れた感じがした。


「これでOKよ」


 頭の中にトルデリーゼの声がした。お〜、凄い! 面白い。


「でも、普段は普通に声を出して話しましょう」

「わかったわ。そうだ、そういえば、ライからこんなのをもらったの」


 私は首にかかった魔石のペンダントを見せた。


「魔石ね」


 トルデリーゼはそう言うと魔石をじっと見た。


「これもその念話と似たようなものね。エデルに何かあった時にこれにエデルが意思を伝えればそれがライムント殿下に伝わり、ライムント殿下が移動魔法で飛んでくる設定がしてあるわ」


 ほ〜。ライムントはそんな魔法が使えるんだ。凄いな。


 トルデリーゼは悪戯っぽく笑った。


「呼んでみようか?」

「ライを?」

「予行演習よ。魔石を握って、ライ来てって言ってみて」


 私はトルデリーゼに言われたとおりにしてみた。


 光の粒子がキラキラと現れた。これは移動魔法で人が現れる時の現象だ。だんだん形になってきた。ライムントだ。


「エデル! 何かあったか!」


 ライムントは慌てているようだ。目の前にいる私とトルデリーゼを見て、何が起こったのかと目をぱちくりしている。


「こんにちは」


 私はライムントに向かってにっこり笑った。


「はい。え? 何?」


「ギャハハハハ」


 トルデリーゼは大爆笑だ。


「ライ、ごめんなさい。さっき、リーゼと念話の契約をしたの。その時にこの魔石の話になってね。リーゼが呼べると言うからつい。」

「そうそう、つい呼んじゃったのよね」


 私が可愛く謝ったのに、トルデリーゼが茶化すから、ライムントは機嫌が悪い。


 トルデリーゼは悪戯っぽく口角を上げた。


「エデルがライに会いたい〜って言うから、その魔石使えば呼べるよって教えたの。危険な時じゃなくても、愛するエデルが会いたがっているんだから緊急じゃない。ね、エデル?」

ん? それがベストならそうしておこう。

「そうなのか?」


 ライムントが私の顔を見た。


「うん」


 笑顔で頷く。トルデリーゼは悪い顔をしている。そしてライムントの方を見て口を開いた。


「じゃあ、私はお邪魔だから消えるわね。遮音魔法どうする? このままにしていちゃつく? いいけど、エデルは肉体はまだ7歳だから無体なことはダメよ」


 あらま。ライムントは真っ赤になっている。


「リーゼ!!」


 トルデリーゼはライムントに拳骨を落とされた。


◆◆◇


「そういえば、さっき念話の契約をしたと言っていたな」


 気持ちが落ち着いたライムントがトルデリーゼに聞く。


「そうよ。念話で話せたら楽でしょう」

「確かにそうだな。そこには気が付かなかった。エデル、私達も念話の契約をしよう」


 ライムントは私の手をとった。


「だめよ!」


 トルデリーゼはライムントの手を私の手から払いのけた。


「な、何をする!」

「エデルとライムント殿下は念話の契約はできないわ」


 ん? そうなのか? 私とライムントはダメなの?


「なぜ!」


 ライムントはトルデリーゼに詰め寄っている。


「だって、ライムント殿下とエデルは身内ではないし、結婚しているわけではない。主従関係でもない。もし契約したあとで、双方、違う人と結婚したら厄介なことになるわ。今は魔石でいいんじゃない? この魔石、ちょっと工夫をして、会話ができるようにすればいいわ。伝書バードより早いでしょ?」

「私とエデルは婚約している!」

「それは前のエデルガルト女王でしょ? このエデルとはちゃんと婚約している?」

「いや、それは……」


 ライムントは口篭った。確かに私達の婚約は不確定だ。トルデリーゼはまだ追い討ちをかけるようだ。


「きちんと婚約してからになさいませ」


 黙り込んでいたライムントは急に顔を上げた。


「しかし、お前もエデルと離れるかもしれないのではないか? それなのに念話の契約をしたのか?」

「私は生涯エデルガルト様に忠誠を誓ったの。留学が終わってもエデルについて行くわ」


 はぁ? そんなの初めて聞いたよ。


「ねっ、エデル」


 いやいや、ねっとか言われても……。


 とにかく午後の授業が始まるので、この辺りでこの話は終わりたい。


―カランカランカラン

 午後の授業を始める鐘が鳴った。


「では、この話は後ほどにいたしましょう」


 私はほほほと笑いながら教室に移動魔法で飛んだ。




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