第53話 クラッセン王の最期(ライムント視点)
皆、それぞれの持ち場についた。
私はリーヌスの合図で瞬間移動し、王城にいるクラッセンの背後に現れ、首を取る。
リーヌスは何食わぬ顔で王城に戻り、父や兄とともに行動し、私が首をとった後、皆の魔法を解く。皆、精神拘束魔法で従わされているだけだ。魔法が解けたら我に返るだろう。
トルデリーゼとダウムの影達は市井で平民に紛れ、クラッセン王の精神拘束魔法を解いていく。
エジンバラは兵士達に精神拘束魔法をかけ、国に戻す。
アーベルとローザリアは結界を魔法で強化する。
兄上とマティーアス様、太王太后アビゲイルはバウムガルテンの太王太后宮で魔道鏡を使い、それぞれの状況を見て、把握し、指示を送ることになった。
あくまで戦争はしない。狙うはクラッセン王の首ただ一つ。
私はリーヌスの合図を待った。
―ピコンピコンピコン
合図だ!
私は瞬間移動し、王城にいるクラッセン王の背後に出た。もちろん気配は消しているのでクラッセン王は気づかない。
クラッセン王って思ったより小さいな。勝手に大柄だと思い込んでいた。小太りで脂っこい感じだ。指輪やネックレスをたくさんしていて、服も金糸や銀糸の刺繍がしてあり、宝石も散りばめられ、全体にギラギラしている。
私は小さい頃から兄上と一緒にやっていた体術の得意技をかけた。
後ろから腕で首を絞めあげる。エデルガルトが体力、魔力増強魔法を掛けて援護射撃してくれているから、力は恐ろしく強くなっている。
リーヌスをチラッと見ると『絞め殺せ!』と目で言っている。
私は力を入れて、あるような、無いような微妙な首を力一杯絞め上げた。
クラッセン王は振り返ろうとしたが、もう首が回らない。
「だ…誰だ…」
「さぁな。地獄に行ってもらおうか」
「じ…地獄か…ゆ、油断した…ア…アウグス…ティーん…様に会える…か?」
「知らん。まぁ、地獄にいるだろうな」
「そうか…今度は…父子に…転生したい」
クラッセン王はふっと笑い、あっけなく息絶えた。
余程、アウグスティーンを敬愛していたのだな。転生などさせるか。
「神様、いるなら聞いてくれ! こいつとアウグスティーンを転生させるな! いいな!」
私は見えぬ神に叫んだ。
リーヌスが合図を送り、城内、市井共に精神拘束魔法が解かれる。そして、一斉に回復魔法がかけられた。
念の為にと、リーヌスはクラッセン王の亡骸に剣をたてた。
そして私はそのタイミングで大声で叫んだ。
「皆の者、よく聞け! クラッセン王は討ち取られ、皆にかけられていた魔法は解かれた。これからこの国はクラウベルクとバウムガルテン、そしてマティーアス・グロースクロイツ辺境伯が治める。依存のある者は声を上げろ! 私が討ち取る!」
誰も声をあげない。とりあえず私の役目はここまでだ。
「リーヌス、あとは任せた。私はエデルの元に戻る」
「はいよ。あとは俺とリーゼに任せてくれ。恋人のところに行く前にちょろっとあの美人のばーちゃんのところに行って、うちのじーちゃんに報告しておいてよ。魔道鏡で見てるだろうけど、ちゃんと聴きたいだろうし」
「承知した。では、またな」
私は消えた。
◇◇ ◇
「待っていたわ。うまく行ったわね」
太王太后様が微笑む。
「まったく、私の名前など言いよって。私は知らんぞ」
「あら、そんなわけにはいかないわ。あなたはクラッセン王国を建て直さなきゃだめよ。孫達を馬車馬のように使えばいいの」
太王太后様はくすくす笑う。マティーアス閣下はめんどくさそうに私を見た。
「アビィの入れ知恵か?」
私は黙って頷いた。
「はぁ〜。何がなんでも私を王にしたいらしいな」
「当たり前よ。あなたは王になる人なんだもの。これでやっと安心してあの世へいけるわ」
「馬鹿者! まだまだあの世には行かせん。手伝ってもらうぞ。なんせ建て直しにはバウムガルテンの名もあるからな」
マティーアス様もふっと笑う。
これでやっと終わったな。私は愛するエデルガルトの元に移動魔法で飛んだ。
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