第56話 最終話

 クラッセン王国が滅んでから5年が過ぎた。


 新しいクラッセン国は王を置かず、貴族も平民もなく、みんなでまつりごとをする代表を選び、その代表達が話し合って国を動かしていく国になった。


 5年の間はマティーマス大伯父様が中心となっていたが、大伯父様は今年引退する事になった。

 今日はマティーマス大伯父様の引退慰労パーティーだ。


 久しぶりに皆が集まった。


 少し前にライムントが瞬間移動できる魔道具を作り販売した。そのせいで魔法が使えない人も簡単に遠い場所にも行けるようになり、世界は近くなった。


「今日は私のために集まってくれてありがとう。私が引退したあとは、皆が協力し、良い国にしていってほしい。今日はゆっくり楽しんでくれ」


 大伯父様の挨拶が終わり、皆それぞれ楽しんでいる様だ。


 大伯父様とお祖母様のファーストダンスが始まった。


 私はあの後すぐ、ライムントと結婚し、クラウベルクに住んでいる。30歳を越えているので無理かもしれないと思っていた子宝にも恵まれ、義姉である、親友のベルミーナ王妃の補佐をしながら公爵夫人として多忙な日々を過ごしている。


 もうひとりの親友のトルデリーゼは大伯父様の孫の天才魔導士のリーヌスと結婚した。しかし、相変わらず私の護衛と我が家の家令として、うちに住み込みで働いている。リーヌスとは瞬間移動で会いたい時に会えばいいらしい。鬼才と天才はやはりぶっ飛んでいる。


 弟でバウムガルテン王国の国王であるアーベルは私のことは諦めてくれた様で、賢王妃のローザリアと共に平和なバウムガルテン王国を築いている。

 長女のエルネスティーネはクラウベルク王国の王太子ファビアンと婚約し、王太子妃教育のため、我が家に滞在してクラウベルクに留学中である。


 今のアーベルの野望は私の娘と自分の息子を結婚させることらしいが、残念なことに私の子供は男児ばかり、アーベルの願いは神に届くのだろうか?


 そして、エアハルトとも再会した。エアハルトは王配として幸せに暮らしている。王女の番で本当によかった。


◇◇ ◇


 うたた寝していると、私の目の前にアンジュが現れた。


「エデルガルトさん、ご無沙汰しています。天界の改革もかなり進みました。今は私が時の神として頑張っております」

「あの神様は?」

「あの人は仕事はできる人なのですが、やり過ぎました。左遷され、今は違う仕事をしています。今日は謝罪に参りました。あの神の気まぐれで本来の生き方ができず、申し訳ありませんでした。これから先、クラウベルク王国とバウムガルテン王国、そしてクラッセン王国の繁栄をお約束します。そしてもし、エデルガルトさんがお望みになるのでしたら、最後にもう一度だけ、お好きなところまで時を戻すことができます。いかがされますか?」


 もう一度だけか……。


 確かにエアハルトが魅了にかかる前に戻してもらったら……いや、マティーアス大伯父様がジジイに嵌められる前に戻ったら……。


 でも、そんな前まで戻すと、生まれるべき人が生まれなくなり、結ばれるべき者達が結ばれなくなる。やっぱりだめだな。


「いえ、今のままで大丈夫。今度はちゃんとおばあちゃんになるまで生きて、大往生してから生まれ変わるわ。次もまた、ライと出会って、今度も愛し合って結婚するわ。ダメかしら?」


 アンジュは優しく微笑んだ。


「では、今までのお詫びにその願いを叶えます。これから何度生まれ変わってもライムントさんがエデルガルトさんの番です。転生の神に伝えておきます」

「ありがとう」

「それでは、私はこれで、もうお会いすることはありません。あなた方が来られる時は天界はもっと、風通しのいい場所にしておきます」


 アンジュは礼をして消えた。


 目を開くと私の周りにはライムント、トルデリーゼ、ベルミーナ、ファビアン、ハウル、アロイス、エルネスティーネ、そして私の愛する息子達が心配そうに見つめている。

「エデル……」

「ははうえ」

「おはよう。みんなどうしたの?」

「エデル〜、もう勘弁してよ。また長い眠りについたのかと思ったじゃない」


 トルデリーゼリーゼが力一杯、私の手を握る。痛いんですけど。


「エデル、良かった」


 ライムントは泣いている。


「ははうえ、おっきしてください」


 息子のルートガーも泣いている。


「エデル、5日間も眠ったまんまだったのよ。心配したわ」


 ベルミーナももう片方の手を握る。


「私、アンジュと話していたの」


 ぼそっと言うと、トルデリーゼが目を見開いた。


「今度は何?」


 私はみんなにアンジュに言われたことを話した。


「そ、そうか。それはよかった」


 ライムントは顔を赤らめご満悦のようだ。


「だめよ。今度は私が男に生まれて、エデルと結婚するの」

「え〜! それなら私も!」


 トルデリーゼとベルミーナが私を取り合ってくれている。


「だめでしゅ! わたちがははうえとけっこんしましゅ!」


 ルートガーまで参戦か。


「だめだめ、エデルは神様と約束したからね。エデルは未来永劫私の番なんだとさ」


 ライムントがヘラヘラ笑う。


 平和だな。少し前までいろんなことがあったのに、今はもうはじめから幸せだった様な気がする。


 結局私は望み通り、恋をして、愛し愛されて、結婚し、妻として、母として、そしてエデルガルトとして幸せに生きている。私の腕の中には乳母のメアリーから渡されたルートガーの弟達、双子の息子達が幸せそうに眠っている。


 この子達が大人になり、子や孫に繋げる時代になっても平和で皆が幸せに暮らせる世界じゃなきゃいけない。何度生まれ変わっても平和な世界でないといけない。


 そのために私は頑張ろう。


 ミアに刺された時に願ったことを神様が勘違いした。記憶を持ったままアーベルの娘に生まれた時も、元の私に戻った時にも、短い間に不思議な体験をした。でも結局は望み通りの生活が待っていた。


 アンジュはあんなことを言っていたが、私は結構あのへんてこりんな神様に感謝している。あの神様のいろんな視点で本来なら見えなかったものが見えたのだから。


 何度生まれ変わっても女王になんかならない。その気持ちは今でも変わらない。もちろん男に生まれ変わっても国王にはならない。

 私は平凡な幸せが望みなの。


 ねぇ、アンジュ。あなたが偉くなったら、争いのない世界にしてね。世界中の人が皆、幸せでお互いを思いやれるような世界にね。


 もちろん私も手伝うわよ。


「エデル、愛してる」

「私もライを愛してるわ」


 あの時、ベルミーナから受け取ったペンダントは今も、この世界でも私の胸で輝いている。あの世界の私とライムントの分も私達は幸せにならなきゃいけないと思う。


 全ての人が愛し愛され、平和な世界でありますように。




***

これにて終了です。

皆さんありがとうございました。


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神様、奇跡を起こして!弟の娘に生まれ変わった女王は新しい人生を楽しみたいと思うが周りがそれを許してくれそうもない 金峯蓮華 @lehua327

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