第55話 幼馴染と同棲15

「あのさ、澪ねぇちゃん? まだ怒ってる?」

「‥‥‥‥ふん!」


 紅葉たちと待ち合わせをしている駅に向かいながら、俺はなんとか澪ねぇちゃんの機嫌を取ろうとしているが、澪ねぇちゃんは、ずっとこんな感じで、会話をするどころか、目も合わせてくれない。


 理由はわかりきっている。さっき、偶然とはいえ、澪ねぇちゃんの着替えを覗いてしまったからだろう。それからというもの、家の中でも、こうして並んで歩いている今でさえも、澪ねぇちゃんは口を開いてくれない。


「澪ねぇちゃん。どうしたら機嫌直してくれるかな」

「知らない。それが分からないから航くんはダメなんだよ」


 なんとか口は開いてくれたものの、相変わらず態度は素っ気ないまま。目は合わせてくれないし、なんとなく言葉の節々にとげを感じる。


(どうしようかなぁ‥‥これから遊びに行くし、紅葉たちも一緒に来るから、どうにかしてご機嫌にさせないとなぁ‥‥どうしたらいいのやら)


 脳内でいろいろ考えてみるが、何も言い案は浮かんでこない。定期的に拗ねることはあったけど、ここまで口をきいてもらえないのは初めてだな‥‥結構ショックだ。


(‥‥あ、これならいけるかな‥‥)


 突如として俺の頭の中に一つの打開策が浮かぶ。過去の経験から、結構期待できそうな策であるのは間違いない。これで機嫌が直ることを祈ろう。


「‥‥?」


 俺はすっと、澪ねぇちゃんの前に回り込む。それを見た澪ねぇちゃんは、少し不思議そうな顔を浮かべる。


。俺が悪かったからさ、機嫌直してくれないかな? 俺が言うのも変だけど、あんまり拗ねてると、せっかくのデートが台無しになっちゃうし」


 頭を撫でながらそう言うと、不思議そうな顔を浮かべていた澪ねぇちゃんは、ボッと顔を赤くし、そのまま顔を逸らしてしまう。


「あれ、澪ねぇちゃん?」

「‥‥‥‥‥‥」


 呼びかけるも、返事は返ってこない。もしかして、まだ機嫌が直ってない‥‥今の失敗だったかな‥‥最悪、さらに機嫌悪くなっちゃったりして。もしかして、今顔が赤くなったのって、それだけ怒らせちゃったってこと?!


「わぁぁぁぁ! ごめん澪ねぇちゃん! まじでごめん! 悪気はなかったんだよ。決して、澪ねぇちゃんのこと怒らせようなんて考えてなくって。俺はただ、澪ねぇちゃんに機嫌を直してほしくて‥‥ええっと、とにかくほんとごめんなさい!」


 俺はめちゃめちゃ早口でまくしたてた後、勢いよく腰を90度に折って、頭を下げる。澪ねぇちゃんに機嫌を直してもらおうとしてやったことが、裏目に出てしまったかもしれない‥‥。


「ぷっ‥‥アハハ!」

「え‥‥?」


 しばらく沈黙が続いた後、突然澪ねぇちゃんが笑い出し、俺は思わず顔を上げる。そんなに笑うようなおもしろいことがあったかな?


「別に私、怒ったわけじゃないんだよ?」

「え?」


 澪ねぇちゃんは、目元の涙を拭いながらそう言う。怒ってないって‥‥じゃあなんで、顔を赤くしたり、逸らしたりしたんだろう。


「それは‥‥だって‥‥急に名前で呼ばれたりして恥ずかしかったから‥‥」


(そういうことかぁ‥‥‥‥)


 俺は澪ねぇちゃんの言葉を聞いて、思わず天を仰ぐ。何も言わずに目を逸らされたから、怒ってるのかと思ってたけど、恥ずかしがってただけか‥‥。



(そういえば、澪ねぇちゃんって、照れると結構顔赤くなるし、顔逸らしたりで、割とわかりやすいよなぁ)


「航くん、失礼なこと考えてるでしょ」

「ソンナコトナイヨ」


 分かりやすいのは俺も一緒か。

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