第24話 幼馴染と服選び

「うーん‥‥これとこれ‥‥いやこっちの方がいいかな‥‥」


 澪ねぇちゃんが俺の服を見繕い始めてだいたい20分くらい経った。その間、澪ねぇちゃんが、あーでもないこーでもないといった感じで、ずっと頭を悩ませている。俺としては、そこまでして服を選んでもらいたいわけでもないので、やんわり断ろうかと思ったら「私がやりたいからやってるの。航くんは大人しく待ってて」と言われてしまった。


「航くんはやっぱり大人っぽい感じの服が似合うよね。今日のコーデもすごく大人っぽくてかっこいいし。だとするとやっぱりこっちかなぁ‥‥」


 澪ねぇちゃんにとってはただの独り言なのだろうが、俺はその言葉を聞いて少しうれしくなった。

『澪ねぇちゃんに見合うように』と思って、できるだけ大人っぽいコーデにしてみたのだが、それが澪ねぇちゃんに分かってもらえて、しかもかっこいいとまで言われた。思い返せば、澪ねぇちゃんに今日のコーデについて何も言われてなかったが、心の中ではそうやって思ってくれていたことが、俺は嬉しかった。


「よし! 決めた! 航くん、ちょっとこれ着てみて!」

「わかった。ありがと」


 俺が感傷に浸っている間に、澪ねぇちゃんが服を選び終えたらしく、いくつかのアイテムを俺に渡してくる。俺はそのアイテムを受け取って、試着室へと移動し、澪ねぇちゃんの選んでくれたアイテムを軽く確認してみる。服のサイズを伝えた覚えはなかったのだが、なぜかサイズはぴったりだった。まぁ、多分母さんに聞いたりでもしたんだろう。


(おっと‥‥早く着替えないとな)


 あんまり澪ねぇちゃんを待たせるわけにもいかないので、俺は素早く着替える。そうして、着替え終わった後、鏡で自分の姿を確認する。


 パッと見おかしいところはなく、着ていて違和感などは感じない。今回澪ねぇちゃんが選んでくれた服は、黒の半そでシャツの中に、ライトグレーのサマーニットを着込み、下は黒のテーパードパンツを合わせたもの。これから暑くなってくる季節に合わせた物を選んでくれたようだ。

 澪ねぇちゃんが選んだ服だし、間違いはないと思ってはいたが、服に対して自分が見合うかどうかはわからなかったので、ひとまず安心する。


「澪ねぇちゃんいる?」

「うん。いるよー」

「着替え終わったからカーテン開けるね」


 俺はそう言うと、シャッと音を鳴らしながらカーテンを開ける。


「どうかな?」


 俺がそう聞くと、目の前にいた澪ねぇちゃんは、なぜか固まったまま動かない。何か変なところでもあっただろうか。


「澪ねぇちゃん?」


 俺が呼びかけると、澪ねぇちゃんはようやく口を開く。


「か‥‥‥‥‥‥‥‥」

「か?」

「かっこいいー!!」


 興奮した様子でそう叫ぶ澪ねぇちゃん。お店の中だから声は抑えているものの、やっぱりそれなりに声が大きかったようで、周りにいた別のお客さんは、こっちをぎょっとした様子で見てくる。


「航くんちょーかっこいいよ! やっぱりビジュがいいからかな!? 航くんがより一層輝いて見えるよ! 絶対似合うとは思ってたけど、さすがにここまで似合うなんて予想外だよ!」

「わ、わかった。そう言ってくれるのは嬉しいけど、もうちょっと声小さくしてくれない? ほかのお客さんの迷惑になっちゃうから」


 俺がそう宥めると、澪ねぇちゃんはハッとした様子で口を抑え、周りのお客さんにぺこぺこと頭を下げる。

 けど、澪ねぇちゃんの大声に迷惑そうな顔をしているお客さんは一人もいないし、なぜかニコニコとしてこちらを見つめている。一体何だというのか‥‥。


「航くん! それ買っちゃおう! お金は私が払うから!」


 さっきよりは声を抑えて話しかけてくる澪ねぇちゃんだけど、興奮は収まってない様子で、俺にすごい勢いで迫ってくる。


「そこまで言うなら買うけど‥‥お金はさすがに自分で払うよ」

「だめ!私が選んだんだし! それに、今日は航くんにもらってばっかりだから! ここでちゃんとお返しさせて! 担任命令だよ!」


 そこまで真剣に言われると、断るに断れないので、大人しく従うことにする。まぁ、なんだか澪ねぇちゃんが嬉しそうにしているし、それでいいかな。

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