第16話 幼馴染と約束

「澪ねぇちゃん‥‥?」

「航くんのばか!ふん!」


 さてどうしたものか。


 一応、澪ねぇちゃんの目には涙の跡はないから、泣いているわけじゃないのはわかったんだが、完全に機嫌を損ねてしまったらしく、さっきからずっとそっぽを向いて、可愛らしい罵倒をしてくる。ゴールデンウィークに遊びに行くことがばれたら、何かしら、澪ねぇちゃんに言われるだろうなというのは予想していたが、正直、ここまで機嫌を損ねられるのは予想外だった。


「あの、澪ねぇちゃん?どうしたら機嫌を直してくれますか?」

「私とも遊んで」

「いや‥‥だからそれは‥‥澪ねぇちゃんの立場的に危ういというか‥‥」

「じゃーもう知らない!」


 さっきからずっとこの繰り返しである。澪ねぇちゃんは「私とも遊んで」の一点張りで、なかなか許してくれそうにない。


 単純にどこかに出かけて遊ぶだけなら問題はないのだろうが、澪ねぇちゃんの立場が問題だ。もし、出かけた先でクラスメイトなどに出会った場合、「二人ってもしかして‥‥」となるのは目に見えている。その話が上層部に行けば、澪ねぇちゃんが職を失うのは必然だろう。そういったことも考えて、俺は別の方法がないかと模索しているのだが、一向に思いつく気はしない。


「‥‥じゃーまた今度うちにおいでよ。それで許してくれない?」

「私は『おでかけ』がしたいの!航くんと一緒に!!」


 そういってまたもや、俺の提案は拒否される。ここまで言っても澪ねぇちゃんが納得してくれないのは初めてだ。どうやら、俺が思っているよりも、相当お怒りの様子である。


 もし。ここで俺が「もういい。帰る」といった雰囲気を出せば、おそらく澪ねぇちゃんは機嫌を直してくれると思う。けど、それはなんだか、澪ねぇちゃんの優しさというか、俺に向けてくれている好意を利用しているような気がするので、あんまりしたくない。できるだけ穏便に解決したいのだ。


 まぁただ、そうなると俺にできることは限られてくるわけで‥‥。


「‥‥わかった。一緒にどこか出かけようか」

「ほんと‥‥?」

「うん。ほんとだよ」

「えへへぇ‥‥やった!」


 あぁもう、可愛いなちくしょう。


 俺の言葉に、ふにゃっとした笑顔で喜ぶ澪ねぇちゃん。先生として振舞っているときとはまた違ったベクトルで魅力的だ。

 先生としてのスイッチが入っているときは美人で、こういう時は小動物のように可愛らしくなるのだから、そのギャップがすごい。この反応をされるだけで、なんでも許せてしまう。


「ねぇねぇ!いつお出かけしようか!明日?!明後日?!」

「落ち着いて。明日も明後日も学校だよ」


 さっきまですごく機嫌が悪かったのに、それを微塵も感じさせず、興奮した様子の澪ねぇちゃん。

 そんな澪ねぇちゃんをなだめつつ、俺は少し考えを巡らせる。


「俺は基本いつでも空いてるけど、澪ねぇちゃんはどう?社会人だし、そんな簡単には予定、空けられないんじゃない?」

「ううん、大丈夫!今週末は空いてるから、今週末お出かけしよ!」

「わかった。けど、お出かけってどこに行くの?」


 俺がそう聞くと、澪ねぇちゃんは何やら得意げな様子で語りだす。


「ふふーん、実はもう目星は付いてるんだー!」

「そうなの?」

「うん! けど、航くんには内緒ね!」

「え、どうして?」

「びっくりさせたいから!」


 そういってちょっといたずらっぽく笑う澪ねぇちゃん。そんな些細なことでも、ちょっとだけドキッとしてしまうのは、やっぱり澪ねぇちゃんが魅力的だからだろうか。


 どちらにせよ、澪ねぇちゃんと出かけたりするのは初めてだから、やっぱり楽しみではある。そう思うと、最初に俺が危惧していた「クラスメイトに遭遇したら」なんてことは、全然気にしなくなっていて、「なんとかなるだろ」と楽観的になっていた。


「今から楽しみにしておくよ。その前に、まずは学校を頑張らないとだけどね」

「うん! 私も今から楽しみだよ!」


 澪ねぇちゃんの笑顔を見ると、なんだか元気が湧いてきた。これなら、学校も頑張れそうだ。









 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 次話、ドキドキのデート編です!!

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