第21話 幼馴染が落ち込んだ
俺と澪ねぇちゃん、日暮と暁の4人の間に沈黙が流れる。周りのお客さんたちは皆、にぎやかで楽しそうなのに、俺たちの机だけ、場違いすぎるくらいに、雰囲気が暗い。
「…………………………………」
この雰囲気を作り出した張本人の澪ねぇちゃんは、ズーンという効果音が付きそうなほど落ち込んでいるし、日暮と暁は、ずっとポカンと口を開けたまま固まっている。とりあえず、俺がこの状況を何とかするしかないようだ。
「といっても、どうしたらいいのやら……」
とりあえず、俺は「パン!」と手を叩いてみる。がら3人とも正気に戻る様子は無い。
仕方ない、1人ずつ試してみるか。
「おーい。日暮〜。戻ってこーい」
「…あ、あぁ、悪い。あまりのことに放心しちまってた」
肩を軽く叩きながら呼びかけると、日暮はようやく喋り出す。とりあえず、1人帰ってきた。
「なぁ、暁も放心中みたいだし、ちょっと心をここにもどしてやってくれ。俺は澪ねぇちゃんを落ち着かせるからさ」
そう言って澪ねぇちゃんの方を見ると、「やってしまった……あんなこと言うつもり無かったのに……」とブツブツ言っている。ひとまず、暁のことは日暮に任せて、俺は澪ねぇちゃんを何とかしないと……。
「澪ねぇちゃん? 大丈夫?」
「航くん、私はとんでもないことをしてしまったの。いっそ、殺してくれないかしら?」
「なんで?! しないよそんなこと!?」
よほど落ち込んでいるのか、とんでもないことを言い出した澪ねぇちゃんをなだめつつ、日暮の方を向いてみる。上手くいっているだろうか。
「日暮。そっちは大丈b……って、なにしてんの……?」
俺が日暮たちの方を見ると、2人は耳まで真っ赤して、目を合わせないようにしている。
けど、日暮の手は、暁の肩を叩いたためか、暁の肩に置かれたままになっており、「キスでもしてたの?」ってなってしまう。
「いや……その…、若葉を正気に戻すとこまでは良かったんだが……正気に戻った若葉と目が合って……それで、さっき日向先生が言ったこと思い出しちまって……」
消え入りそうな声でそう捲したてる日暮。日暮と紅月は、さっき澪ねぇちゃんが暴露してしまった「両片思い」の関係を思い出してしまい、恥ずかしさから目を合わせないようにしているみたいだ。
「ほんとごめんなさい! 全く言うつもりはなかったのだけど、つい口を滑らせちゃって……」
ちょうど復活したらしい澪ねぇちゃんが、土下座をするかのような勢いで頭を下げる。勢いが強すぎて机に頭をぶつけたらしく、「痛い……」とおでこを抑えながら涙目になっている。
「あの……俺たちはそこまで気にしてないので……。頭を下げるのはやめてください」
気にしてないってのはさすがに嘘だろうけど、日暮の言葉に、澪ねぇちゃんは下げ続けていた頭をゆっくりと上げる。
「妖崎。少し2人きりにさせてくれるか? このテーブルはお前たちで使ってていいから」
「あ、あぁ。わかった」
わりぃ。と言い残し、日暮は暁を連れて人混みの中へと消えていく。あの2人のことも心配だが、今は目の絵の澪ねぇちゃんの元気を、どうやって取り戻すかを考えないとな。
「教え子に迷惑かけるなんて……教師失格だ……。引退しよう……」
うん、とりあえず洒落にならないこと言うのやめようね?
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