第20話 幼馴染と神のいたずら
澪ねぇちゃんにぬいぐるみをプレゼントした後、ちょうどいい時間だったのもあって、ショッピングモール内のフードコートで昼食をとることにした。
「うーん、やっぱり休日の昼間だし、混んでるねぇ」
「そうだね‥‥席、見つかるかな」
このモールのフードコートは、ハンバーガーやうどん、ラーメンにカレーなど、様々なお店が並んでいて、各々好きなものを注文し、好きな席で食べるという形なのだが、休日のお昼ご飯時とあって、フードコート内は、家族連れやカップルなどで、人がごった返している。二人分の席を見つけるだけでもかなり苦労しそうだ。
「やっぱりなかなか見つからないね‥‥」
「うん‥‥あ、あのテーブル空きそうじゃない?」
そう言って澪ねぇちゃんが指さした方を見ると、高校生カップルのような2人が、ちょうど荷物をまとめて席を立とうとしているところだった。
「すいません。このテーブル空くようでしたら、僕たちが使っても構わないでしょうか?」
「あぁ、全然いいっすよ‥‥え?」
「え‥‥?」
俺の声に振り向いた男の人が、俺の方を向いて驚いたような声をあげるのと同時に、俺も声をかけた人の顔を見て、口を開いた状態で思考停止する。
その数秒後、目の前の男の人と俺の声が重なった。
「日暮‥‥‥‥‥‥?」
「妖崎‥‥‥‥‥‥?」
神のいたずらか、俺が声をかけたのは、まさかのクラスメイトの日暮 紅葉だった。そして、日暮の隣にいた女の人は、言わずもがなあの人で――――
「あれ、妖崎くんじゃん! こんなとこで会うなんて偶然だね! ところで、その隣にいる女の人は‥‥ってえぇぇ! もしかして、クレの担任の先生の日向先生?!
なんで妖崎くんと一緒に?!」
―――といった感じで、暁は、俺の隣にいた澪ねぇちゃんに気付いたようで、口をあんぐりとさせて固まっている。
さて、この状況‥‥どうやって突破しようか‥‥。
「えっと、いろいろ聞きたいことはあるんだが‥‥とりあえずなんか注文してこいよ。腹、減ってるだろうし」
4人全員が固まってしまった後、俺は適当に言い訳して、その場を離れようとしたんだが、それを日暮たちが許してくれるはずもなく、そのまま4人掛けのテーブルに、向かい合うように座らされた。
そして、数分の沈黙を破ったのは日暮で、俺と澪ねぇちゃんに、食事を注文するように促す。
ちなみに澪ねぇちゃんは、さっきから一言も発さずに、ずっと俯いたまま、日暮たちと目を合わせようとしない。おそらく、俺と同じでこの状況にパニックになってしまっているのだろう。
「あ、あぁ分かった‥‥行こうか、澪ねぇちゃん」
微動だにしない澪ねぇちゃんをなんとか立ち上がらせ、俺は適当に店を見繕い、何を食べるかを考える。
後ろから「澪ねぇちゃんって‥‥ほんとにどういう関係なんだよ‥‥」といった、日暮のつぶやきも聞こえてきたが、とりあえず澪ねぇちゃんの正気を取り戻させることを優先する。
「澪ねぇちゃん? 大丈夫?」
「どど、どうしよ航くん。日暮くんたちに見つかっちゃった。とと、とりあえず、地面に頭こすりつけるべきかな?」
「落ち着いて澪ねぇちゃん。そんなことしなくても大丈夫だから。何か美味しいもの食べて、一旦落ち着こう」
未だにパニック状態で、とんでもないことを言っている澪ねぇちゃんをなだめつつ。俺はハンバーガーのお店に向かう。そこで二人分のハンバーガーセットを頼み、日暮たちの待っている席へと戻る。
「とりあえず‥‥一つずつ疑問を片づけていこうか。まず、妖崎。お前の隣にいるのは、俺らの担任の日向先生で間違いないか?」
澪ねぇちゃんの方をちらりと一瞥すると、俯いたまま言葉を発しようとしない。とりあえず、ここは俺が答えた方がいいか。
「あぁ、間違いないよ。1ーC担任の日向 澪先生だ」
「そうか‥‥。じゃあ、なんでお前はその日向先生と一緒にショッピングモールに来てるんだ?」
俺は、誤魔化すことを諦め、すべてを正直に話すことにする。
「実は、俺と日向先生は幼馴染なんだ。俺が小学生になる直前に一度離れ離れになっちゃったんだけど、この前の入学式で再会したんだ」
「なるほどな‥‥久しぶりに会った幼馴染とショッピングモールデートってわけか‥‥けどよ」
日暮はいったんそこで言葉を区切り、未だ俯いたままの澪ねぇちゃんの方をチラリと一瞥し、また俺の方へと視線を向ける。
「お前ら、自分たちの立場分かってんのか? 教師と生徒だぞ? ほかの人にバレたらどうするつもりなんだ?」
「それは―――」
「あ、あの!」
日暮の問いかけに、それまでずっと黙っていた澪ねぇちゃんが、顔を上げて口を開く。
「今回のお出かけは私から提案したの! 航くんは優しいから、私の我儘に付き合ってくれたけど、航くんは最初からこうなることも考えて、断ってたの! なのに、私が無理やり付き合わせちゃったから‥‥だから、悪いのは全部私なの!」
一息でそういう澪ねぇちゃんに俺は慌てて首を振る。
「いやいや、最終的に承諾したのは俺だし、責任は俺にもあるから!」
「ううん、悪いのは全部私! 全責任は私にあるから!」
あーだこーだと俺と澪ねぇちゃんで口論を繰り広げていると、向かいに座っていた日暮と暁がクスクスと笑い出す。
「日向先生と妖崎、めっちゃ仲いいっすね。ほんとについ最近まで離れ離れだったんすか?」
「それ思った! 久しぶりに会ったとは思えないくらい仲良しなんだもん! 私たちに負けないくらいじゃない?」
笑いながらそう言う日暮に、暁も賛同する。
「お互いがお互いを庇いあうなんて、なかなかできることじゃねーよ。つまり、お前らがお互いのことを何よりも大切に思ってる証拠だ。あ、あと日向先生」
「な、なにかな?」
「別に俺たちは、日向先生と航のこと、周りに暴露してやろうなんて一切思ってませんよ。ただ純粋に、なんで二人が一緒にいたのか、気になってただけっす」
日暮の言葉に暁もウンウンとうなずいている。俺と澪ねぇちゃんは、その様子を見てほっと胸をなでおろす。これで、澪ねぇちゃんが責任を負って、教師を辞めるなんてことにはならなくて済みそうだ。
「それにしても、日向先生、生徒をデートに誘うなんて、かなり大胆ですね!」
「デッ‥‥?! そ、そそそんなんじゃないわよ! ただ私は行きたいところがあるから着いてきてって言っただけで‥‥」
暁の言葉に、顔を赤らめながらそう言う澪ねぇちゃん。けど、今度は、日暮がニヤニヤしだす。
「ほ~ん? それなのに、わざわざリスクを負って、妖崎のことを誘う必要はあったんすかねぇ?」
「あ、あぁ‥‥」
情けない声をあげながら、ぷしゅ~と顔全体を赤くさせ、縮こまる澪ねぇちゃん。その様子を見て、日暮と暁は笑っているし、暁に至っては「澪ちゃん、可愛い~」なんて言っている。なんだ澪ちゃんて。
「っ・・・でもでも!」
そのうち、恥ずかしさから復活したらしい澪ねぇちゃんが顔を上げる。
「あなたたちだって、デートじゃないの! 幼馴染らしいけど、私たちと状況は一緒でしょ! それに、あなたたちが両片思いなの、私、知ってるんだからね!」
「「「…………………は?」」」
俺と日暮、暁の困惑した声が重なる。
おいおい、この幼馴染は何を言い出してるんだ・・・・・。
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いろいろ書いてたら、過去最大ぼりゅーむになっちゃった‥‥。
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