第19話 幼馴染とプレゼント

「ここから少し歩くよー」


 電車で1時間揺られた後、澪ねぇちゃんに着いて、歩き始める。


「どれくらい歩くの?」

「うーん、30分くらいかなぁ」


 どうやら駅から結構離れた場所のようだ。


「あ、そういえば」

「ん? どうかしたの?」

「今日の澪ねぇちゃん、すっごく可愛いと思うよ」

「ほんと?! そう言ってくれるのすごく嬉しい!」


 ナンパや、電車内でのいざこざで、言うのが遅れてしまっていたけど、俺は改めて澪ねぇちゃんのことを褒める。


 今日の澪ねぇちゃんは、少しオーバー気味の白シャツに、黒のクロップドパンツ、黒のレザーサンダル、黒のベレー帽をかぶっている。

 上品なかっこよさを出しつつも、サンダルでラフさも感じさせる、まさに大人といったような格好だ。


「結構頑張って服選んだんだよねぇ。だから航くんにそう言ってもらえるとすごく嬉しいよ」

 そう言ってその場でクルクルと回って見せる澪ねぇちゃん。なんだかちょっと子供っぽさを感じさせるが、それも可愛らしいので全く気にならない。


「あー! 航くん、なんかニヤニヤしてる~。何がおかしいんですか~?」

「ううん、クルクル回ってる澪ねぇちゃんが可愛いなって思って」

「~っ/// 急にそんなこと言わないの! ばか!」

「あれ、澪ねぇちゃん照れてるの?」

「うるさい! 照れてない! いくよ!」


 そう言って、ずんずんと歩いていってしまう澪ねぇちゃん。

(そう言うところが可愛いんだよなぁ)

 俺は、そんなことを考えていたが、それも言ったら澪ねぇちゃんがさらにふてくされてしまうので、自分の心の中にとどめて、急ぎ足で澪ねぇちゃんの背中を追いかけた。



「よし、着いたよ! ここが私が来たかった場所だよ!」

「ここか‥‥」

 駅から歩いて約30分、澪ねぇちゃんに連れられてきた場所は、ここら辺では珍しい、かなり大型のショッピングモールだった。


「この場所、私が小さい頃にできたけど、すぐに引っ越しちゃったから、来たことなかったんだよねぇ」

「あぁ、そういえば、この場所ができたのは澪ねぇちゃんが引っ越す直前だったっけ」


 このショッピングモールはかなり新しい場所で、開業してから10年も経っていない。澪ねぇちゃんは、ここができてすぐに引っ越しちゃったから、今日くる場所に選んだのも納得できる。


「なにかしたいこととかあるの?」

「うーん、特に決めてないから、適当にブラブラしちゃお!」

「わかった」


 鼻歌を歌いながらモールの中へと入っていく澪ねぇちゃん。どうやらかなり楽しみにしていたようだ。

 だったら俺がやることは一つ。澪ねぇちゃんが楽しめるように、最大限サポートすることだ。

(さすがにさっきみたいなナンパはないと思うけど‥‥。変なことに巻き込まれないといいな)



「航くん見てこれ! めっちゃ可愛くない?!」


 最初に訪れた雑貨屋で澪ねぇちゃんが俺に見せてきたのが、最近SNSとかで人気にが出てきている、いろんな動物をモチーフにしたキャラが出てくる、ほのぼの日常アニメのキャラクターぬいぐるみだ。


「澪ねぇちゃん、このキャラクター好きなの?」

「うん! あのゆったりとした喋り方とか、キャラデザインとかすごく好きなんだ! ほぼ毎日見てるよ!」


 そう言って語る澪ねぇちゃんは、この状況を純粋に楽しんでいるようで、子どもっぽさを感じさせるあどけない笑顔を浮かべている。


「あ~ん、可愛いよ~! このままお持ち帰りしてもいいんだけど‥‥まだ1軒目だしなぁ‥‥」


 澪ねぇちゃんは、ぬいぐるみに頬ずりをして、すごくかわいがっているようだが、まだ買うかどうかを迷っている様子。

 これからいろいろなことにお金を使うことを考えて、ぬいぐるみを買うことを迷っている様子。


「澪ねぇちゃん、そのぬいぐるみ、ちょっと貸してくれない?」

「え? いいけど‥‥航くんもこのぬいぐるみ好きなの?」

「今好きになった」

「はぇ?」


 澪ねぇちゃんの問いかけを適当に誤魔化し(?)つつ、俺は澪ねぇちゃんからぬいぐるみを受け取って、それをとある場所へ持っていく。


「すいません、これください」

「え? え?」


 後ろからついてきた澪ねぇちゃんが困惑した声を上げるが、俺はそれを無視して、レジで会計をする。


「はいこれ、どうぞ」

「いやいや?! 受け取れないよ!」


 俺が買ったぬいぐるみを澪ねぇちゃんに渡そうとすると、澪ねぇちゃんはそれを拒否する。


「俺が澪ねぇちゃんにプレゼントしたいんだ。俺からのプレゼント受け取ってくれない?」

「うぐぅ‥‥それはずるいじゃん」


 俺の言葉に澪ねぇちゃんは、渋々といった感じでぬいぐるみを受け取ってくれる。けど、その頬は緩んでいるし、喜んでくれていることは間違いないだろう。その顔を見るだけで、プレゼントしてよかったと思える。

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