第18話 幼馴染と電車

「ねぇ! もう一回澪って呼んでってば!」

「無理だって。あれは、その場の雰囲気でそう言っただけだから‥‥。さすがに普段から呼び捨てはできないよ」

「じゃあもう一回ナンパされたらいいの?」

「なんでそうなるの! 俺の心臓がもたないからやめて!」

「じゃあ澪って呼んでよ!」


 さっきからこの押し問答をひたすらに繰り返している。しかも、場所は待ち合わせ場所の駅前広場から動いていないため、いろいろな人の好奇の視線にさらされている。


「とりあえず、ここはいろんな人の迷惑になっちゃうから場所を移動しよう?澪ねぇちゃん、行きたいところがあるんでしょ?」

「むぅ‥‥はぐらかされた気がするけど、しょうがない。いったん許してあげよう」


 苦し紛れにそう言ったのだが、澪ねぇちゃんは、渋々ながらも納得してくれたようだ。そのことに、俺はひとまず安心する。


「あ、ヤバ。もう電車来ちゃうじゃん! 航くん、交通系のカード持ってる?」

「あ、うん。持ってる」

「よし。じゃあ切符を買う必要はないね。ちょっとだけ急ごう!」


 そう言って、澪ねぇちゃんは、俺の手を引っ張り改札へと急ぎ足で向かっていく。一瞬、ドキッっとしたが、すぐに気持ちを落ち着かせ、遅れないように、俺も急ぎ足で澪ねぇちゃんに着いていく。


「ふぅ。案外余裕で間に合ったね!」

「そうだね。けど、これからどこへ行くの?」


 二人で目的の電車に乗り、俺はずっと気になっていたことを聞く。出かける約束をしたときは、行先を教えてもらえなかったけど、もうそろそろ教えてくれてもいいんじゃないだろうか。


「だーめ。まだ秘密。その場所に着くまではね」

「そこをなんとか。また澪って呼ぶからさ」

「うんわかった! 今から行く場所はね―――」

「いやまってまって。チョロすぎるよ」


 俺は冗談のつもりだったのだが、澪ねぇちゃんは躊躇することなくすぐに行先を教えようとする。さすがにそんな簡単にいくとは思ってなかったので、慌てて待ったをかける。


「さすがにチョロすぎてびっくりしたよ。いやまぁ、呼ばないけどさ」

「えー。呼んでくれないの? じゃあ私も行先教えてあげないもんね!」


 そういって頬を膨らませてそっぽを向く澪ねぇちゃん。まぁ、どうせ行ったらわかるわけだし、今ここで無理に聞く必要もないだろう。


「そう言えば、私たちが再開したのも電車の中だったね」

「あの時は、まだ澪ねぇちゃんってことに気付いてなかったけどね」

「私、気づいて欲しかったからわざわざ隣に座ったのになぁ」

「あはは。ごめんごめん」


 そんな会話を繰り広げつつ、俺と澪ねぇちゃんは電車に揺られる。

 思えば、澪ねぇちゃんと再会してから、既に1週間が経とうとしている。まぁ、澪ねぇちゃんと再会してからというものの、いろいろな出来事が起き過ぎたせいで、普段より時間の流れを早く感じているのかもしれない。


「航くんは、高校生活どんな感じ? お勉強とか、ついていけてる?」

「まぁ、今のところは‥‥。それこそ澪ねぇちゃんもどうなの? 社会人1年目だけど」

「うーん、まぁ大変ではあるけど、結構楽しんでるよ。教員生活。航くんもいるしね」


 そう言ってパチンとウインクをしてくる澪ねぇちゃん。この人は、ためらいなくこういうことを言ってくるからたちが悪い。本当にこれで、今まで彼氏ができたことないんだろうか。


「そういえば、澪ねぇちゃん。日暮と暁のこと、何もしなくてもあの二人は大丈夫って言ってたけど、何か根拠があるの?」


 俺はふと思いついたことを聞いてみる。澪ねぇちゃんが言うなら・・・と思って、何も気にしていなかったが、冷静に考えれば、その根拠が気になってくる。


「ん~。しいて言うなら女の勘? 私にはあの二人が幸せになるビジョンが見えるんだよね」

「澪ねぇちゃんは、恋愛経験ないのに、そういうのわかるものなの?」

「うるさい!」


 ただ気になったことを聞いただけなのに、頭を軽くはたかれた。

 ほんと、澪ねぇちゃんの地雷はどこにあるかわかんないや‥‥。

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