第31話 幼馴染と小悪魔
5月が近づいてきて、段々と気温が上がり、温かくなってきた週末。俺は、前回澪ねぇちゃんと待ち合わせをした駅で、日暮、暁、そして澪ねぇちゃんのことを待っていた。
日暮に脅されて、仕方なく今日のダブルデート(?)を承諾したわけだが、待ち合わせの時間5分前になっても、未だにほかの三人が現れる気配がない。澪ねぇちゃんは、この前のお出かけの時は、俺よりも早く来ていたので、今日もそうなのかと思っていたのだが、そうでもないみたいだ。
「うーん、さすがに3人とも遅いよなぁ。電話でもかけてみるか‥‥」
「ごめーん、お待たせー!」
俺が日暮たちに電話をかけようと、ポケットからスマホを出したタイミングで、澪ねぇちゃんが声をかけながら、俺のもとへと向かってきた。
「まだ待ち合わせの時間にはなっていないし、大丈夫だよ。日暮たちも来てないし」
「そういえば、まだあの2人の姿が見えないね」
「ちょっと電話かけてみるよ」
そういって、俺はスマホを操作し、日暮に電話をかけてみる。2,3コール鳴ったのちに、日暮が電話に出た。
「もしもし、日暮か? お前今どこにいる?」
「わりぃ、ちょっと家出るの遅れたんだよ。今、若葉と全速力でそっち向かってるから、もうちょい待ってくれ!」
そういって日暮はブツッと電話を切る。電話越しでもわかるくらい、日暮の息が荒かったので、おそらく今、こっちに走ってきているんだろう。
「澪ねぇちゃん、日暮たち、もうすぐ来るって」
「わかったわ。全く、主催者なのに遅刻ってどうなのかしらね」
「まぁ、なんか事情でもあったんだろ。あいつらも結構楽しみにしてたし、忘れてたとかではないと思うよ」
ベンチに座って、ぷくぅと顔を膨らませる澪ねぇちゃんを軽くなだめる。こういうちょっとした仕草も、澪ねぇちゃんのあどけなさが出ていて、ちょっと可愛い。
「そういえば澪ねぇちゃん、今日はスカートなんだね。前はパンツ履いてたけど」
「ふふーん、私スカートも着こなせちゃうんだよねー。どう? 結構似合ってるでしょ」
そう言ってその場でくるりと回って見せる澪ねぇちゃん。その勢いで、澪ねぇちゃんの履いているロングスカートも、ひらひらと舞う。胸元の開いた黒のレーストップスに、膝まで伸びるココア色のロングスカート、そして白いヒールを履いている澪ねぇちゃんは、大人っぽさと同時に、ちょっとした色気も感じさせる。前回とはまた違った雰囲気で、街行く通行人の目を引いている。どこにいっても、どんな格好をしてても、澪ねぇちゃんの美しさは健在らしい。
「とっても似合ってるよ。この前とはまた違った雰囲気だね」
「よくわかってるじゃーん!」
バシバシとにこやかに俺の背中を叩く澪ねぇちゃん。それ、結構痛いからやめてほしいんだけど‥‥。
「澪ねぇちゃん、それ、痛いからやめてくんない?」
「ごめんごめん。それより、なんか気になるところない?」
「気になるところ?」
俺の前に立ち、バッと腕を広げる澪ねぇちゃん。そんな風に言われても、特に気になるところなんてないけど‥‥。
「むぅ‥‥仕方ないなぁ」
俺が頭を悩ませていると、澪ねぇちゃんはちょいちょいっと俺に近づいてきて、その整った顔で、俺のことを間近で見上げてくる。いわゆる上目遣いの体勢だ。
「ここ、気にならない?」
レーストップスの胸元をクイッと引っ張って、俺の耳元でそう呟く澪ねぇちゃん。さっきも言ったように、澪ねぇちゃんの来ているレーストップスは、胸元がかなり開いているわけで、そうなると必然的に澪ねぇちゃんの谷間が見えてしまう。
「ば、ばか! なにしてんの!?」
「アハハ! 航くん、耳まで真っ赤じゃん! か~わいい~!」
慌てて澪ねぇちゃんから距離を取ると、澪ねぇちゃんはお腹を抱えて笑い出す。この人、自分の体がどれだけ健全な男子高校生を魅了するのか理解していないのか?
いや‥‥多分理解したうえでやってるんだろうな。俺を揶揄うために!
「わりぃ! 遅れちまった‥‥って日向先生どうしたん?」
ちょうどそのタイミングで遅れてやってきた日暮と暁も合流する。二人とも、お腹を抱えて笑い転げている澪ねぇちゃんを見て、困惑の表情を浮かべる。
「まぁ、ちょっと色々あって‥‥。さ、さぁ! 全員そろったし電車乗ろうぜ!」
俺が仕切りなおすようにそう言うと、日暮と暁も、お互いに顔を見合わせ、困ったように首を傾げながらついてくる。そうして俺は、朝から最悪の気分になりながらも、駅へと入っていった。
ちなみに元凶である澪ねぇちゃんは、電車に乗るまでのしばらくの間、ずっと笑っていた。許すまじ小悪魔。
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