第33話 幼馴染と別行動
「うげぇ‥‥」
「クレってジェットコースター苦手だったっけ。最近、こういうとこで遊んだことがなかったから、全然知らなかったや」
ジェットコースターに乗った後、どうやら絶叫系が苦手だったらしい日暮が体調を崩し、今は4人でベンチに座って休んでいるところだ。
日暮の顔は青ざめていて、今にも吐き出しそうといった感じだ。
「苦手なら乗らなければよかったのに」
「若葉が楽しみにしてたのに‥‥そんなのできるわけねぇだろ‥‥」
どうやら日暮なりに男気を見せたらしいが、そのせいで大事な彼女がすごい心配そうな顔をしてしまっている。それだと、本末転倒な気がするが‥‥。
「ほら、クレ。おいで」
「えっ‥‥? うわっ‥‥?!」
日暮と並んで座っていた暁が、突然日暮の頭を抱き、自分の太ももへと乗せる。いわゆる、膝枕の体勢だ。
「若葉?! なにしてんのお前!?」
「クレがすごく苦しんでたから。私がジェットコースターに付き合わせちゃったんだし。いやだった?」
「嫌とかじゃねぇけどよ‥‥」
暁を見上げる状態で問い詰める日暮だったが、本心では満更でもなかったようだ。いや、それよりも――――
「航くん、私たちお邪魔虫みたいだし、二人から離れよっか。さっきから視線もすごいし」
「うん、そうだね」
俺と同じ考えを持っていた澪ねぇちゃんと小声でそう会話をし、俺たちはその場を離れる。ここにいては、あの二人のイチャイチャした空気に充てられ、いたたまれなくなってしまう。もう既に、若干いたたまれなくなっているわけだが。
(メッセージだけ残しとくか)
俺は日暮に『ちょっと別行動する。暁とのイチャイチャに満足したら連絡くれ』とメッセージを送る。あの様子だと、しばらくは二人きりの世界に没入してるだろう。
「さぁて、何乗ろっか?」
「澪ねぇちゃんは行きたいところとかないの?」
「ん~、じゃああれやりたい!」
そう言って澪ねぇちゃんが指をさしたのは、VRを用いた体験型施設だ。どうやら、VRを使って、ゲームの世界へと入り、いろんなミニゲームをクリアしていくというものらしい。
ちなみにVRというのは、バーチャル・リアリティの略で、日本語では『仮想現実』なんていわれたりしている。コンピュータによって作り出された仮想的な空間を、あたかも現実のように疑似体験できるという仕組み。俺も詳しいことはあまり知らないのだが、体験するには専用のゴーグルが必要なようで、一応、一般販売などもされている。ちなみに、俺は専用のゴーグルを持っていないので体験したことはない。
「一度やってみたいって思ってたんだ~! まるで現実のような仮想空間に入って、しかもゲームまでできる! 最高としか言いようがないよ!」
「テーマパークにVR施設なんてあるものなんだね。というか、VRって人によっては酔ったりするっていう話も聞くけど、澪ねぇちゃんは大丈夫?」
「私、乗り物酔いとかは滅多にしないから大丈夫!」
乗り物酔いとはまた違う気もするけど‥‥ここでそれについてツッコむのは野暮だろう。澪ねぇちゃんの様子を見る限り、相当楽しみにしている様子。せっかく気分が上がっているんだから、わざわざ盛り下げるようなことを言う必要はないだろう。
「ほら! 次は私たちの番だよ! 行こ!」
係員さんと澪ねぇちゃんに連れられ、俺は専用の部屋へとやってきた。
「それじゃあ、こちらのゴーグルを付けてください」
そういって係員さんに渡されたゴーグルを装着する。まだ真っ暗で何も見えないが、これから仮想空間に入れると思うと、かなりワクワクする。誰しも一度は考えたことがあるであろう、二次元の世界に入れるのだ。テンションが上がらないわけがない。
「それでは楽しんでくださ~い!」
係員さんの声と共に、段々と視界が開けていく。
どんな感じなんだろう。すごい楽しみだ――――
「うぷ‥‥完全に酔った‥‥」
「アハハ‥‥見事にやられちゃってるねぇ」
VR施設を後にした俺たちは、またしてもベンチに座って休んでいた。理由は簡単。俺がVRで酔ったから。今まで滅多に体調を崩すことがなかったから、酔う心配なんて一切してなかったけど、ここまで見事に酔うとは‥‥。
最初こそ、初めての体験にワクワクしっぱなしだったが、段々と体調が悪くなってきて、終わる頃には、もうVRが拷問に感じられていた。
「まったくもう、しょうがないなぁ。ほら、こっちおいで」
そう言って、隣に座る澪ねぇちゃんは、自分の膝をトントンと叩く。あれ、なんだこの既視感は‥‥。
「膝枕。してあげるよ?」
そうなりますよねぇ‥‥‥‥。
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32話を少し、修正させていただきました。ご了承ください
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