第49話 幼馴染と同棲9

「本当にすいませんでした!!」

「だからもういいって言ってるじゃん。それよりもさ、私の髪、乾かしてくれない?」


 結局あの後、先に澪ねぇちゃんにお風呂から出てもらい、あとから俺が出るといった形になった。そして、着替えを終えた後、すぐにリビングにいた澪ねぇちゃんに頭を下げ続け、今に至る。


「髪を乾かすって‥‥俺、自分以外の人の髪を乾かしたことなんてないけど、いいの?」

「いいのいいの。さ、はやく」


 そう言って澪ねぇちゃんは、俺にソファに座るように促す。


「え? 俺が乾かすんだよね?」

「そうだよ?」

「じゃあなんで俺がソファに座るの?」


 てっきり、澪ねぇちゃんがソファに座って、俺がその後ろから乾かすと思っていたんだけど、そうじゃないのか?」


「航くんが足を広げて座って、その間に私が座るから」

「なんで?」


 絶対普通に立って、後ろからやる方がやりやすいと思うんだけど‥‥。というか、初めて聞いたんだけど。その乾かし方。


「いいからやる! さっき、私の裸見たんだからいいでしょ!」

「えぇ‥‥」


 やっぱり澪ねぇちゃん、めちゃめちゃ根に持ってるじゃん‥‥。まぁ、見たのは事実だし、そう言われるとやるしかなくなるんだけど。


「えっと、これでいいの?」

「うん、おっけー。それで私がここに座る」


 俺が足を広げた状態で座ると、その広げた足の間に、澪ねぇちゃんはすっぽりとハマるように座る。こういうところでは、澪ねぇちゃんと俺の身長差や体格差を感じることになる。いくら大人と言っても、やっぱり澪ねぇちゃんは小柄だ。


「じゃあお願いー」

「わかったよ」


 俺は改めて、自分の前に座る澪ねぇちゃんの髪を見つめる。まだしっとりと湿っているナチュラルブラウンの髪は、いつも丁寧に手入れされているのだろう。傷みなどが感じられず、艶やかな髪をしている。


(とりあえず、俺のせいで傷んだなんてことにはならないようにしないとな‥‥)


 俺は、まず最初に肩にかけていたタオルで、澪ねぇちゃんの髪の毛の水分を取っていく。髪は根元に水分が溜まりやすいから、頭のてっぺんから、ゆっくりとマッサージをしていくようにしていくのがいいらしい。


「あ、それ、気持ちいいかも」

「そうかな? ならよかった」


 頭のてっぺんを終えたら、次は髪の毛全体。あまりゴシゴシするのもよくないので、タオルで髪を挟み、優しくパタパタと叩くようにして水分を取る。こうして、しっかりとタオルドライをすることで、ドライヤーを当てる時間が減り、髪の傷みを防げるらしい。


「航くん、すごく丁寧にやってくれるね」

「まぁ、澪ねぇちゃんの綺麗な髪を、俺のせいで傷めるわけにもいかないし。じゃあ、ドライヤーかけるね」

「ふふ、ありがと。お願いします」


 一度、くしで髪を整え、まっすぐにする。そして、ドライヤーの電源を入れて、強めの温風を出し、髪を乾かしていく。まずは髪の根元から。

 澪ねぇちゃんの髪を持ち上げながら、温風を頭皮に向かって当てていく。少し、ドライヤーのノズルを振り、一点に温風が当たり続けるのを防ぐ。


「それにしても、澪ねぇちゃん。こんなに髪が長いと、手入れとか大変じゃない?」

「んー、慣れたらそうでもないかなぁ。私は小さい頃からロングヘアだし、これが普通になっちゃったから」


 そういうものなのかなぁ。俺は、髪を乾かすのが基本的に面倒くさいから、割と適当に済ませるんだけど。女性の美意識の高さゆえなのかな。


「でも、航くん、髪の乾かし方とか、結構詳しいみたいだけど‥‥」

「あー、母さんに正しい髪の乾かし方くらいは知っとけって言われて、無理やり覚えさせられたからかな」


 まぁ、そのおかげで今困ってないわけだし、ちょっと感謝はしてる。


 全体の8割くらいを乾かし終えたら、次は前髪と左右の髪。くしで内側から毛束を取り、さっきより弱い温風で上から下へとブローしていく。


「澪ねぇちゃん、痛くない?」

「大丈夫だよ。むしろ気持ちいいくらい」


 同じようにして外側も乾かし、最後に冷風を当てて、髪型を整えていく。温風を当てた時に作ったクセに冷風を当ててる。こうすれば、髪をセットした時に、そのヘアスタイルが長時間キープできるようになるので、結構大事な工程だ。


「はい、終わり。これでいいかな?」

「わぁ。ありがと! すっごく綺麗に乾かしてくれてる!」


 澪ねぇちゃんに鏡を渡すと、澪ねぇちゃんは髪を触りながら満足そうに頷いている。女性の髪なんて、初めて乾かしたけど、こんなのでよかったのかな。


「今度から、髪は毎日航くんに乾かしてもらおうかなぁ」

「それは無理なお願いかな」

「けち!」


 そんなやり取りを交わしていくうちに、俺はふとあることに気付く。


「そう言えば、いつまでこの体勢なの?」

「んー、私が満足するまで!」

「えぇ‥‥」


 この体勢だと、俺、身動き取れないんだけど‥‥。

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