第50話 幼馴染と同棲10

「あ、そうだ。航くん、ちょっと待っててね。絶対動いちゃだめだよ?」


 そう言って、俺の足の間から立ち上がり、キッチンの方へと向かっていく澪ねぇちゃん。動いちゃダメって‥‥まだこの体勢続けるのか‥‥。ドライヤーかけてるときは気づかなかったけど、さっきから澪ねぇちゃんからずっといい匂いが漂ってきてる。同じシャンプーを使ったはずなのに、どうしてこうも差があるのか。


「はい、どうぞ」

「つめたっ!」


 そんなことを考えていると、後ろから何か冷たいものを首に当てられ、思わずビクッとなる。


「あはは! ごめんごめん。驚かすつもりはなかったんだよ」


 首を押さえながら、後ろを振り返ると、澪ねぇちゃんがさっき買ったアイスを両手に持って、笑っていた。首に当てられたのは、このアイスだったのか。


「お風呂上りと言えばアイスだもんねぇ。さ、食べよー」


 そう言って、さっきまでと同じように、俺の足の間に座ってくる澪ねぇちゃん。


「いや、澪ねぇちゃん。そうやって座られると、俺、アイス食べづらいんだけど」


 俺と澪ねぇちゃんが座った時の高さは、一応頭一つ分くらいの差はある。けど、それでも、食べづらいことには変わりない。


「んー、それもそっかぁ‥‥」

(やーっと、解放されるか……)

「なら、私が食べさせてあげるね!」

「なんでそうなるの?」


 自信満々に言い放つ澪ねぇちゃんに、俺は思わず真顔で聞き返す。もうちょっといい案なかった?


「いいからいいから。ほら、あーん」


 いつの間にか、俺の手にあったアイスは、澪ねぇちゃんに取られていて、小型のフォークに刺されたアイスを、俺の口元へと突き出してくる。


「ほらほら、はーやーくー」

「分かったよ……はむ」


 俺は差し出されたフォークをパクっとくわえる。うん、まぁ普段食べてるのと一緒だし、美味しいことには変わりないな。


「どーう? 美味しい?」

「まぁ、よく食べてるアイスだし。美味しくなかったら買わないよ」

「もうっ! そうじゃなくて!」


 俺が適当に返事をすると、澪ねぇちゃんは、なぜか頬を膨らませて、不満を示してくる。


「私にあーんされて、どう感じた?」

「どうって言われても……アイス美味しいなぁって」

「嬉しいとかないの!?」


 涙目で訴えてくる澪ねぇちゃん。

 あぁ………それを求めてたのか。


「嬉しいけど、同じくらいびっくりはしたかな。急だったし」

「むぅ……それはごめんなさい」


 澪ねぇちゃんの頭を撫でてやると、すぐに涙を引っ込め、頬を緩ませて、蕩けたような表情を浮かべる。

 ……また、嘘泣きに騙されたかなぁ俺……。


「あ、そうだ。澪ねぇちゃん、俺もあーんしてあげるよ」

「え?」


 俺はそう言うと、澪ねぇちゃんから強引にアイスを奪い、蓋を開け、中に入っていた大福をフォークで半分に切る。


「ほら、あーん」

「えぇぇぇぇ?!」


 そのまま、フォークに差した大福を澪ねぇちゃんの口元に差し出すと、澪ねぇちゃんは、驚きと困惑が混じった表情を浮かべる。


「ほら、俺にもやったんだから、澪ねぇちゃんも出来るでしょ」

「う、うん………」


 そう頷くと、澪ねぇちゃんは控えめにフォークにかぶりつく。


「美味しい?」

「ん、美味しい……」

「あ、澪ねぇちゃん。口に粉ついてるよ」

「え、どk………」


 俺は澪ねぇちゃんの口元に付いていた白い粉──多分アイスに付いてるもの──を指でぬぐい、そのままペロリと舐める。


「ふぇぇぇぇぇ?!」

「ん?」


 急に大声を出しだす澪ねぇちゃん。急に大声を出されると、耳が痛くなっちゃうんだけど……。


「な、ななな、何してんの?!」


 そ、そんなに変なことしただろうか…。


「俺、なんか変なことしたかな……?」

「もしかして……航くんって……天然タラシだったりする………?」


 なんかめっちゃ失礼なこと言われたんだけど…………。

 俺、ほんとに何かした……?

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