第51話 幼馴染と同棲11

「わ、もうこんな時間! 今日一日あっという間だったなぁ」


 リビングで各々スマホを触ったりして過ごしていると、澪ねぇちゃんが驚きの声を上げる。俺もその声につられて壁にかけられている時計を見ると、もうすぐ短針が10を指そうとしている。夜ご飯を食べてからの時間は、いろいろなことがありすぎて、あっという間だった感じがする。もう‥‥ほんとに、いろいろあった‥‥。


「あ、そうだ。澪ねぇちゃんの寝る場所だけど、布団を敷こうかなって思うんだけど、それでいいかな?」


 一応、澪ねぇちゃんと一緒に生活することが決まった時に、母さんと一緒に、澪ねぇちゃんの寝る場所については話しておいた。母さんが「私たちの寝室使ってもらえばいいじゃない」とか言ってたけど、澪ねぇちゃんも人が使ってるベッドなんて使いたくないだろうし、俺が布団を敷くということで、話を通した。


「うん! ありがと。けど、布団ってどこに敷くの?」

「リビングに敷こうかなと思ってる。それ以外に敷けそうな場所もないし、寒かったりしたら暖房入れてくれたりもしていいから」


 俺がそう言うと、澪ねぇちゃんはしゅんと眉を下げて、残念そうな表情を浮かべる。


「航くんと一緒に寝たいです」

「むりです」


 澪ねぇちゃんの申し出を、俺はバッサリと切り捨てる。

 うん、分かってた。なんとなく、そういうこと言い出すんだろうなって思ってた。けど、さすがにこの提案だけは、受け入れるわけにはいかない。


「なんでダメなのよ! けち! ばか!」

「はいはい。いくら言われようが、それだけは受け入れられません」


 ポコスカと殴って抵抗してくる澪ねぇちゃんを、俺は適当にあしらう。それ、地味に痛いからやめてほしい。


「添い寝とまでは言わないからさ! 同じ部屋で寝ることだけ許して!」

「ダメです。それを許しちゃったら、澪ねぇちゃん、絶対なんか変なことしてくるでしょ」

「ぎくっ」


 ほらやっぱり。絶対何か仕掛けようとしてたけど、図星突かれちゃって、見事に固まってるよ。俺も、澪ねぇちゃんのことがだいぶ分かってきた気がする。


「ナ、ナナ、ナンノコトカナー。ワタシ、ゼンゼンワカンナイヤー」

「澪ねぇちゃん。先生になることはできるても、女優にはなれなさそうだね」


 ロボットくらいカタコトな言葉で、すっとぼけようとする澪ねぇちゃん。誰が見てもはっきりわかるくらい、へたくそな演技だ。本当に誤魔化すつもりがあるんだろうか。


「もー! うるさいうるさい! そうですよ! 私は、航くんと同じ部屋で寝て、あわよくば添い寝して、あわよくば襲っちゃおうかなーって思ってたよ! 悪い!?」

「お、おぉ‥‥」


 びっくりするくらい開き直って、逆切れをかましてくる澪ねぇちゃんに、さすがに俺も驚きというか‥‥困惑をする。見事なまでに欲望にまみれた考えを持っていたな、澪ねぇちゃん‥‥。


「それなのに! 航くんは私にリビングで寝ろって言うの!? あまりにも非人道的すぎると思わない!?」

「あわよくば襲っちゃおうとか考えてた人に、人の心を語られても‥‥」

「あーあー! 何も聞こえませーん!航くんが一緒に寝てくれることを承諾する以外、私の耳は何も通しませーん!」


 耳をふさいで、子どものように喚く澪ねぇちゃん。本当にこの人大人なのかな‥‥たまに‥‥というかしょっちゅう子供に戻っている気がするんだけど‥‥。


「もう布団敷いちゃうからね? ちゃんと寒くないようにして寝るんだよ」


 俺は、喚き続けている澪ねぇちゃんを無視して、リビングのタンスから、敷布団と掛け布団を取り出して、その場に敷いていく。


「航くんのバカー!」

「はいはい。電気消すよー。おやすみー」


 澪ねぇちゃんの叫びを聞き流して、俺はリビングの電気を消し、自分の部屋へと向かう。こうでもしないと、澪ねぇちゃんは絶対納得してくれない。いやまぁ、今も納得してるかは怪しいけど、大人しく眠ってくれるだろう。そうしてくれることを願うしかない。


「さてと、俺も寝るか」


 スマホの目覚ましをセットして、俺は布団をかぶる。明日の朝、澪ねぇちゃんのご機嫌を取らないとなぁ‥‥。






 ―――ガチャ

 ペタペタペタ―――



(ん‥‥?)


 ゴソゴソ――――



「何してるの澪ねぇちゃん」

「あ、バレちゃった」


 俺の布団に潜り込もうとしてきた澪ねぇちゃんを咎めると、澪ねぇちゃんはてへっと舌を出して誤魔化そうとする。


 懲りないなぁこの人‥‥。

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