第48話 幼馴染と同棲8

*お風呂回ゆえ、今までとは違った性的描写が含まれます。ご注意ください。




「どうしてこうなった‥‥」

 俺は、腰にタオルを巻き付けただけの状態で、お風呂場へと続くドアの前に立っていた。


 遡ること数分前。


 母さんとの電話の後、しばらく澪ねぇちゃんと「一緒にお風呂に入る・入らない」で揉め続け、最終的にお互いがタオルを巻いて入るという条件で、まとまった。


 これについて、俺が恐怖したのは、もともと澪ねぇちゃんは、お互い全裸でお風呂に入ろうとしていたことだ。俺は、てっきりお互いタオルを巻くこと前提だと思っていたので、澪ねぇちゃんが「仕方ないから、お互いにタオル巻いて入ろ! それならいいでしょ?」と言ってきたときは、しばらく何が仕方ないのかわからなかった。


 結局、その後、半ば強制的にお風呂へと連行され、澪ねぇちゃんが先にお風呂に入っていき、今に至るというわけだ。


 さすがに、澪ねぇちゃんが着替えるときは、俺も視線を逸らしていたぞ。



「航くん、ちゃんといるー?」

「いるよー‥‥」


 お風呂場の方から、シャワーの音と一緒に、澪ねぇちゃんの反響した声が聞こえてくる。澪ねぇちゃんが先に入っている間に、リビングの方に戻ることも考えたが、定期的にこういった確認の声をかけられるのと、「航くんが入ってくるまで、私はお風呂からでないから」と脅しのようなことを言われ、逃げ道を塞がれてしまった。

 お風呂でのぼせて、そのまま倒れるなんてことになったら困るし‥‥。



「よーし、航くん入ってきていいよー」


 気が付けば、シャワーの音は止まっていて、中から澪ねぇちゃんに呼ばれる。ここまで来ちゃったし、もう腹を括るしかないか‥‥。


「じ、じゃあ入るね‥‥」


 お風呂場の引き戸を開け、俺は中へと入る。さっきまで澪ねぇちゃんがシャワーを使っていたから、床のフローリングにはいくつもの水滴がついていて、ちょっと冷たい。俺は、できるだけ、右側の浴槽にいるであろう澪ねぇちゃんの方を見ないように、視線を下げつつ、お風呂場に設置してある椅子へと座る。


「ぶぅ、航くん、全然こっちみてくれないじゃん」

「そんなの無理に決まってるでしょ‥‥」

「でも、男の子なんだし、私の生の胸とか見てみたいでしょ? ほら」


 浴槽の方でバッシャバッシャと水の跳ねる音が聞こえてくる。一瞬、澪ねぇちゃんの方を見てしまいそうになったが、それをギリギリでこらえ、頭の中に芽生えた雑念を、洗い流すように、俺はシャワーを浴びる。


「なんか、シャワーの勢い強くない‥‥?」

「気のせい。俺はいつもこうだから」

「そうなの‥‥?」


 本当は全くそんなことはないが、こうでもしないと、あらぬ妄想がいくらでもはかどってしまうので、滝行のようにシャワーを浴びるしかない。これは、一種の修行だ。



「あ、良いこと思いついた! 航くん、背中流してあげようか?」

「全力でお断りします」


 バカなことを提案する澪ねぇちゃんをバッサリと切り捨てる。一体、俺がなんのために出力最大のシャワーを浴びてると思ってるんだ‥‥俺がこれが普通って言ったんだったわ‥‥。


「そこまで明確に拒否されると、さすがの澪ねぇちゃんも傷つくんですけどー」

「傷ついてる人は、俺に向かって水をかけたりしないの」


 さっきから、いたずらのようにバシャバシャと水をかけてくる澪ねぇちゃん。本当に子供っぽい人だな‥‥。


「はやくかまってくれないと、澪ねぇちゃん泣いちゃうぞー」

「今、体洗ってる途中だからやめてくれないかな‥‥」


 俺が泡を付けたところを、的確に浴槽の水で流していく澪ねぇちゃん。ナニコレ、シャワーいらないじゃん‥‥。


「はーやーくー」

「あー! もうわかったから! すぐ入る!!」


 さすがにこれ以上やられると、体を洗うどころじゃないので、俺は早々に切り上げて浴槽へと入る。

 そうすると、嫌でも澪ねぇちゃんの体が目に入るわけで‥‥。


「っ‥‥!」

「あー、目逸らしたらだめじゃんかよー」


 そう言いながら、両手で俺の顔を挟んで、正面を向かせてくる澪ねぇちゃん。


 よく考えてほしい‥‥。俺の家は特別お金持ちとかじゃないし、浴槽の大きさも一般家庭とそんなに変わらないだろう。つまり、その狭い浴槽の中に高校生男子と、成人済み女性が入ると、どうしても、お互いの足だったりが接してしまう。そのせいで、さっきから、足を絡められて、下半身を押さえつけられている。


 加えて、正面を向けば、タオルを一枚巻いただけの澪ねぇちゃんがいるわけで‥‥水に濡れて、少し艶やかに光っている綺麗な肌や、火照って赤くなった顔、バスタオルからはみ出さんばかりの大きさを誇る胸と、どこに目をやっても困るこの状況。そりゃ、目を逸らすしかなくなるだろ‥‥。


「それにしても、本当に航くん大きくなったよねぇ」

「澪ねぇちゃんもね‥‥」

 主にその胸とか‥‥。


「男らしい体つきにもなってるし」

「澪ねぇちゃんもね‥‥」

 主にその胸とか‥‥。


「その言い方だと、私が男みたいな体つきしてるってことになるんですけどー?」

「あ、そうじゃなくて、澪ねぇちゃんも女性らしい体つきしてるなって‥‥」

 主にその胸t‥‥。


(あー!! 鎮まれ俺の煩悩!!)


 俺は浴槽の水に、思いっきり顔を突っ込む。

 さっきから、口にこそ出さないが、会話の最後に、必ず一言添えてしまっている‥‥しかも結構アウトな発言だし!! 一度、心を落ち着かせよう‥‥。


「ぶはっ」

「大丈夫!? 急にどうしたの?!」

「なんでもない。ちょっと自己嫌悪してただけだから」

「本当に急にどうしたの?!」


 澪ねぇちゃんは本気で心配しているが、これに関しては俺の問題なので、澪ねぇちゃんに話したくない。というか、「あなたに煩悩抱いてました」なんて言えるわけもない。


「大丈夫だから、安心して」

「ほんとに‥‥?」


 まだまだ怪しんでいる様子の澪ねぇちゃんの顔を、俺は正面から見つめる。


(よし、今度は大丈夫だ。ちゃんと相手の目を見て話せば問題ない)


 俺は心の中でそう決め、もう一度澪ねぇちゃんの顔を見つめる。

 さっきよりも、少しだけ顔の赤色が濃くなっている気がする。頬についている水滴も、顎をつたって、落下し、そのまま澪ねぇちゃんの胸の谷間に吸い込まれて‥‥


(ばかやろう!!!)


 俺はそこまで目で追いかけて、また水に顔を突っ込む。せっかく払った煩悩がまた復活してしまうところだった。


「ぶはっ」

「航くん本当に大丈夫?! のぼせたんじゃない!?」

「いや大丈夫。ちょっと己の愚かさに呆れてただけだから」

「絶対大丈夫じゃないよね?! もう出よう! ね?」


 澪ねぇちゃんにそう言われ、俺はその場で立ち上がり、ゆっくりと浴槽から出る。澪ねぇちゃんも、俺と一緒に立ち上がり、浴槽から出ようとする。


「あ‥‥航くん! こっち見ちゃダメ!!」

「え?」


 さっきまでの行動で、若干のぼせていたことも相まって、俺は判断力が落ちていた。その結果、澪ねぇちゃんの叫び声に、思わず振り向いてしまった。けど、それが間違いだった。


「あ‥‥‥‥‥‥‥‥」


 長くお風呂に浸かっていたからだろうか。澪ねぇちゃんの体を包んでいたバスタオルは、脇腹の結び目がほどけ、腰の辺りまで下がっていた。つまり、澪ねぇちゃんの上半身は、何も隠されていないわけで‥‥。

 澪ねぇちゃんが、慌てて手で隠すも間に合うわけがなく‥‥。


「えっち‥‥」

「ほんとすんません‥‥」


 俺はしっかりと、澪ねぇちゃんの綺麗な上体を目に焼き付けてしまった。


 多分、この先今の光景が俺の記憶から消えることはないだろう‥‥。

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