第2話 『運命』の担任発表
学校へ到着した俺は、クラス名簿から自分の名前を探し、割り振られたクラスへと向かう。かなり大きい高校だから、迷子になることを危惧していたが、案内用の張り紙があったため、すんなりと到着することができた。
教室の後方のドアを開け、中に足を踏み入れる。少し早く来たこともあって、教室の中はがらんとしていた。黒板や壁には、先輩方が飾ってくれたであろう装飾品や黒板アートなどが描かれている。
「ん?もう誰かいるのか?」
教室をぐるぐると見回していると、教室の後ろの方からそんな声が聞こえてくる。
「えっと、君は?」
そのことに戸惑いつつも、俺は聞き返す。
「あぁ、ごめん。驚かせたな。俺は
そういって日暮は、ニカっと明るく笑う。
「なるほどな。俺は妖崎 航。たまたま早く目が覚めたからどうせならって早めに来たんだ。ここに来たってことは同じクラスだろ?これからよろしくな」
日暮に倣って俺も軽く自己紹介をする。
そういって互いに挨拶を交わし、俺は高校生になって初めての友達ができた。幸先の良いスタートを切ることができたようだ。
それから俺たちは他愛のない世間話をしながら、ほかの生徒が来るのを待っていた。日暮とは出席番号が隣同士なのもあって、すぐに仲良くなった。
そして入学式の時間が近づくにつれ、続々と生徒がやってくる。その中には日暮の中学の頃からの友達もいたようで、何人か紹介してもらった。
ちなみに、俺の通っていた中学は、この高校からはそこそこ離れているため、ほとんど進学してきたやつがいない。だから、友達づくりにおいてかなり不安を抱いていたのだが、日暮のおかげでかなり順調に友達ができていた。
電車では隣に美人が座ってきたし、早起きは三文の徳というのはこういうことなのだろうと思う。本来の意味とは少し違うが、字面のように3つ目の良いことが今日はあるのかもしれない。
「そういえばよ、妖崎は担任の先生はどんな人が良い?」
入学式の時間を待ちながら日暮と話していると、唐突にそんなことを聞かれた。
「ん~、特にはないけど、強いて言うならやっぱり優しい先生がいいかな」
俺が当たり障りのない答えを返すと、日暮は露骨につまらなさそうな顔をする。
「なんだよー。もっとさぁ、美人な人がいい!とか胸が大きい人がいい!とか、そういうのはないのかよー」
お前、よくそんなことを堂々と言えるな‥‥俺、既にお前と友達になったことを後悔しそうだよ
「女の先生かどうかもわかんないんだから、あまり期待しない方が良いと思うぞ」
「ちょっとくらい夢見たっていいじゃねぇかよー。俺たち男子高校生だぞ?」
「はいはい。ほら体育館行くぞ。入学式の時間が近づいてきてる。そこで一緒に現実も見ろ」
意味の分からない嘆きをあげている日暮を適当にあしらいつつ、俺は体育館へと向かう。どうやら先輩が案内してくれるらしく、はぐれないよう、クラスメイトに呼びかけている。
「みなさん、おはようございます。もうすぐで入学式が始まりますので、体育館の方へと移動していただきます。案内いたしますので、私に着いてきてください」
俺は日暮と一緒にその先輩に着いていく。ちなみに日暮は、体育館に移動する間、ずっと「頼む美人で巨乳な担任でありますように」とブツブツ唱えていた。とりあえず、俺は、夢が砕かれた時の日暮の反応を楽しみにしておこうと心に決めた。
入学式は順調に進み、いよいよ担任発表の時間がやってきた。
俺の前に座る日暮は必死に「頼む頼む頼む」と手を合わせて神に願っている。そのことに呆れつつ、俺はステージの方へと目を向ける。
どうやら担任は1ーAから順番に発表されるらしく、俺たちの所属するクラスはC組なので、3番目に発表されることになる。
「では順番に発表していきます。まず1ーAの担任の先生は――――」
教頭先生がマイク片手に先生の名前を読み上げていく。名前を呼ばれた先生は、自分が担当するクラスが並んで座っている前へと移動していく。
「続いて1ー Cの担任の先生は日向 澪先生です。1年間よろしくお願いします」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥え?」
俺は教頭先生に読み上げられた名前を聞いた途端、体がピシリと固まった。
「澪‥‥‥‥‥ねぇ‥‥‥‥ちゃん‥‥‥?」
声にならない声で、しかし何度も呼んだことのあるその名前を呟く。小さい頃、何度も呼んだその名前。もしかしたら、同姓同名の他人なのかもしれない。けれど、何故か俺は確信していた。今、俺たちのクラスの前に立っている人物は、年の離れた俺の幼馴染であることを。ずっと再会を願っていた憧れの幼馴染であることを。
「よっしゃ!あの人、めっちゃ美人じゃね?!遠くて少しわかりづらいけど、絶対そうだって!やっぱ夢見てて正解だったぞ!早起きは三文の徳ってこのことじゃね?!」
前に座る日暮が俺の方を振り向き盛り上がっているが、俺は日暮の話は耳に入ってこず、代わりに少し前に聞いた母親の言葉を思い出していた。
『そういえば、昔隣に住んでいた澪ちゃん、高校教師になったらしいわよ。もしかしたら、あなたの学校に配属されるかもしれないわよ‥‥なんてね。そんな偶然起きたらすごいわよね。もしそうなったら、運命の再会だったりしちゃうのかしら』
(ありがとう神様‥‥ありがとう早く目覚めた今朝の俺‥‥)
俺は密かに早起きのすごさを感じていた。
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