第3話 委員会決めと幼馴染
「改めて自己紹介させていただきます。
初めまして。みなさんのクラスの担任を務めます、日向 澪です。皆さん、1年間よろしくお願いします」
教卓の前に立ち挨拶をする澪ねぇちゃんは、シワ一つないスーツを身にまとい、とても凛々しい顔をしている。
昔から澪ねぇちゃんは美人だと言われていた。今もそれは変わっておらず、肩まで伸ばしたナチュラルブラウンの綺麗な髪、
澪ねぇちゃんはその美しさも相まって、男女問わずクラス中の視線を集めていた。
「おい、妖崎。これ、担任ガチャ大当たりじゃね?日向先生、美人なうえにめっちゃ大きいメロンが付いてるぞ」
日暮に関しては、さっきからずっとこの調子で、一人でずっと盛り上がっている。
しかし、俺はこの状況について少し複雑な心境を抱いていた。
運命的な再会であるのは間違いない。7歳も年の離れた幼馴染と、なんの連絡手段もない状態で、再会できたのは奇跡に近いだろう。だが、問題は、俺と澪ねぇちゃんの関係性だ。
俺たちは、幼馴染であると同時に、教師と生徒という関係だ。この関係の状態で、昔のように接していいのか、という気持ちも抱いていた。
教師と生徒がプライベートな関係を持つ、ということが禁忌であるのは、容易に想像できる。
教師と生徒という関係上、あまり深くは関わることはできない。もし、昔のように接して変な噂が立ってしまうと、澪ねぇちゃんに迷惑がかかってしまう。それは避けたい。
(うん、やっぱり関わるのは最低限にしておこう。それに、澪ねぇちゃんが俺に気付いているかどうかも怪しいしな)
冷静になった今、澪ねぇちゃんが俺のことに気付いてない可能性もあることに気付き、俺は澪ねぇちゃん‥‥いや日向先生とは、教師と先生として一定の線引きをすることにした。
「えーと、今日は主に提出物の回収と、委員会決めをしたいと思います。委員会は今日中に決めないといけないので、今から黒板に記す委員会の中から各々所属したい委員会を考えてください。あ、全員がやる必要はないです」
そういって、日向先生は黒板にさらさらと委員会を書いていく。
委員会か‥‥まぁ全員がやる必要はないらしいし、ほかの人に任せようかな。
「なぁ妖崎。お前なんか委員会に所属したりすんのか?」
前の席に座る日暮が振り向きながら俺にそう聞いてくる。
「いや、俺はパスだな。あんまりめんどくさい仕事はしたくないし」
俺がそう答えると日暮は少し考え込む仕草をする。
「んー、まぁそういう考えもあるかぁ。俺はなんかやろうかなー。面白そうだし」
日暮がそう言ったタイミングで、日向先生の声が聞こえる。
「じゃあ、今から順番にやりたい委員会を聞いていくので、もしやりたい人がいたら手を挙げてください」
挙手制か‥‥めんどくさいことにならないといいな。
「んー、学級委員だけ余っちゃったわね」
なった。めんどくさいことになってしまった。
一番大変であろう学級委員が残ってしまった。ほかの委員会は定員数埋まっており、学級委員だけが空白の状態になっていた。ほかのクラスメイトも考えることは一緒なのか、みんな先生と目を合わさないようにしている。
「お前学級委員やらないの?」
既にほかの委員に内定している日暮が俺にそう聞いてくる。
「やるわけねぇだろ。一番めんどくさそうじゃん」
俺の答えにまぁな~と相槌を打ちつつ、日暮は前に向き直る。ほかの委員会ならまだしも、学級委員だけは絶対に避けたい。
「今日中に決めないといけないんだけど、立候補者は誰もいなさそうだし、私から指名しちゃうわね」
日向先生のその言葉に俺は冷や汗をかく。俺含め、なんの委員会にも所属していないのは、約10数人。指名される可能性はかなり高いだろう。
(頼む頼む頼む‥‥)
俺はさっきの日暮のように、心の中で手を合わせ指名されないことを願った。
「何にも委員会に所属してない子は‥‥あ、この子にしよっかな」
瞬間、俺は日向先生がいたずらっぽい笑顔を浮かべるのを見てしまった。
「学級委員は妖崎くん!お願いするわね」
「はぁ~、なんでこうなっちゃうかなぁ」
クラス内で集めた提出物を運びながら、俺はため息をつく。あの後、放課後にクラス全員分の提出物を、指定された教室に運ぶように言われたのだ。
「こんな仕事が1年続くのかよ~。勘弁してくれ‥‥っとここか」
愚痴を言いながら歩いていると、気づいたら目的の教室にたどり着いたようだ。
コンコン
「はーい」
教室のドアを叩くと中から声が返ってくる。
「失礼します。クラスの提出物を持ってきました」
俺はそう言いながら教室の中へと入っていく。
「あら、ありがとう~。その机の上に置いておいてちょうだい」
何やら作業をしている日向先生は、口と手だけで場所を指定してくる。
「わかりました。では僕はこれで」
俺はその場所に提出物を置き、足早に退室しようとする。
「ちょっと待ちなさい」
鋭い声で日向先生に声をかけられ、俺は思わず足を止める。
「なんでしょう」
努めて冷静に俺は返事をする。
「久しぶりに会った幼馴染に対して、そんな冷たい態度取らなくてもいいじゃない?」
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