第1話 隣に座る美人

「ふぅ‥‥よし、行くぞ!」

 両手で自分の頬を叩いて気合いを入れ、玄関のドアを開ける。今日は高校の入学式だ。俺―――妖崎ふざきわたる―――は、これから始まる新しい場所での新しい生活に胸を躍らせながら、家の最寄りの駅へと歩いていく。


「時間は‥‥よし、これならちょうどいいタイミングで駅に着きそうだ」


 左手首につけた時計を確認し、今の時間と記憶している電車の時間を照らし合わせる。俺の住んでいる場所はお世辞にも都会とは言えないため、電車の本数が少し少ない。一度逃すと30分から1時間程度待たないといけなくなるため、少し時間に厳しくならないといけない。


(電車通学にはずっとあこがれてたんだよなぁ。電車に乗るのめっちゃ好きだし)

 駅に着いた俺は、内心でそんな風に思いながら、新しく用意した定期券を使い、改札をくぐる。定期券自体は初めてだったが、交通系のカードを使って改札をくぐったりすることは今まで何度も経験してきたし、慣れたものだ。


 駅のホームへ上がり、待つこと数分、電車の到着を知らせるアナウンスと共に、ホームに電車がやってくる。

 降りてくる人を優先し、人の流れが切れたタイミングで電車に乗り込む。


(座れそうな席は‥‥お、あった)

 通勤通学ラッシュの時間より早いこともあってか、すぐに座ることができた。


「あの、すいません。隣、いいですか?」

「え?あ、あぁ、どうぞどうぞ‥‥」

 突然声をかけられびっくりしながらも、なんとか言葉を返す。すると、俺の隣にスーツ姿の女性が座った。


(うわっ、めっちゃ美人だ)

 横目でもわかるその女性の整った顔立ちに、俺は少しドキッとしてしまう。年齢は20代前半くらいだろうか。スーツをキッチリと着こなし、長く綺麗な茶色い髪を下ろしている。同じ電車に乗っている人も、彼女が気になるのかチラチラとこっちを見てくる。そのせいで、隣に座っているだけの俺も、なんだか居心地が悪くなってしまう。


(まぁ、見られている本人は俺以上に居心地悪いよな)

 そう思った俺は、できるだけ隣に座る女性に目を向けないよう、ポケットからスマホを取り出し、そちらに目を向ける。こうしておけば、俺が女性に目を向けることはなくなるし、それで少しでも女性の居心地の悪さが解消できたら良いなと思う。できたとしても、ほんとに僅かだろうが。


 SNSや朝のニュースを流し見しながら、電車に揺られる。既に何駅かは通過しており、次が学校の最寄り駅だ。それに伴って、電車内の人の数も少し増えている気がする。しかし、今の俺にはそんなことより、もっと気になっていることがある。


(さっきからずっと視線を感じるんだよなぁ‥‥)

 隣から向けられる視線にものすごい居心地の悪さを感じていた。視線の主はおそらく最初の駅で隣に座ってきた女性だろう。視線を向けられているのは今に始まったことではなく、さっきからずっとだ。けど、俺が視線を向けると目を逸らされてしまう。一体何だというのか。


 ♪~♪~


 ずっとムズムズしていた俺だが、やっと学校の最寄り駅に到着するという旨のアナウンスが流れる。


(っと、降りる準備をしないとだよな)

 俺はスマホをポケットにしまい、出口へと向かうために立ち上がる。同じタイミングで、隣に座っていた女性も立ち上がる。同じ駅で降りるみたいだ。‥‥乗る駅も降りる駅も一緒ってどういう偶然なんだか‥‥。


 学校の最寄り駅に着き、向かってくる人の流れに逆らいながら改札へと向かう。この時間になってくると、通勤通学のために駅に来る人が多くなってくる。


(あ、そういえばあの女の人はどこに行ったんだろう)

 なんとか改札を抜け、学校へと向かう途中でふと気づく。同じ駅で降りて以降、全く見ていない。まぁ、あの人がどこに行こうが、俺には関係のない話か。俺と同じように自分の職場にでも向かっているのだろう。


(俺も早く行こ)

 そう気を取り直して、俺は学校へと足を進めていった。















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プロローグ及び第一話を読んでいただきありがとうございます!!

本作はカクコン9に応募するための作品として、新しく書き始めたものとなります。


これから澪と航の教師と生徒の垣根を超えたイチャイチャを展開していくつもりです。


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