第29話 幼馴染とファミレス

「なぁ妖崎。これから時間あるか?」

 一日の授業が終わり、帰りの支度をしていると、日暮に声をかけられる。


「今日は特に用事とかは無いけど…どうかしたか?」

「これからファミレスでも寄らね? ちょっと色々話したいことがあってよ」

「いいけど……暁のことはいいのか?」

「あいつも一緒に来るから問題ねーよ」


 お前ら2人の間に挟まれる俺の気持ちも考えて欲しいところだが、どうせ言ったところで無意味なので黙っておく。

 代わりに、了承の意を伝えるために、首を縦に動かして頷く。


「うし。そうと決まれば早速行こうぜ」

「少しは待ってくれよ」

 俺を置いて先に行こうとする日暮に悪態をつきつつ、俺は急いで教室を出た。


「そういえば、暁は? 一緒に行くんじゃないのか?」


 校門を出てすぐに、俺は気になったことを日暮に聞く。暁もファミレスに来ると聞いていたから、てっきり一緒に行くものだと思っていたのだが、日暮にそんな様子は感じられない。スタスタとファミレスに向かって歩いている。


「あー、なんかやることあるんだとよ。だから先に行っててくれって言われた」


 そう答える日暮は、少し寂しそうな雰囲気を漂わせている。おそらくだが、暁と一緒に行きたかったんだろう。どうせ後で合流することになるんだし、そこまで落ち込まなくてもいい気はするが。


「それにしても、やることってなんだ?」

「さぁ? 聞いても全然教えてくれなかったんだよなぁ。内緒だって言ってたよ」


 首を傾げながらそう言う日暮と一緒に俺も首を傾げる。


 教室でやることと言えば、せいぜい日替わりで生徒が行う掃除とかだろうが、それなら内緒にする必要も無いだろう。考えれば考えるほど分からなくなる。


「まぁ、そんな細かいこと気にしても仕方ねーか。ほら、着いたぞ」


 吹っ切れたように言う日暮が示した場所は、この辺では結構見かける、有名なファミレスのチェーン店だ。


「先に入ってようぜ」


 そう言って、店の中へと入っていく日暮に俺も着いていく。


「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

「3人です。今は2人ですけど、後から1人来ます」

「かしこまりました。お席へご案内いたします」


 お店に入ってすぐに店員さんに案内される。こういったお店に来る度に毎回思うが、どうしてこうも手際が良いんだろうか。訓練されているのもあるのだろうが、毎回尊敬する。


「こちらのお席へどうぞ。お連れ様が来られましたら、ご案内致しますね。ご注文が決まりましたら、お手元のボタンを押してお呼びください」


 そう言って店員さんはスタッフルームへと戻っていく。


「どうする?なんか頼むか?」

「俺はとりあえず飲み物だけでいいかな。日暮はどーすんだ?」

「俺もとりあえず飲み物だけ。腹減ったら適当にご飯頼むわ」


 俺たちは2人分のドリンクバーを頼み、それぞれで飲み物を取りに行く。

 俺はウーロン茶、日暮はオレンジジュースを取り、席へと戻る。


「お前、せっかくドリンクバーなんだから、ジュース飲めよ。なんでウーロン茶なんだよ」

「いいだろ別に。今はそんなにジュースの気分じゃないんだよ。それより、教室で言ってた話したいことってなんだ?」


 日暮の呆れたような言葉を無視し、俺は本題に入ろうとする。

 けど、日暮はフリフリと首を振る。


「とりあえず、若葉が来るのを待とうぜ。話はそっからだ」


 そう言ってスマホをいじり出す日暮。そう言われてしまったら、これ以上は俺からは何も言えないので、俺もスマホで適当に時間を潰すことにした。



「失礼します。お連れ様がいらっしゃいました」


 20分ほど経ったタイミングで、店員さんにそう声をかけられる。

 俺と日暮は、その声で同時に顔を上げ、そして連れられてきた人物を見て驚愕する。


「やっほー!お待たせ2人とも!澪ちゃんも連れてきたよ!」

「若葉ちゃんに誘われてどうしても断れなかったから……来ちゃった」


 店員さんの後ろにいたのは、暁。それと、てへっと舌を出しながらいたずらっぽく笑う澪ねぇちゃんだった。

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