第28話 幼馴染と遭遇

「いやー、めっちゃ探したぜ。こんな人気のないとこにいるなんてな。そりゃ、全然見つかんねーわけだ」


 ガハハと笑いながらそう言う日暮を、俺と澪ねぇちゃんは唖然としてみていた。そりゃそうだ。今まで人っ子一人来たことなかったこの教室に、いきなり見知った二人がやってきたのだ。びっくりするなという方が無理に決まっている。


「二人とも‥‥どうしてここが?」

「えっと、妖崎くんが昼休みに決まって教室を抜け出すのはずっと気になってたんだよね。それで、昨日モールで澪ちゃんたちと会って、もしかしたら、妖崎くんは昼休みに澪ちゃんのとこに行ってるんじゃないかなって思ったの!」

「けど、どこで会ってんのかまでは全然想像つかなくてさ。人気のない場所をしらみつぶしに探して、今ようやっと見つけたってわけ」


 澪ねぇちゃんの質問に、暁と日暮がそう答える。

 なんというか、俺からしてみれば、そこまでして俺たちのことを探そうとする二人の根気強さに、脱帽せざるを得ないといった感じだ。


「それにしても、澪ちゃんと妖崎くん。本当に仲良しだね! いっしょにお弁当まで広げてるし!」

「それはまぁ‥‥幼馴染だし‥‥。というか暁さん! ちゃんと日向先生と呼びなさい!」

「澪ねぇちゃん、昨日のことといい、今更見栄をはろうとするのは無理だよ」


 慌てたように暁に注意をする澪ねぇちゃんに、俺は呆れ半分でツッコむ。昨日のモール内でいろいろ失態を晒してしまっている以上、今更先生と呼べは無理があるだろう。まぁそれでも、澪ちゃんと呼ぶのはどうかと思うが‥‥。


「そういうことっす。日向先生もいい加減諦めてください。お互い、秘密を共有してるわけですし、俺たちは友達みたいなもんっすよ」

「俺たちだけリスクが高すぎるだろ」

「それは自己責任だから、俺たちが文句を言われる筋合いはないな」

「‥‥‥‥‥」


 日暮の飄々とした態度に腹が立ったので、少し反論したのだが、正論で返されて黙るしかなくなってしまう。

 ‥‥ん? ちょっと待てよ?


「なぁ、お前たちが俺たちに共有してる秘密ってなんだ?」


 さっき、日暮は「お互い、秘密を共有してる」と言った。俺たちが日暮と暁に共有してる秘密は、言わずもがな澪ねぇちゃんとの関係のことだろうけど、俺たちは日暮たちの秘密を聞いた覚えがない。そう思い、日暮に聞いてみたのだが‥‥。


「何って‥‥そりゃもちろん、俺と若葉が両想いだってことだけど」

「「え‥‥?」」


 日暮の言葉に、俺と澪ねぇちゃんの唖然とした声が重なる。もしかして、この二人、自分たちの気持ちは隠すことができてるとでも思ってるのか? 周りのやつらには「夫婦漫才」だの「焦れったい両片思い」だの散々言われてるのに?


「‥‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥」


 俺と澪ねぇちゃんは互いに顔を見合わせ、目で会話をする。


(ねぇ、これって本人に言うべきなの?)

(いや、黙っておくほうがいいと思うわ。その方が、本人たちも幸せでしょう。世の中、知らなくていいことなんていっぱいあるのだから)


「「‥‥‥‥‥‥‥‥?」」


 俺と澪ねぇちゃんの無言の会話を見つめていた日暮と暁は、不思議そうな顔をして首を傾げている。


「どうかしたのか?」

「いや、なんでもない。さぁ、昼休みもあと少しだ。日暮たちは先に帰っててくれ」

「お、おう‥‥?」


 俺は二人をさっさと教室から追い出し、教室の扉を閉める。そして、澪ねぇちゃんと二人で顔を見合わせて同時に呟く。


「「あの二人、純粋すぎる」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る