第46話 幼馴染と同棲6

「はい、どうぞ」

「おぉ‥‥」


 俺は、食卓に並べられた料理を見て、思わず息を漏らす。まず最初に目についたのは、家庭料理の定番である肉じゃが。大根、人参、じゃがいも、豚肉など様々な食材が入っていて、そのどれもにとても味が染み込んでいるように見える。そして、その肉じゃがをさらに際立たせるかのように、並べておかれているのが、艶のある白いご飯と、ほうれん草のおひたし、そして大根と油揚げの入ったお味噌汁だ。どれも完成度が高く、すごく食欲を掻き立てられる。


 というか、俺と澪ねぇちゃんは同じ炊飯器を使ってるはずなのに、なんで澪ねぇちゃんの炊いたお米の方がこんなに輝いて見えるのだろうか‥‥。


「すごい‥‥澪ねぇちゃん、料理上手なんだね」

「えへへ。そう言われると照れちゃうなぁ。航くんみたいにオシャレなものは作れないけど、こういう定番なものとかは結構自信あるんだよね」

「それだけで十分すごいよ。すごく美味しそうだ。さっそく食べていいかな?」

「どうぞー! 召し上がれ!」


 澪ねぇちゃんに促され、俺は、さっそくメインの肉じゃがに箸を伸ばす。


「いただきます‥‥はむっ‥‥うん、美味しい!」

「ほんと?! よかったぁ」


 俺の言葉に心の底から安堵の表情を浮かべる澪ねぇちゃん。俺の言葉に嘘はなく、本当に美味しかった。程よく煮込まれたジャガイモは、口に含んだ瞬間、ホロホロと崩れるくらい柔らかく、味も醤油が染み込んでいて、塩梅のいい味付けになっている。これは、ご飯が進みそうだ。


「航くん、良い食べっぷりだねぇ。作った身としては、本当に嬉しいよ」

「だって、澪ねぇちゃんの作った料理が全部美味しいから。勝手に箸が進むんだ」

「えへへ。航くんは誉め上手だなぁ。あっ、そうだ。そのお味噌汁、ちょっと飲んでみてくれない?」


 そういって澪ねぇちゃんは、俺に味噌汁をのむように促してくる。そう言えば、肉じゃがとご飯の食べ合わせに夢中になって、おひたしや味噌汁に手を出してなかったな。


「それじゃあ、味噌汁、いただきます」


 ズズズッと、味噌汁を飲んですぐ、俺はちょっとした違和感を感じる。なんだか、大根や油揚げ、味噌だけじゃ出せない後味を感じる。


(なんだろう‥‥この感じ。絶対食べたことはある気がする‥‥)


 そう思い、俺は改めて、味噌汁の入ったお椀を見つめる。そして、メインの具である大根や油揚げ以外に、もう一つ黄色いものが入っていることに気付いた。


「これは‥‥刻み生姜しょうが?」

「大正解! 刻み生姜のシャープな辛みで、さっぱりとした後味になるようにしてるんだ! 体も温まるし、一石二鳥!」


 俺が澪ねぇちゃんに問いかけると、澪ねぇちゃんは元気にうなずいて、解説を始める。どうやら、俺が感じた違和感の正体はこれらしい。


「この味を味わってほしかったから、航くんにお味噌汁を飲んでもらったんだよね。あとは、隠し味に料理酒を加えてコクが生まれるようにもしてるんだ」

「なるほど‥‥今度真似して作ってみようかな」


 俺がボソッとそう呟くと、突然澪ねぇちゃんがガタッと立ち上がった。


「それはダメ! 航くんが私と同じもの作れるようになったら、私の存在意義がなくなっちゃうから!」

「えぇぇ‥‥」


 別に俺からしてみれば、澪ねぇちゃんは近くにいてくれるだけで嬉しいし、それだけで十分なんだけど、澪ねぇちゃんはそうではないらしい。


「まぁ‥‥わかった。じゃあ真似するのはやめておくよ。それよりも、澪ねぇちゃんは食べないの? せっかくの温かい料理が冷めちゃうよ?」

「あ、そうだ。私も食べなきゃ! いただきます!」


 そう言って澪ねぇちゃんは、パクパクと箸を進めていく。


 とりあえず、今度澪ねぇちゃんにバレないように自分で作ってみよう。

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