第45話 幼馴染と同棲5

「澪ねぇちゃん、どれ使うの?」

「えっと、人参とじゃがいも、豚こま切れはそのまま出しといてくれる? 使うから。それ以外は冷蔵庫の中に入れといてー」


 スーパーから帰ってきて、買ってきたものを俺は冷蔵庫に直したり、澪ねぇちゃんが使いやすいように、キッチンに並べる。途中でも感じたけど、この食材を改めてみると、なんとなく澪ねぇちゃんが作ろうとしているものが分かる。けど、それを言うのは違う気がするから、敢えて何も言わないでおく。


「了解。俺もなにか手伝おうか?」

「ううん、大丈夫。お昼は航くんに全部任せちゃったから、今度は私に任せてほしい」


 ダメもとで手伝いを申し出てみたが、やはり澪ねぇちゃんは断る。お昼にも言ってたし、これに関しては多分譲ってくれないだろう。それなら俺は、大人しく待っておく事にしよう。


「よーし、頑張るぞー! 美味しいもの作るから、航くんも楽しみに待っててね!」

「わかった。楽しみにしておくよ」


 うちにあった水玉を基調としたエプロンを身に着けながら、バチンとウインクをして、俺に笑いかけてくる澪ねぇちゃん。

 ‥‥これは、とんでもないくらい美味しい料理が出てきそうだなぁ。




「ふんふふ~ん」

 俺はリビングのソファに座って、キッチンに立つ澪ねぇちゃんを眺める。鼻歌を歌いながらどんどんと料理をしていく澪ねぇちゃんを見てると、なんだか本当に同棲しているようにすら思えてしまう。‥‥というか、自分の家のキッチンに、澪ねぇちゃんみたいな美人が料理をするというシチュエーション。普通に考えたら、結構レアなのでは?


「どうかしたの? さっきからずっとこっち見てるけど」

「あ、えと‥‥澪ねぇちゃん、料理の手際がいいから、普段からしてるのかなって」


 そんなことを考えている間に、どうやら澪ねぇちゃんのことを見過ぎていたらしく、澪ねぇちゃんに声をかけられる。さすがに「本当に同棲しているように思ってた」なんて言えるわけもないから、適当に誤魔化しておく。といっても、澪ねぇちゃんの手際がいいのは本当だ。さっきからずっと、包丁の音が小刻みに聞こえて来たりして、手つきが初心者といった感じではない。


「ん~、まぁ基本家では自炊してるかなぁ。お仕事で疲れて帰ってくることが多いけど、それでも頑張って自炊してるよ」


 ふふんと自慢げに鼻を鳴らして、胸をはる澪ねぇちゃん。

 ‥‥今すぐそれやめて澪ねぇちゃん。エプロンのせいで、余計に胸が強調されちゃってるから。


「あ、今航くん、私の胸見てたでしょ~? エッチな子だなぁ」

「‥‥エプロン付けてるのに、胸をはる澪ねぇちゃんが悪い」

「否定しないんだぁ? これは海月さんに言いつけるしかないかなぁ?」


 ニヤニヤと笑いながら俺を揶揄ってくる澪ねぇちゃん。

 でも、許してほしい。こちとら健全な男子高校生なわけだ。いくら「興味ないです」みたいな顔してる人でも、エプロン越しに澪ねぇちゃんの胸が強調されてたら、絶対に見る。そう断言できる。しかも、一度、澪ねぇちゃんに抱きしめられて、あの胸の感触を味わったこともある俺からしてみれば、あの時の記憶がフラッシュバックして、どうしても目が行ってしまうんだ。だから許してほしい。


「まぁ、航くんも男子高校生だもんねぇ‥‥。そういうお年頃かぁ‥‥」

「‥‥‥‥‥‥‥‥」


 本当に納得してるのか、それともバカにしてるのか絶妙にわからない。けどまぁ、絶対にいい意味ではないんだろうなぁ‥‥。


「ん! 美味しい! ちゃんと味が染みてるー! 航くん、ご飯できたよ!」

「わかった。準備するね」


 そうこうしている間に、澪ねぇちゃんの料理が完成したらしい。なんとなく、曇った気分のままだけど、せっかく澪ねぇちゃんが作ってくれたんだから、しっかりと味わおう。

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