第26話 幼馴染と帰り道
「…………………………」
「…………………………」
気まずい……これ以上ないほど気まずい。
電車から降りて駅から家へと歩いている俺と澪ねぇちゃんの間に会話はなく、お互いが黙ってただ歩いている状態が続いている。
原因は、さっき電車内で起こったハプニングだ。俺がバランスを崩してしまったせいで、澪ねぇちゃんの胸をがっつり掴んだ。ただ触ったとかではなく、しっかり手で掴んでしまったのだ。
それからというもの、俺たちの間に会話はなく、無言の時間が続いていた。
「………ねぇ」
「っ! どうしたの……?」
もう澪ねぇちゃんの家に着きそうなところまで来たタイミングで、澪ねぇちゃんが長かった沈黙をやぶる。
「今日はありがとうね。色々あったけど、すっごく楽しかった」
「あ、あぁ……それは俺からも言えることだよ。ありがとう」
澪ねぇちゃんがポツポツと言ったことに、俺も同じような言葉を返す。澪ねぇちゃんがナンパされたり、日暮たちに遭遇したりと、確かに色々なことがあったが、それでも楽しかったのは事実だ。
「ごめんね。私のワガママに付き合ってもらっちゃって」
「別に気にしないでいいよ。澪ねぇちゃんが楽しめたのなら、俺はそれでいいよ」
俺の言葉に、澪ねぇちゃんは安堵したような表情を浮かべる。どうやら無理やり着いてこさせたことを、ずっと気にしていたみたいだ。
まぁ無理やり着いてこさせられたことは間違いないのだが、それについて澪ねぇちゃんを責めるつもりは一切ない。なんだかんだ言って、俺も服装に気を使ったりと、楽しんでいたことは間違いないし。むしろ、澪ねぇちゃんには感謝したいくらいだ。
「航くんは今日のデート楽しかった?」
「だからデートじゃないって……まぁ、もういいや。楽しかったよ、デート」
「ならよかった。デートに誘った甲斐があるってもんだよ!」
そう言って胸を張る澪ねぇちゃん。けど、それをされると澪ねぇちゃんの胸が強調されちゃうわけで……。
「今私の胸見てたでしょ…えっち」
「不可抗力だよ……」
先程の感触が思い出され、思わず見てしまったが、しっかりと澪ねぇちゃんに咎められる。
「ふふーん。でもね、航くんが私の胸を触り放題にできる方法が一つだけあります!」
「絶対ろくでもないでしょそれ…」
「ズバリ! 私と結婚するんです!」
そんなことだろうとは思った……。
自信満々に宣言してる澪ねぇちゃんを置いて、俺はスタスタと歩き出す。
「ねぇちょっと! 無視は酷いじゃん! 女の子のことを無視したらダメって習わなかったの?!」
「ハイハイ。ほら、もう澪ねぇちゃんの家に着くよ」
涙目で訴えてくる澪ねぇちゃんを適当にあしらいつつ、俺は近くに見えるアパートを示す。
「今日はもう帰って寝なよ。明日からまた1週間学校だよ?」
「えー、もうちょっとくらい一緒にいてくれたっていいじゃんかよー」
「はいはい。また明日ねー」
ぶぅと口を膨らませながら拗ねる澪ねぇちゃんを、無理やりアパートの方へと押し込む。
「航くんのケチ!」
「どうせ明日も学校で会うんだからいいでしょー」
「そういう問題じゃないの!」
なおもあーだこーだ言い続ける澪ねぇちゃんを無視して、俺は家の方へと歩き出す。
「じゃあね澪ねぇちゃん。また明日、学校で」
「ふん! 今日は見逃してあげよう。また明日の昼休みね」
えー、またあの教室に行かないとダメなのー?
心の中でそう思ったが、口には出さないようにする。またここで文句を言えば、話が長くなってしまいそうだったからな。
(あー、そういえば、日暮たちはどうなったかな?)
明日学校でその事も聞いてみようと考えながら、俺は帰路についた。
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