第12話 幼馴染と昼休み

「高校の授業ってこんなにハイペースなのか‥‥?」

 午前中の授業が終わったばかりの昼休み、机に突っ伏した状態で、死んだ声で呟く日暮。どうやら高校の授業にかなり体力を奪われたようだ。まぁ、そんなゾンビのようになるほどかどうかは微妙だが‥‥。


「まあ、もう昼休みなんだし弁当食おうぜ。ほら、幼馴染さんも待ってるぞ」

 俺はそう言いながら、教室後方のドアを示す。そこには、お弁当箱のようなものを持った暁が来ていた。様子を見るに、おそらく日暮と一緒に弁当を食べに来たのだろう。


「クレー!お弁当食べよー!」

「あいよー。こっち来ていいぞ~」

 日暮の返事を聞いて、暁は軽やかにスキップをしながら近づいてくる。かなり嬉しそうな様子だ。日暮も、さっきまで授業で死んだ魚のような目をしていたのに、今はハイライトが宿っているし、少し声のトーンも高い。

 こういうところを見ると、この二人の両片思いという関係には簡単に納得ができる。


「それじゃあ俺はちょっと用があるから、二人で弁当食べていいぞ」

「ん?一緒に食わねぇのか?」

「え~?妖崎くん、一緒に食べないの?いっぱいおしゃべりしたいのに」


 日暮と暁の両方にそう言われるが、俺は「外せない用なんだ。すまん」と謝り、そのまま教室を出る。


(はぁ‥‥あんまり気は向かないけど行くしかないよな」

 俺は少し憂鬱な気分になりながらも、とある人のもとへと向かった。





 コンコン

「はーい」

「失礼します」


 俺はそう言って、ドアを開け、部屋の中へと入る。

 ここは、俺の教室がある普通棟から離れた特別教室棟の端っこにある部屋だ。なんでこんなところにいるかというと、それは今、俺の目の前にいる人物に呼び出されたからである。


「航くん~!いらっしゃーい!」

「別にここは日向先生の家ではないでしょう」


 俺はそうツッコみながら、澪ねぇちゃんが座っている向かい側の席に座る。実は、学校に来るまでの電車の中で、澪ねぇちゃんに「昼休みにこの教室にきて」と言われたのだ。言われた時にはその場所がどこにあるのかわからなかったが、さっきまでの間で、地図を見て確認していた。



「もう!二人きりなんだし、澪ねぇちゃんって呼ばないとダメだよ!先生命令だから!」

「幼馴染としてか、先生としてかどっちで振舞うかはっきりした方が良いと思うよ」

 俺のツッコみに「あーあー!聞こえなーい!」と、わけのわからないことを言っている澪ねぇちゃんは放っておき、俺は机の上に弁当箱を広げる。


「わ!航くんのお弁当美味しそ~!これ、海月さんの手作り?」

「そうだよ。澪ねぇちゃんも早く食べないと、昼休み終わっちゃうよ」

「いただきます」と言って、俺はお弁当に箸を伸ばす。

 ふりかけご飯にウインナーや卵焼き、ポテトサラダなど、お弁当の定番食材がそろっている。彩り豊かですごく食欲をそそられる。


「まずは卵焼きから―――――うん、さすが母さん。ちょうどいい甘さだ」

「わ~。航くん、すごく美味しそうに食べるじゃん!私も早く食べよ!」


 母さんの料理に舌鼓を打っていると、向かいの澪ねぇちゃんも、いそいそとお弁当箱を取り出す。だが、俺は澪ねぇちゃんのお弁当箱を見て、その大きさに驚いた。


「え、澪ねぇちゃん、それだけしか食べないの?」

「だって、いっぱい食べて太ったりしたら嫌じゃん」

「いやでも、澪ねぇちゃん、めっちゃ体型いいし、むしろ少し太った方がいいんじゃないの?」

「うるさ~い!これでも最近、ちょっと太ってきてるの!」

「いてっ」


 俺的には少し褒めたつもりなのに、なぜか頭にチョップを食らった。解せぬ。


「もう!航くんはデリカシーが足りません!よって罰を執行します!」

「はい?」

「罰は、私にあーんをしないといけない刑です!」

「はい?」


 どうやら昼休みでも、澪ねぇちゃんの横暴は止まらないらしい。

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