第11話 「幼馴染という関係」
「それでは朝礼を始めます。学級委員の妖崎くん。号令をお願いします」
「起立。礼」
「「おはようございます」」
俺の合図でクラスメイト全員が挨拶をする。こういう役割は初めてで慣れないが、澪ねぇちゃんに指名された以上、やるしかないだろう。習うより慣れろだ。
「おはようございます。今日から本格的に高校生としての生活がスタートします。先生による授業も始まるので、しっかりと授業を受けるようにしてくださいね。慣れないことばかりで大変だとは思いますけど、今日も1日頑張っていきましょう」
「おお‥‥」
俺は、さっきまで駄々をこねてたとは思えない、澪ねぇちゃんの大人らしさに思わず感嘆の息をもらす。昨日から思っていたことだが、澪ねぇちゃんは先生としてのスイッチが入ったときは、本当に素晴らしい先生だと思う。その分、オンとオフの差が激しいようだが。
「朝礼は以上です。みなさんそれぞれ、1限目の準備をしてください」
「起立。礼」
「「ありがとうございました」」
朝礼を済ませると、澪ねぇちゃんはスタスタと教室を出ていく。とても社会人1年目とは思えない、堂々とした教師っぷりに、俺は少し澪ねぇちゃんのことをカッコいいと思った。
「マジでごめん!妖崎のこと置いてけぼりにしてた!」
「気にしなくていいよ。むしろ2人の痴話k‥‥2人が仲がいいんだなってよくわかったし」
「お、おう。そうか? ならいいんだけどよ」
朝礼が終わった後、すぐに日暮が俺のところに謝りに来た。用件はさっきの時間の暁との痴話喧嘩について。俺としてはそこまで気にしていないのだが、それでも日暮は負い目を感じているらしく、ずっと申し訳なさそうにしている。
「あぁ。それにしても、日暮と暁、本当に仲がいいんだな。さっきの様子を見ただけで、それがありありと伝わってきたよ」
「あぁ、まぁな‥‥。小さい時からずっと一緒にいたし。なんだかんだ言いつつも、俺の大切な幼馴染であることに変わりはないよ」
そう語る日暮の表情は明るく、本当に心から暁のことを大切に思っていることが伝わってくる。普段はかなり飄々とした態度で、ふざけたことばかり言っている日暮だが、暁のことを語っているときは、そういったことを全く感じさせないほどに、真面目な表情をする。それがなによりの日暮の気持ちの表れ方だろう。
「まぁでも、ずっと一緒にいるからこそ、言い出せないこととかってあるよなぁ」
「そうなのか?」
俺の問いかけに日暮は「まぁな~」と自嘲気味に苦笑しながら答える。俺にはそういった感覚はわからないが、日暮にはそういったものがあるのだろう。
「今の関係が心地いいってか、ずっと続けていたいんだよな。だから、ふとした拍子に、この関係が壊れるのが怖いんだよ。今まで通りじゃいられなくなっちまうんじゃないかってな」
さっきまでの明るい表情とは打って変わって、少ししんみりとした様子で語る日暮。俺はそこまできて、ようやく気付いた。
日暮が言っているのは、おそらく暁に対する恋心のことだろう。ずっと一緒にいた暁との幼馴染という関係は、日暮に対し、心地いいという感情を与えると同時に、その心地いい関係を壊したくないというしがらみも与えてしまっている。
そのせいで、告白できない状況が続いてしまっているのだろう。
傍から見れば、両思いなのはわかりきっていることなのかもしれないが、当人たちはそんなことに気付く
(そういえば・・・・・)
―――――俺はそこまで考えたところで、ふと澪ねぇちゃんのことを思い浮かべる。
澪ねぇちゃんは、久しぶりに再会した時から、俺に対し躊躇なく求婚(?)をしてくる。もし、澪ねぇちゃんが、日暮と同じような感情を抱いていたとしたら、かなり勇気が必要だったのではないだろうか。
『年が離れているから』と言われてしまえばそうなのかもしれないが、告白でも関係が壊れるかもしれないと踏みとどまってしまうのに、求婚(?)を幼馴染にするっていうのは、かなり怖いことな気がしてしまう。
(澪ねぇちゃんは、一体どんな気持ちだったんだろう‥‥)
「おーい。妖崎?」
「あ、あぁごめん。少し考えごとしてた」
俺は日暮に声をかけられたところで、ようやく自分が無言だったことに気付き、慌てて反応を返す。
「そうか?まぁ、俺も柄にもなく少し語っちまったからな~。あ、もうすぐ授業始まるから準備しようぜ」
「だな」
(少し、澪ねぇちゃんにも話を聞いてみようかな)
俺は最初の授業の準備をしながら、そんなことを考える。高校で出来た最初の友達の助けになりたいと思ったからだ。
(その前にまずは授業だな。高校初めての授業だし、いつも以上に集中しないと)
心の中で改めて気を引き締め、俺は授業の開始のチャイムの音を聞いていた。
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ちょっと長くなってしまい申し訳ありません‥‥
登場したばかりの若葉にもガンガン焦点を当てていくので、応援していただけると嬉しいです!
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