第10話 クラスメイトの幼馴染

「お、おはよう妖崎。今日は昨日よりは遅いんだな」

「おはよう日暮。今日はちゃんと寝たからな。昨日よりは遅いんだ‥‥とそっちの人は?」


 教室に入るなり、日暮に声をかけられたが、その隣に見慣れない人物がいることに気付く。昨日同じクラスで見た記憶もないし、どうやらクラスメイトでもないようだ。


「あぁ、そういえば妖崎は初めてだな。せっかくだし紹介しとくよ。俺の幼馴染のあかつき若葉わかばだ」

「やっほー。紹介されました暁 若葉だよー。以後お見知りおきをー!」


 そういっておどけた調子で挨拶をしてくる暁。


 彼女は耳の辺りで切りそろえたレッドブラウンのショートヘアで、瞳の色は深紅に染まっている。小柄で明るい雰囲気を感じさせる彼女は、満面の笑みを浮かべている。心なしか、俺もなんだか明るい気持ちになった気がする。彼女の笑顔にはそんな力があるようだ。


「クラスは違うんだけど、お前の話を若葉にしたら話してみたいって言うからさ。こうしてお前が来るのを待ってたんだよ」

「え~? クレがどうしてもって言うから来たんだよ? 捏造しちゃダメだよ~」


 めっ! と人差し指を立てながら言う暁に日暮は「アハハ。そうだっけか」と苦笑いを浮かべる。多分というのは、日暮の下の名前の紅葉くれはから来てるんだろう。今のやり取りだけでもかなり仲が良いことが分かる。


「まったく、クレは相変わらずだね。高校生になったら多少、真面目になるかなって思ってたのに」

「入学して1日で簡単に変わるわけないだろー。それを言うなら若葉だって高校生になったから、そのまな板が多少膨らむといいな」

「はぁ?! 言っちゃいけないこと言ったね?! 可憐な乙女になんてこと言ってるの!クレのばーか!」

「バカはどっちだバーカ」


 なんか勝手にぎゃーぎゃー言って痴話喧嘩を始めだした日暮と暁。その様子を見て、何人かのクラスメイトは微笑ましそうに見守っている。俺は、近くにいた日暮と同中のクラスメイトに聞いてみた。


「なぁ、あの2人っていつもあんな感じなのか?」

「ん? あぁ、そっか。お前は初めてだな。あの2人、いっつもあんな感じで痴話喧嘩をしててさ。最初は俺らも、うるさいなくらいにしか思ってなかったんだけどよ、何回も見てたらなんとなくわかってきたんだよ。あの2人、両片思いなんだなって」

「両片思い‥‥」


 クラスメイトにそう言われ、俺は少し納得した。多分、微笑ましい目を向けているのは、ほとんどが日暮たちと同中の人たちだろう。おそらく、みんな同じような気持ちで見守っているのだろう。


 俺は、クラスメイトの話を踏まえたうえで、もう一度2人の様子を見てみる。

 確かに、お互いぎゃーぎゃー言ってはいるものの、本気で喧嘩をしているようには見えない。それどころか、どこか楽しんでいるようにさえ見える。

 俺は、その様子を見て、少し羨ましさを感じていた。


「本人たちは気づいてないみたいだけどさ、お互いがお互いに向ける好意は丸見えなんだよな。だから早くくっつけばいいのになって思うんだけど、現実はそう上手くいくもんじゃないな。小学校からの9年間、痴話喧嘩を見させられているこっちの身にもなれっての」


 皮肉交じりにそう言ったクラスメイトは、最後に「ああなったらしばらくは2人の時間だから。放置でいいと思うぜ」と言い残し、別のクラスメイトのところへと行ってしまった。


 チラリと2人の方を見やると、今もなお痴話喧嘩を続けている。その様子を見ていると、段々本当に両片思いなのか怪しく思ってしまうのだが、おそらく2人なりのコミュニケーション方法なのだろうと思っておくことにする。


「幼馴染と両片思い、ねぇ‥‥」


 俺はそう呟き、脳裏に1人の顔を思い浮かべる。


(あの2人のようにはいかなくとも、もう少しコミュニケーションをとってもいいかもしれないな‥‥)


 そんなことを考えている間に、朝礼5分前のチャイムが鳴り響きだした。

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