第39話 俺と母親とGW

「ただいま」

「あ、航。おかえり。いきなりなんだけど、ちょっといいかしら?」

「ん?」


 放課後、家に帰ってきてすぐに、リビングにいた母さんに声をかけられる。なんだか、母さんが少しにやけている気がするのは考え過ぎだろうか。


「もうすぐゴールデンウィークじゃない? だから、私とお父さんでちょっと離れたところに旅行しようと思ってるの。もちろん、お泊りで。久しぶりにお父さんとデートしようって話になってね」

「うん。全然いいよ」

「でもね、親としてはやっぱり不安なのよ。高校生とはいえ、息子を一人で家に留守番させるって」


 ‥‥なんとなく、話の行く先が見えてきた気もするけど、とりあえず母さんの話を聞こう。心配なんて表情より、むしろ楽しんでいるというか、怪しい笑顔を浮かべていることは置いといて。


「だからね、ゴールデンウィークの間は澪ちゃんにうちに来てもらって、航と一緒に生活してもらおうかなって。名案だと思わない?」


 まぁ、そんなことだろうとは思ったよ。けど、俺にとっては願ったり叶ったりだ。澪ねぇちゃんは、ゴールデンウィークの間は、頑張って仕事の量を減らすと言っていたが、それでも俺は、澪ねぇちゃんと出掛けたりができない可能性も考えていた。その点、帰ってくる家が一緒なのであれば、たとえ一緒に出掛けたりができなくても、同じ時を過ごすことはできる。この話に乗らない手はない。


「わかった。明日、澪ねぇちゃんにも聞いてみるよ」

「あら。意外とすんなり受け入れるのね。もう少し、抵抗を見せるのかと思っていたのだけれど‥‥やっぱり、あなた少し変わったわね」

「俺ってそんなにわかりやすい?」

「母親の勘よ」


 俺が素直に受け入れたからか、母親は目を丸くして驚いている。確かに、今までの俺なら、絶対受け入れようとはしなかっただろうけど、澪ねぇちゃんとの関係について、覚悟を決めると自分の中で決めたのだから、これはいい機会だろう。


「まぁでも、ちゃんと澪ちゃんとの将来について考えてくれているのなら、私も嬉しいわ。澪ちゃんみたいなかわいい子が娘になるなんて、夢みたいだし」

「まだ結婚するって決めたわけじゃ――――」

「そんな口角を上げた状態で言っても、説得力ないわよ。私じゃなくても、誰が見ても明らかなくらいに」


 そう言われ、俺は慌てて口元を手で覆う。すると、母親はクスクスと笑い出す。どうやら、罠にかけられたみたいだ。うちの親は、どうしてこんなにも子供っぽいのだろうか。


「ちなみにあなた、澪ちゃんとどこまでヤったの?」

「は?」

「なにかしら、きっかけがあったんでしょ? そんなに澪ちゃんとのことについて真剣になるなんて」


 母親にそう言われ、俺の頭の中で観覧車での出来事がフラッシュバックする。同時に、澪ねぇちゃんの柔らかい唇の感触も思い出す。


「ははーん、なるほど。キスまでは済ませたと」

「なっ!? まだ何も言ってないだろ?!」

「あなたが分かりやす過ぎるだけよ。自分の右手見てみなさいよ」


 そう指摘され、俺の右手を見ると、気づかないうちに自分の唇に触れていた。どうやら、さっきキスの感触を思い出した時に、無意識のうちに触れてしまっていたらしい。


「っ、こ、これはあれだから。ちょっと痒かっただけで‥‥」

「キスしたことは否定しないのね」

「あ、いや‥‥ちが―――」


 自分で墓穴を掘り、ますます母親に揶揄われる始末。俺の母親、澪ねぇちゃんのことになると、敏感になりすぎだろ。


「も、もういいだろ! とにかく、明日澪ねぇちゃんにも聞いてみるから! とりあえず俺は部屋に行く!」

「はいはい。全く、そんなに恥ずかしがることでもないでしょうに‥‥」


 俺は捨て台詞のようにそう言い残して、二階にある自分の部屋へと向かう。これ以上、あの母親と話してたらどうなるかわかったもんじゃない。




「息子が青春してるわねぇ‥‥。なんだか羨ましくなってきちゃった。旅行中、私の愛する旦那さんに、久しぶりにお願いしてみようかしら」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る