第53話 幼馴染と同棲13

「わぁ、美味しそう! 朝からこんなに準備してくれたの?」

「まぁ、いくつかは、スーパーで買ったものをそのままお皿に移し替えただけのものもあるけどね」


 食卓に並べられた朝食の品を見て、目を輝かせている澪ねぇちゃんに、俺は苦笑する。澪ねぇちゃんは、ご飯を用意してあげるたびに、こうして大袈裟なくらいに喜んでくれるから、何回でも作ってあげたくなってしまう。なんというか、小動物にご飯をあげてる感覚に近いんだよなぁ‥‥澪ねぇちゃんが小柄だからかな。


「航くん、何か失礼なこと考えてるでしょ」

「べつに‥‥そんなことないよ」


 澪ねぇちゃんにジト目で見られながらそう言われ、俺は思わず視線を逸らす。たまに、こうして勘が鋭いところがあるんだよなぁ‥‥あんまり変なことは考えないようにしないと。


「視線を逸らしながら言われても、説得力がないんだよなぁ‥‥。まぁいいや。それよりも! おかずの数、すごくいっぱいあるね!」

「少ない数をいっぱい食べるより、たくさんのおかずを少量ずつ食べる方が、満足感があるかなと思って。さすがに、平日はこんなにいっぱい準備できるような時間はないけどね。せっかくの休みだし、贅沢したいなって思って」


 俺はそう言いながら、改めて食卓に並べられた朝食を眺める。昨晩仕掛けておいたご飯や、定番の味噌汁や卵焼き、鮭の塩焼きなどに加えて、ほうれん草としめじをバターで炒めたものや、ほうれん草のおひたし、きんぴらごぼうなど、自分で言うのもなんだが、かなり彩りのいい品が並んでいる。もしかしたら、豆腐とかを加えてもよかったかもしれないな。


「なんだか申し訳なくなってくるなぁ‥‥航くんが朝ごはんの準備してくれてる間、私は爆睡してたし、ご飯なんていつ仕掛けたの‥‥?」

「昨日の夜、洗い物を済ませた後。澪ねぇちゃん、お風呂沸かすだけなのに、戻ってくるの遅かったから気づかなかったんじゃない? というか、なんで遅かったの? 掃除はあらかじめ済ませてたし、スイッチ押すだけにしてたはずなんだけど‥‥」


 俺が澪ねぇちゃんに気になったことを聞いてみると、澪ねぇちゃんはしばらく固まり、そして、何かを思い出したような表情を浮かべる。


「あ、あ~。あの時にやってたんだぁ‥‥。そりゃ気づかないわけだよ‥‥。あ、ちなみに戻るのが遅かったのは、掃除されてるって知らなかったから、また洗ってただけだよぉ‥‥」

「そうだったの? ごめん、言ってなかったか」

「そ、そういうこと~‥‥‥‥‥‥‥‥‥洗濯籠に入った航くんの服の乃井嗅いでたなんて言えるわけないんですけど‥‥」


 最後の方は澪ねぇちゃんの声が小さくて聞き取れなかったが、さっきから澪ねぇちゃんの目が泳ぎ続けてるし、なんかそれ以外の理由がありそうな気はする。わざわざ聞く気にもならないけど。


「ほ、ほら! せっかく航くんが作ってくれたんだし、冷めないうちに食べよ!」

「あ、うん」


 仕切りなおすようにして、澪ねぇちゃんは食卓と向き合う。ちょっと微妙な空気になっちゃったけど、澪ねぇちゃんが悪いってことにしておこう‥‥あの人が自分で「ご飯をいつ仕掛けたのか」なんて聞いてきたからこうなったんだし。

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