第6話 幼馴染からの○○
「それにしても、澪ちゃんも本当に大きくなったわよねぇ」
改めて俺の母さんがしみじみとした様子でそう呟く。
「本当ですか?私、同年代の中だと身長低い方なんですけど」
「ん~、まぁ確かに昔に比べて大きくはなっているけれど、すごく身長が高いかと言われるとそうでもないわね」
母さんに言葉に、澪ねぇちゃんは「デスヨネ‥‥」とショックを受けた様子である。
傍から見ると、二人とも身長に大差はないらしく、目線の高さがほとんど同じくらいだ。俺の母さんが150センチくらいだったはずだし、澪ねぇちゃんも同じくらいだとすると、そりゃあ170センチの俺からしてみれば低く見えるよな。
「でもね、やっぱり澪ちゃんは女の子らしい身体になっているわよ。ほら、この大きい胸! これがあればどんな男の子でも悩殺できちゃうわよ」
失礼するわね、と言いながら澪ねぇちゃんの胸を、下からゆっさゆっさと揺らす母さん。俺はその光景から思わず目を逸らす。
ただ、目を逸らしても二人の会話は聞こえるわけで‥‥。
「ねぇ澪ちゃん?一体どのくらいの大きさなのかしら?」
「一応‥‥Fくらいですね」
「あらまぁ。この大きさの胸を揉み放題なんて‥‥航は幸せ者ね」
「ほんと贅沢ですよね!」
なぜだろう、なんだかすごく二人からの視線を感じる。
「なんだよ‥‥」
「べっつに~?」
おそるおそる問いかけると、澪ねぇちゃんは、頬をふくらませてムスッとしたような表情をする。そんなあからさまに表情に出さなくてもいいじゃん‥‥。
「あ、そうだ。澪ちゃん、お昼まだ済ませてないわよね?よかったら一緒にどうかしら?」
「いいんですか?!」
母さんの提案に、澪ねぇちゃんはものすごい勢いで食いつく。そういえば、入学式が午前中に終わって、そのまま帰ってきたから、俺たちまだ昼飯食ってないんだよな。
「良いに決まってるじゃない。すぐ用意するから少しだけ待っててくれるかしら」
「あ、私も何か手伝いますよ」
「いいのよ。澪ちゃんはお客さんなんだし、久しぶりの再会祝いってことで、私の顔を立ててちょうだい」
そういうことなら、と澪ねぇちゃんも素直に引き下がる。母さんの昼飯の準備が終わるまで、俺は『澪ねぇちゃんと二人きり』という地獄のような(?)時間を過ごさないといけなくなった。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
き、気まずい‥‥。
お互いが何も喋らないので、辺りには静寂がひたすらに訪れている。時折、キッチンの方から、母さんの料理音が聞こえてくるだけだ。
「ねぇ、航くん」
「っ、ど、どうしたの‥‥?」
(なんだ今の反応。気持ち悪すぎだろ‥‥)
突然のこととはいえ、返事が挙動不審になってしまったことに、俺は一人で脳内反省会を開く。さっきまでは普通に話せてたのに、澪ねぇちゃんの「結婚しよう」発言を受けてから、少し澪ねぇちゃんのことを意識してしまっている自分が恥ずかしい。
「航くんは今‥‥彼女とかいるの‥‥?」
澪ねぇちゃんも少し意識しているところはあるのか、さっきまでとは違い、少ししおらしくなっている。さっきの会話のせいで、まだ少し体が火照っている俺からすると、そちらの方が都合が良いから助かることではある。
「彼女はいないよ‥‥できたこともない」
「そう‥‥」
「うん‥‥」
またしても訪れる沈黙。話を広げなきゃいけないとは思いつつも、どうやって話を広げるかでまた迷う。澪ねぇちゃんに彼氏がいないのはさっきの会話でわかったし、また聞くのもおかしいだろう。だからといって、代わりになりそうな話題もないのだが‥‥。
「‥‥ねぇ、航くんに彼女いないんだったら、私たち本当に結婚してみない?」
「え‥‥?!」
澪ねぇちゃんの再三のプロポーズ(?)に俺はまたしても驚くが、澪ねぇちゃんはそんなのおかまいなしに、早口で続ける。
「も、もちろん、今すぐじゃないよ?!けど、昔航くんに言われた『結婚しよう』って言葉は忘れることはできないし。それに‥‥」
「それに‥‥?」
それまで早口でまくし立てていた澪ねぇちゃんが、突然言い淀む。
「それに‥‥!私、昔から航くんのことがす‥‥す‥‥」
「す‥‥?」
「すk――――」
「お昼ご飯できたわよー」
澪ねぇちゃんが何か言いかけたタイミングで、キッチンにいる母さんから声がかかる。
「―――とりあえず行こっか‥‥」
「う、うん‥‥」
澪ねぇちゃんに続き、俺もダイニングへと向かう。
澪ねぇちゃんの顔は、恥ずかしさと悔しさが混ざったような、複雑な表情をしていた。
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