第57話 ブラックユウ、発動(スキルによって三割増)

「ぶ、ブラックユウだと? うわさでは元々ヤバい勇者と聞いていたが」


「コニャック、あなたは一人の魔王を救おうとして多数の犠牲を出してきた。そして、理解不足とはいえ全世界の生き物を滅ぼしかけた。

 ブラックユウさんになった以上、いろいろな意味で観念してください。骨は埋めますし、般若心経で良ければ供養しますから」


 リョウタがどこからか出してきた数珠をジャラジャラ言わせながらコニャックに説明しだした。そんなに私は普段からヤバい奴と思われていたのか。そしてブラックという自覚ないけど、何かいつもと違ったことしたっけ? 心当たりはリョウタの四十肩マッサージとお灸くらいしかやってないが、あれは健康に必要な痛みだから善行だよなあ?


「ブラックユウさんって何?……」


 説明するにも自覚がないからわからん、とりあえずコニャックの頬をめがけてパンチを繰り出した。

 しかし、口の中を切っただけのようで、血をペッと吐き出した。


「ブラックというにはずいぶんとぬるい攻撃ですね」


「ティモ、植物市でもらったありったけの毒草と薬草を出せ」


「わ、わかった」


 ティモがザックから薬草と毒草を出してきた。乾燥しているから手持ちの酒の中にぶち込んで振る。抽出を手早くするには今はこれしかない。そしてできた液体をヒュドラの剣にかけた。


『ぐほっ! これは……』


『毒を持ってる我らでもキツいな』


 ヒュドラの反応からして、予想通りの出来だ。私はそれをコニャックに切りつけた。


「ぐうっ! いろんな毒と薬が混ざって不味い! うええ」


 やはりだ。毒ソムリエになるくらいだから、味にはうるさいはず。めちゃくちゃなブレンドにしたらきっと不味くなる。毒のダメージが効かない以上は不味いものを与えるに限る。


「しかも滲みるぅっ!」


 そうか、アルコールだから傷口に滲みるな。あ、そうだ。あれも加えるか。


「ティモ、ザックの中から辛いスパイスを何でもいいから出せ」


「う、うん」


 私はさっきの酒にさらにスパイスを入れて振り、剣にかける。


『ぐはっ! 剣の状態でもこれはキツい』


『本体はともかく心が折れそうだ』


「しばらく我慢しろ、十時斬りっ!」


「ぐおお、もっと滲みる! しかもヒュドラの毒と混ざってもっと不味い!」


「クックック、斬撃に強くても毒は不味い、傷口に滲みるのは辛いよなぁ。キン○ン塗っても滲みるからスパイスたんまり酒で刀傷ならなおさらだ」


 コニャックは今や地面にもんどり打ってもがいている。まさに塩をかけられたナメクジのようだ。


「リョウタさん、これがブラックユウさんなの?」


「うん、姑息というか、嫌がらせに磨きがかかるんだ。元の世……故郷でもやられたら『倍返し』どころか『十万倍返し』と言って仕返ししてたから」


『確かにえげつない反撃だ。剣の状態でもあれは不味いし、きつい。確かにブラックユウ殿だ』


「で、口の中に直にかけると」


 私はごった混ぜ薬酒の残りをコニャックの叫んでいる口の中をめがけて注いだ。


「ぎゃあああ! 不味い、滲みるぅ!」


 さっきの殴打で口の中を切っているからさぞかし滲みるだろうな、クックック。ワサビがあればもっと理想的なんだが。


「生きてるだけでも安心しろ。さらに傷口に塩をかけてもいいぞ。さ、辛くて詠唱は当面できないはずだ。魔王の封印場所まで案内してもらおうか」


「い、嫌だと言ったら?」


「ティモー、ありったけのミントを寄越せ。即席ミント酒作って頭からかけて寒がらせてやる。サイドの谷は寒いから余計に冷えるだろうな」


「そ、それは勘弁してくれっ! 案内するからっ!」


「ユウさん、本当にえげつないことは次々と思いつくね」


「僕は慣れているから。あれのせいで誰も彼女をいじめなくなったよ」


「……真に強いのはリョウタさんだね」


「じゃ、案内してもらおうか」


 私はにこやかにミント入の酒をシャカシャカと振りながら、できるだけ邪悪な笑みを浮かべた。

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