第58話 任務完了、別れの時
そうして片手に剣、片手にチャンポン酒を手にしてにこやかに案内してもらった。岩ばかりの場所の中、ぼんやりと赤く光っている岩がある。あれが魔王の封印場所なのだろう。以前の勇者が刺した剣も錆びついている。
「さて、詠唱が止まっているとはいえ、この様子は危ないな。剣も壊れかかっている」
「確かにそうだね。でも、僕たちは封印方法までは知らないよ。ユウさんの剣を刺すのかな」
「鈍いな、リョウタ。鍵はその錫杖だ」
「え? これ?」
「数々の戦いで力を見せてもらったが相当神通力がある錫杖だ。
そして、我らの世界にも錫杖を使って奇跡を起こした僧がいた。恐らく修行の一環として彼もここに来ていた設定なのだろう。ほら、伝説はたくさんあるだろ? 杖を刺して桜や松を生やしたり、水不足の村に井戸水を湧き起こすなど。魔物の封印などわけもない」
「って、まさかと思うけど、この錫杖のかつての持ち主は……」
「弘法大師様だ」
「えええっ! まさかの異世界に空海が?!」
「その時に布教もしたのだろう、だから仏教がこの世界にもあったのも納得だ。それに歴代のレトロゲームにも必ず日本の武将の武器や鎧があったからこれもその遊び心の一環だろう」
「あわ、あわわ、熱心な信者じゃないけど畏れ多くも弘法大師様の武器に服なんて、ら、ラフに着てたよ。そ、それに、ど、どうやって再封印を、あわわわ」
「大げさだな。そして、今回はこの世界を乱したコイツも一緒に封印だ」
「ええっ! ちゃんと喋ったし案内もしたのに?!」
「やかましいわ。ぎょうさんの魔族を犠牲にして、更にこの世界を滅ぼしかけた罪は大きおす。それにキルシュヴァッサーとジンジーニャの魂は一つ……いや融合してはる。じっくりと封印世界の中で説得をしなはれ」
「う……」
「で、でも、僕はこの錫杖を岩に刺すくらいしか再封印する方法思いつかないよ。コニャックも一緒にってどうやって?」
「多分だがこうする。私は無属性故に触れるがリョウタの光属性も必要だから二人で持って、私の指示通りにすれば恐らくうまくいく」
「ホントかなあ、ユウさんの戦い方はいろいろと王道から外れているから」
二人して錫杖を握り、真横に降ってコニャックを峰打ちのようにして上に放り投げる。
「トスッ!」
「ぐはっ!」
そのまま、上に放り投げるが、ちょっと落ちかける。
「レシーブっ!」
「どはっ!」
「仕上げだ、リョウタ。合言葉はわかってるな!」
「ここまでくればわかるよ」
『アタッ〜クっ!』
そのまま岩に叩きつけるようにしたら、コニャックは岩の中に吸い込まれて封印された。
「うむ、やはりバレーボールと同じ要領だったな」
「ユウさん、相変わらずえげつない。でも、仕上げにこの錫杖を挿せば神通力で数百年持つのではないかな、よいしょっと」
リョウタが錫杖を刺すとまるで砂糖菓子のようにあっさりと刺さった。
『ユウ殿、頼みがある。我らもここに刺してくれ』
「ヒュドラの剣?!」
「数百年もの間、コニャック様とキルシュヴァッサー様にジンジーニャ様だけでは退屈であろう。ジンジーニャ様には恩もあるし、我らはここで見守っていたい」
「そうか、わかった。魔王側だったと思えない優しさだな。あとは何か殺風景だから何かないかな」
そう思った時、首にかけたラッカスの実がふわりと浮き、錫杖にかかった。ものすごいスピードで実から芽吹き、錫杖を支柱のようにして育っていく。
「さすが、弘法大師様の杖だ。促成栽培もお手の物か」
「ユウさん、もうちょい言い回しというものが」
そうして、ラッサカドの若木が生えてきた時は岩の赤みがなくなり、静寂が戻っていた。
「鳥たちも戻っているし、匂いも薄くなってした。各地の歪みも無くなったようだね。あとは帰るだけだ」
リョウタがそう言った瞬間、私達の周りがキラキラと光り始めた。あの晩と同じ光だ。
「ユウさん、リョウタさん、ここでお別れなんだね。なんとなく会話からして外国人ではなく別の次元の人達と思ってたけど、やはりそうだったんだ。今まで一緒に旅してくれてありがとう」
「何を言ってるんだ、またどこかで会えるさ」
ティモがしんみりと言うが、オンゲーならまたどこかで落ち合えるだろう。
「ティモ君は……これからどうするのだい?」
「お父さんの遺品を探してみる。それからラッサカドのアイリスさんのお店も手伝わないかって話もあるし、そこで資金貯めてまた旅に出てもいいかな」
「そうか、なら安心だ。じゃ、僕達の食糧とお金を今のうちに渡すよ。僕たちは持ち帰れないからね」
「ちょっと待て、リョウタ。せめて宝石一個くらいは残そうよ」
「ユウさん、だから現実には持ち帰れないってば。ログアウトしたら消滅だから有効に使ってもらうのがいいじゃないか」
「だってぇ、武器もアクセもここで全部使ったしぃ。記念品くらい」
「じゃ、持ち帰れるかわかんないけどここの石ころ。マニアなんだから分析すれば貴重かもしれないよ」
「えー、蛇紋岩っぽいなぁ」
そんな私達のやりとりにティモはクスクスと笑う。
「相変わらずのユウさんだね。そのままの生き方でいてね。それから夫婦仲良くね」
「え、このままの生き方だと、また四十肩マッサージの刑が……」
『ユウ殿、世話になったな。ここの守備は任せておけ』
「おう、ヒュドラの剣もな。またいつか飲もうな、さよなら」
「ユウさーん、リョウタさーん、ありがとうー! さよーならー!!」
眩さは強くなり、周りが暗くなった。ログアウトしたということなのか?
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