最終話 全ては元通り??
「ユウさん、起きて。朝だよ」
「ああん?」
いつかもこんな起こされ方した。あのときは泊まった覚えのない宿のだったが、今回はいつもの和室リビングだ。どうやら飲みすぎて雑魚寝をしていたらしい。
「なんか、長い夢を見ていた気がする。今は何月何日の何時だ」
「夢ではないけどね。えーと、八月一日の日曜日の朝十時、十二時間寝てたのだね」
「今日が休みで良かった。あ、フローライトはどうしたっけ?」
箱を慌ててみると紫と緑色だったフローライトは粉々に砕けていた。
「あかん、これは再ログインできないやつだ」
「あ、プロローグ的な手紙と記念品が入ってるよ」
私の独り言を無視するかのようにリョウタは箱を探り続けた。そんなもの、昨夜は無かったのにリョウタは不思議がることなく手に取る。なんだ、バイク便で素早く届けたのか?
「僕宛のはミニチュアの錫杖と袈裟だ。コレクションケースに入れて飾ろうっと。ユウさんはあの谷の石ころとヒュドラの剣のペーパーナイフ仕立て。喋らないけど虹色できれいだよ。手紙は、日本語に訳されているね。ティモ君の後日談という形だよ」
「ほほう、読んで見るか」
『ユウさん、リョウタさん、お元気ですか。グラジオラス様の計らいでこの手紙を書いています。
あれからお父さんの遺品を探してみたけど見つからなかったので、代りにユウさんと同じように谷の石ころを形見として持ち帰りました。
今はラッカサドのアイリスさんのお店でお手伝いしています。
そうそう、ユウさんの言っていたことが本当になったよ。植物市でのモニュメントの紫の玉が茶色くなっていました。当初は魔族達がすり替えたのではと騒がれましたが、アイリスさん達はユウさんのアドバイスを守って、市がある日前後は家族全員が居場所をハッキリ皆の目に付くところにいたから疑われずに済んだそうです。そのお礼も言っておいてとも言われました。
とにかくその件と歪みが無くなったことで、魔族に対する風当たりが大分柔らかくなってきました。宿も今は大忙しです』
「へえ、アイリスさんの所も良くなってきたようだな。良かったな」
「ユウさん、あの紫の玉のカラクリ知ってるのでしょ? 教えてよ」
「簡単。あれはアメジスト。あの石は日光に弱いから晒し続けると茶色や黄色に変色して最後には無色となる。あんなむき出しの状態で植物市の数日間とはいえ年に何回も直射日光にさらせばああなる」
「さすが鉱石マニア。あ、まだ続きがある。『僕もユウさんを見習って石の勉強を始めました。サイドの谷の石ころはもしかしたらジェダイトかもしれません。だから魔王封印の地に選ばれたのだと思います。でも、これは内緒にします。価値があると知られたら魔王やお父さん始め沢山の眠っている人を荒らすことになるからです。
こんな感じで元気にやっています。二人共本当にありがとう。でも、ユウさんはもうちょっとリョウタさんに優しくしてあげてね。ティモ』」
リョウタが読み終えると私は慌てて探しものを始めた。どこにしまったっけな。
「ユウさん?」
「鑑定用のルーペとライト! どこ?!」
「どうしたのさ?」
「あの石ころがジェダイト、つまり翡翠だったらお宝ゲットじゃないか!」
「あの、それよりあの世界の平和やティモ君やアイリスさん達の……」
「あー!! 一個と言わずに十個くらい持ち帰るべきだった!」
「ユウさん、落ち着いて。ゲームだから持ち帰ってもきっとこうやって女神調整……いや運営補正で一個にされてるよ。これも記念品だからレプリカかも」
「ううっ、そうだった」
私は落ち込んでしまった。フローライトの状態からして再ログインできないし、くよくよしても仕方ない。切り替えるか。
「あー、封印した彼らも穏やかだといいな」
「さっきまで強欲で血眼だった人間のセリフとは思えない」
「何か言ったか? リョウタ」
「べ、別に。さて、記念品をしまえそうなケースを探そうっと」
何か誤魔化され続けた気がするが、まあいい。記念品として翡翠かどうか気にせず飾ろう。ペーパーナイフもプレイしていた時みたいに色鮮やかに再現されている。
(我らも穏やかに過ごしているぞ、安心せよ、ユウ殿)
はて、何か聞こえた気がする。
〜完〜
【完結】最凶の奥様、異世界をゲームと思い込み暴走もとい、無双する 達見ゆう @tatsumi-12
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