第43話 結果的に良かった……のか?
それからしばらく北へ北へと歩いていると小さな集落を見つけた。宿に武器や防具屋、雑貨屋に鍛冶屋というラインナップからして冒険者のための集落だろう。恐らくサイドの谷へ向かう冒険者は結構いるという事だ。
つまり、最終調整の場所だ。
「うーん、結局プラチナソードが最強の武器なのか。大丈夫かなあ」
私はプラチナソードを眺めながらため息ついた。どんな武器であろうと殴……もとい戦うけどラスボスに対しては戦力不足ではなかろうか。
「まあまあ、ユウさん。武器屋もあるからいい物売ってるかも。鍛冶屋で傷みを直して調整できるから」
「僕もちょっと防具を強化したいな。最終調整の場所ならいい物ありそう」
ティモが少し穴の空いた防具を眺めながら呟いた。確かに直接の戦闘はせずとも盗みなど素早く動くから摩耗が激しい。
「なんでリョウタの法衣だけ破けないで頑丈なんだ?」
考えてみれば布製なのだからミスリル製のティモの服より脆弱なはずなのだけど、破れもほつれも見当たらない。ローブの頃は毎晩繕っていたのに最近はそれも見なくなった。
なんかリョウタがビクッとしたが、怪しい。
「ああ、こ、これ、女神様が、じゃなくて、実は期間限定ガチャが、い、一回だけひけて」
ほうほう、初耳だ。無料ガチャの仕組みは知らんがきっとログインボーナスではなく、戦闘ポイント貯めるタイプだな。金だけでなく、それまで管理していたのか。
「で、大当たりの『素材強化スキル』が出たからそれに全振りしちゃったんだ。だから頑丈なの」
私は青筋を立てるのを我慢しながら詰問した。
「ふうーん。なぜ、私に黙ってた」
「ホントのこと言っても信じな……いや、だって前のローブの時に散々な目に合わされたから、せめて防具だけでも強化したくて」
「どっかの痛がりで防御全振り少女のような真似するなぁ! それで私の武器強化できたじゃん!」
リョウタめ、自分だけちゃっかりしやがって。あとで宿で四十肩マッサージの刑だ。肩だけでなく首や背中の凝りに凝った筋肉に全力でやってやる。
「だ、だから武器屋、行こう、ねっ?」
「いいモノ無かったら……わかってるだろうなあ」
「あの、張り返しが無いようにお願いします」
「これで仲良い夫婦だから不思議だよね」
私達は三者三様の思いで武器屋に入った。
結果はリョウタの錫杖は当たり前だが東方の物自体がレアだから無かった。私のプラチナソード以上の物も無かった。
ティモのタガーだけ風属性強化のものがあったので買い換えた。
防具屋も似たような物で、シーフのベストがプラチナ製が置いてあったこと、今のよりスピードアップ効果があるブーツを買い換えた。
「シーフだけ強化してもなあ」
私はリョウタを睨みながら不満げに言うと防具屋の主人がアドバイスをくれた。
「隣の鍛冶屋で強化してくれるかもしれないよ。魔物から手に入れた品によっては混ぜることで属性強化されることあるから」
ふむ、そうでなくても少し剣に傷みもあるからせめて打ち直しだけでもしてもらおう。
***
「すみませーん、武器や防具を打ち直したいのですが」
「あいよ、ちょっとこの武器を仕上げるまで待ってな」
鍛冶屋の主人はでっぷりとしたドワーフであった。ティモ以外で人間と共生している異種族はそういえば初めてみる。
「あのー、素材を混ぜられると聞きましたが?」
リョウタが控えめに尋ねるとドワーフは仕上げの手を休めずに答えた。
「なんでもって訳じゃないぜ。たまに魔物から落として行くモノによっては可能だがな。ま、俺が作業している間にそれっぽいのを出してみな」
それっぽい物、魔物から得たのというのではラッカサドでもらったネックレスは違うな。ガーゴイルの石は大半を売り飛ばして小石が底に数個ある程度、あとはティモが取ったヒュドラのウロコ数枚、ヴァンパイアのマント飾りに日焼け止めオイル、スケルトンのカルシウム剤か。
なんかどれも期待できそうにないな。と思ってたら鍛冶屋の主人が意外なことを言った。
「おっ、なかなかいい品揃えだな」
「へ?」
「ガーゴイルの欠片、ヒュドラのウロコはレアだ。どっちも倒すのが難しいし、特にヒュドラのウロコは戦いで傷むからこんなに状態がいいのが何枚もあるなんてすげえな」
結果的に生け捕りに近い形で取ってきたのが良かったのか。
「こっちの粉末やマント飾りは防具の強化に使えるな。だが、属性によっては身につけられないがお嬢さん、属性は?」
「無属性だが」
「ほう! ならば何でも付けられる。縛りが無いなら好きにできるな。そっちのクレリック?は光、シーフは風か。シーフならヒュドラの鱗を混ぜ込んだ武器はできる。強化だけではなく、毒属性が付加されるからな。ただ、東方のクレリックの杖は打ったこと無いなあ」
ドワーフは腕組みをする。今更、普通のクレリックの杖は強度も魔力も今ひとつだろう。
「あ、ならばいいです。元々クレリックだから攻撃力はそこそこで」
変にいじられるよりもとリョウタが辞退したので、私とティモの武器と防具を強化することにした。
「ま、いいや。グラジオラス様からは最強と言われたし」
「ん? リョウタ、なんか女の名前を言ったか?」
「い、いやいやいや。この世界で信仰されてる神様だよ!」
「ふーん」
本当だろうか? どっかの酒場のお姉ちゃんじゃないだろうなあ。それとも魔法使いの女に強化魔法使ってもらったのか?
今夜はやはり四十肩マッサージの刑だ。
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