第42話 ヴァンパイアの倒し方が何かがおかしい

「くわー、サイドの谷はまだかー! 魔物もワンパで飽きてきた!」


 似たような平原を歩いて飽きてきた。魔物も中ボスクラス以外のウルフハウンドやダークエルフばかりで飽きてきた。


「ユウさん、ウルフハウンドやダークエルフで飽きるって……」


 リョウタがツッコミを入れるとティモまで相槌を打ってくる。


「彼らって、すごく強敵だよ。ユウさんがサクサク倒すから気づいてないだけで」


「うーむ、こう、なんというか。他に変化というか別の種類の魔物居ないの? 吸血鬼とかゾンビとか。いや、ゾンビは臭そうだからいやだな」


 私が呟いた時、俄に上空が暗くなってきた。


「ん? 曇ったにしては変だな」


「ユウさん、噂するから来ちゃったよ。ヴァンパイア」


 上を見ると黒装束にマント、人間型に大きな羽根のヴァンパイアが高笑いしながら降りてきた。


「うわははは、貴様がユウか。仲間が次々とやられているが、我はそうは行かないぞ」


 なんつー陳腐なセリフだ。死亡フラグをビンビンに立てている。


「ヴァンパイアって一応闇属性だから、般若心経は役に立つかな」


「リョウタさん、とりあえず補助のクイックを皆にかけて。それからユウさんには物理攻撃を任せよう。僕はかく乱とアイテム盗み狙う」


 リョウタとティモはしっかりしてるな。私は何も考えずに殴る、いや斬るのだが。でも、一つだけツッコミ入れたくてヴァンパイアに聞いてしまった。


「あのさ、なんで昼間なのに動けるの?」


 空は雲一つない快晴。手製の日時計を見ると一時くらいだ。普通なら棺桶に寝ている時間だ。


「ふっ、それはだな」


 また魔王に身体を強化されたか?


「特製の日焼け止めを塗っているからだ」


 私達は三人ともズッコケてしまった。ゲームにもイロモノ系モンスターはいるが、まさかヴァンパイアが日焼け止めとは。


「偶然あるオイルを塗ると日光を浴びても火傷しない事に気づいてな。それから苦節百年、色んなオイルや薬品を調合してできたのが、これだ。おかげで昼間から人間を襲える」


 ヴァンパイアは意気揚々と瓶を掲げた。何やら液体が入っているからそれが日焼け止めなのだろう。

 私は自称ヴァンパイアを目を凝らして見た。何か塗っているにしては肌にツヤはないし、顔色悪いのはヴァンパイアだからとしても納得いかない。


「うーん、本当に日焼け止め塗ったヴァンパイア? ウソついてない? ヴァンパイア装った鳥人間じゃないの?」


「なんだと! 我を疑うのか?!」


「だってさぁ、ニンニクや十字架は我慢出来そうだけど、命に関わるものがそんな液体で防げるって嘘っぽいじゃん」


「じゃあ、試しにこの手を見てみろ」


「うーん、そう言って掴んで襲う気? でも、お肌は気になるなあ。では、ちょいお手を拝借」


 私はヴァンパイアから念の為に利き手ではなさそうな左手をとった。確かによく見るとオイルのツヤが確認できる。それに驚くほど白い手だ。


「ユウさん……。またバトルが変な方向へ向かってる」


「もしかしたら、作戦かもしれないから僕は盗みを実行続けるよ。リョウタさんも補助魔法はかけ続けてね」


***


「え? マジで塗っている? これでこの美白? すごーい! 自然な感じー!」


 思わずどこかのテレビショッピングみたいな反応をしてしまった。確かに何かオイルっぽい何かを塗っている。しかも日焼けしていないからバッチリ美白だ。これ、人間相手に商売できるのではないか?


 私が本気で驚いたからヴァンパイアは得意気になったようだ。


「ふはは、百年の努力と叡智の結果だ」


「うーん、人間界の日焼け止めって効果高いほどお肌に負担かかるし、落としにくいのよね。その辺はどうなの?」


「基本、我は不死身。故に肌荒れはない。しかし、塗りすぎて服が汚れそうになることもある。その時は拭き取り用オイルをこうしてだな」


 そう言うとヴァンパイアは別の瓶のオイルを取り出し、左手に塗ってハンカチで拭き取った。


「こうすれば簡単に落ちる。……うぐっ!! ぐわぁあ! 熱い!」


 左手から身体が灰になっていく。そうか、日光をガードしているところが無くなったからそこから火傷の灰になって消滅か。


「流石だ、ユウ。これも作戦だったのだな。だが、他にも……」


 最後の捨て台詞もままならないうちにヴァンパイアは灰になって消滅した。って、単なる自滅にしか見えないのだが。ま、いいか。


「ティモー、なんか見つかった?」


 私は少し離れたティモに声をかけると戦利品を掲げた。


「えーと、今のオイル二種類とマント飾り。赤い石だから、何かの強化アクセサリーかも」


「流石だな、シーフは素早い。日焼け止めも入ったし薬屋に売れば分析して量産してくれるかも」


「ユウさん、金儲けモード止めたの? って、また斜め上な倒し方してるし」


「だって分析してる間に二十一日経ってしまうし。敵が強くなっているからボスは近い。急ごう」


「お、おう」


 とりあえず懲戒免職は避ける。これが第一順位だ。運営も何かヒントくれれば早く動けるのに。

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