第41話 アンデットの倒し方が何かがおかしい
硫黄の匂いが少し強くなってきた。サイドの谷が近いと同時に火山ガスの空間はまだ繋がっているということだ。ある意味目安になるが、近づき過ぎると自分たちも危険だ。
「火山性ガス吸って死んだ兵士もいるのだろうな」
私が呟くとリョウタが答えた。
「そりゃ、どっかの雑貨屋の店主も言ってたね。バタバタ倒れたって。その前にも魔王と討伐軍の戦いもあった訳だし」
「そういうのって、死体はそのままだよね。やだなあ、アンデッドになって襲ってきたら」
ティモが不安げに言うが、ゲームだからご都合主義でそんな死体は消滅してるか最初から出ないだろ。第一ここはそんなに陰気臭い空気では無いよな、と思ったら複数のスケルトンが現れた。ざっと二十人ほど、骨の形からして元人間と元魔族と半々くらいだ。
「お前がユウか。これだけ居ればお前でも叶うまい」
「キシャー」
「ヒュウウ」
代表格のスケルトン以外は喋れないらしく、喉から変な音を出すのみだ。私の名前を知ってるということは魔王の刺客か。
「噂をすれば、と言う奴か」
やれやれ、ここのゲームは空間の歪みだけではなく、いろいろと法則が当てはまらない。私が剣を構えると、ティモが不安げに悲鳴をあげた。
「うわああ、ホントに骸骨が剣持って喋ってるぅ!」
ティモはアンデッドは初めてなのか。まあ、でも数は多いが動きは遅めだし、これなら一刀両断で楽に行けるか。私はリーダー格の一体を切りつけ、剣を持った腕を落とした。
しかし、落としたはずの腕はふわりと上がり、再び元に戻ってくっついてしまった。
「物理攻撃が聞かないのか。ティモは風魔法だし、炎水晶で燃やし尽くすしかないか」
「ユウさん、ここは任せて! アンデッドは白魔法に弱い!」
そうだった、リョウタは回復魔法ばかりだが元はと言えば白魔法使い。ということは光系だ。
「任せた! リョウタ!」
何が回復魔法をかけてダメージを与えるか、聖なる魔法を発動させるかと思ったら、唱えた呪文が予想外だった。
「般若波羅蜜多〜〜」
……いつぞや私が教えた般若心経だ。確かに一番短くて覚えやすいし、装備も袈裟に錫杖とお坊さんだけど。
「色即是空、空即是色〜〜」
しかも、いつのまにか数珠まで手に入れている。植物市で何かの種で作って特注していたか?
「うう……」
「おお……」
「な、なんだ、この暖かい光は??」
だが、アンデッドにはよくわからないが効いているようだ。武器を取り落とし、中には消滅して昇天する者も現れた。
私とティモはリョウタをガードしながら般若心経を唱え続けさせる。
お経二巡目が終わる頃には全てのスケルトンが光となって昇天し、成仏していた。
「やっと回復以外で役に立てた。ユウさんの言う通り般若心経ってすごいね!」
「お、おう」
異教のお経でもアンデッドが倒せるのか。というか、アンデッドって死者だから成仏させた訳か。
「まあ、嬉しそうに空へ昇って行ったから、むしろ良いことしたのじゃない?」
そうかもしれない。死んでもなお、働かされるとは魔王はブラックな雇用主かもしれない。ヤマタノオロチもどきは称えてたけど、上と下に待遇の差があるのかもしれない。なかなかシビアな職場だ。
「金貨やアイテムはあまり落ちてないけど、何か無いかな? 武器や防具は大したことないし」
ティモがスケルトンがいた辺りをチェックする。
「ん? これは?」
ティモが何かを拾い上げた。私達にはお馴染みのアイテムだが、スケルトンには無用と思われる物だ。
「えーと、『カルシウム剤』と書いてある。中身は振るとシャカシャカ言うから粉末だね」
ツッコミどころ満載だが、アンデッドが服用して効く物なのか?
「もしかして、形が保てなくなった仲間の身体を粉砕して売って副業にしてたとか?」
「リョウタ、さっき見たろ? アイツらは既に死んでいる。腕を切っても再び繋がったから再生する。削っても元通りなんじゃないか?」
「じゃあ、これって、再生するから自らの身を削って売ってたの?」
「……」
三人が三人とも黙り込む。昔の日本では血を売ることができたというが、スケルトンには血はない。文字通り身を削って活動費に当てていたのか。私は器をリョウタに差し出した。
「これにもお経を唱えてやってくれ。何もしないよりマシだ」
「う、うん」
今度から買い物する時は原材料やどこの製品かを確認しないと。マフィアだけではなく、魔王も闇商売しているのか? それとも、下っ端は副業しないと生活がままならないのか? それとも魔王に搾取されてるのか? なんだか訳が分からなくなってきた。運営も手抜きというか世界観がいい加減だな。
「なんか泣ける話だな。下っ端はどこも大変なんだな」
「うん、さっきのスケルトン達は成仏させて良かったと思う」
「とりあえず武器の強化材になるかもしれないから粉末は貰っていこう」
私はザックに入れるとリョウタはドン引きした顔をした。
「ユウさん、持っていくんだ……」
「だって、陶器のボーンチャイナは牛の骨で綺麗で丈夫な皿になるし、これも何かの原料になるかも」
「いや、そういう問題ではないかと」
とりあえず供養したから何も問題無いと思うがティモまでなぜドン引きするのは解せぬ。
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