第27話 奥様はワイルドがお好き
「さーて、野営だ野営だ」
ユウさんはウキウキと火起こしをしている。火付け用の炎の魔法パックで火を付け、風属性のティモ君が簡単な魔法で空気を入れてあっという間に焚き火ができた。
火付けだけでも、こうやって見ているとつくづくファンタジー感満載の異世界だ。
「こういう時はカレーが定番、さーてお湯沸かして野菜を切って、と」
「あの、ユウさん、ここにはじゃがいもはもちろん、カレー粉も米もないよ」
「しまった! 仏教があるからカレーもあると油断してた!」
こういう時は本当に天然だ。異世界ファンタジー小説では度々ジャガイモ論争が起こるが、ユウさんはそれすら飛び越えてカレーが異世界、もとい彼女が思い込んでるゲーム内にも普通にあると思ってる。
「かれー?」
ティモ君が聞き返してくる。ユウさんはひたすら「キャンプと言えばカレーなのにぃぃ」と頭を抱えているから代わりに僕が答える。
「僕達の国の料理というのかな。スパイスが安いし、作るのが簡単だからよく食べられている」
「スパイスが安い! こっちじゃお高めなのに、東の国ってやっぱり不思議な国だね」
「いろいろな国があるさ。こっちはこっちで故郷では見かけない生き物や料理が沢山あるし」
「あー、カレーの楽しみが~!! 昼間の熊の肉を夕飯用に持ってくれば良かったなあ」
「確かに火を通すなら持ってくれば良かったかも。でも熊も味には当たり外れあるからね。熊の手を切る時も手こずってたし、筋が多そうなハズレ肉だったと思うよ。とりあえず山菜と出汁代わりの干し貝柱を入れたスープを作るよ」
「えー、それとパンだけなんて物足りない」
ユウさんがふくれっ面していると、ティモ君がおずおずとザックからウサギを取り出した。
「あのさ、そうだと思って戦闘の合間にウサギを取っておいた」
モンスターとの戦闘の合間なんていつの間に。やはりシーフは素早い。
「おおー! 少年、エラい! じゃ、捌いて焼くか」
ユウさんもウキウキと鼻歌を歌いながら捌き始めた。この辺りはアウトドア歴が長いユウさんに任せよう。料理をある程度する僕でも流石にウサギの解体はやったことがない。
「ふふふ」
ティモ君は照れるように笑った。
「なんだか、皆でご飯作るのは楽しいね」
そうだった。この子はずっと一人で旅をしてたのだ。しかも魔族のハーフ故の差別も受けながら。こうして皆でご飯を作るのなんて初めてかもしれない。
できればこのまま一緒に居てあげたいような気もするが、僕達にも事情はある。
どうすればいいのかなと思っていたら、ユウさんが捌き終わったウサギを削った枝に刺して焼き始めた。
「さて、塩を降って焼くと。こういうシンプルな味付けも美味しいのよね」
「ユウさん、あのさ、ウサギを丸焼きにするの?」
「焼けた後に切ればいいだろ」
「頭も手足もハッキリしている……」
そう、皮を剥いて、内臓を抜いたウサギが焚き火に炙られていた。隣にはモツと思われる内臓もいくつかある。ハツやレバーなのかな。
「そりゃ、丸焼きだから」
「……僕はいいや、二人で分けて」
モンスターは倒すと消滅するし、熊は手以外はそのまま置いてきたからこういう耐性が無かった。せめて元の世界で豚の丸焼きを一度食べておけば良かった。鳥の丸焼きなら平気なのに、四本足の動物だと罪悪感がするのはなぜだろう。
いや、豚の丸焼きなんて提供する店なんて日本にはあったのだろうか? それ以前にそれを分け合うほどの仲良い友達もいない。
「いかん、またなんかコンプレックスを……ううう」
コンプレックスをまたも思い出し、頭を抱えている僕をユウさんは呆れて見ていた。
「どうせ、ぼっちの黒歴史でも思い出したんだろ。自分だけキャンプに誘われなかったとか。これだからお坊ちゃま育ちは」
「リョウタさん、お金持ちの家なの?」
「うーん、金持ちって程では無い普通の家だ。ただ、いつもはツアーで宿屋に泊まってたからな。こういうキャンプというかサバイバル的な旅は私は独身時代にやってたけど、彼はそういう趣味がなかったからな」
「言ってる意味わからないけど、リョウタさんのお家は上品な家なんだね」
「そうとも言えるな。魚の塩焼きだって言わば生き物の丸焼きなのになー。じゃ、二人で分け合うか」
「そうだね! 取り分増えるし!」
元の世界に戻ったら豚の丸焼きは無理でも、お取り寄せで羽付き鶏でも料理して耐性を付けようと思いながら、僕はスープをすするのであった。
「アウトドア知識も大事だなあ」
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