第28話 ユウ、二度目の白い部屋召喚(本人はお知らせと勘違い)

 そうしてリョウタ以外は楽しく食事をして、私達は眠りについた。


 気がつくと白い部屋に居た。見覚えがあると思ったら最初のチュートリアルの部屋だ。あれか、規約を最後まで読まない限り、同意するのボタンを押せないとか繰り返し出てくるやつか。面倒だな。


 またあちこち早押しタップして終わらせないと。こういうのはイライラする。あの女が出てきたら適当にタップしよう。


 そう考えたその時、女性の声がした。


「えー、わたしは女神グラジオラス……違った。ゲーム『異世界フォルス再生』の運営会社の代表グラジオラスです」


 声だけということはどこかからのアナウンスか。なんか不具合起きたのか?


「やっとヘルプページに付いたか。あのさあ、スキルがおかしいのだけど」


「それは私の感想……ゴホン、開発中のため不具合が起きることもあります。ご理解ください」


「納得いかないなあ。テンプレの回答なんだろうけど」


「開発中のため、実装していない機能もございます。ご理解ください」


 不満をぶつけるが、お構い無しにアナウンスの声は淡々と続く。この辺もテンプレートなのか。


「あなたの役目……もといこのゲームは異世界に転移したプレイヤーが世界崩壊の危機から救うものです。基本は封印が解けかかっている魔王の再封印ですが、フリーシナリオ形式でもあるため、他の危機を救ってもクリアとなります」


「最近のソシャゲと違うな。ストーリーを解放せずにひたすらイベントに継ぐイベント、ガチャでSSR新キャラ出し続けて、課金させまくって終わりのないというのが定番だが。終わりがあるの? 無課金勢だから課金してガチャしないけどさ、無料ガチャすらないのがケチくさい。他にもログボが……」


「……開発中のゲームであり、実装されていない機能や内容等変更することもあります。ご理解ください」


 いろいろ不満をぶつけるが、本当にテンプレートの回答しかしない。めんどくさいなあ。前に出てきたチュートリアル役の女神もいないからタップできない。試しにあちこちパンチやキックしてみたが空振りだった。


 夢だけど空振りしすぎて疲れてきた。寝るか。最近のVRは眠って夢を見る仕様なのか。すごい進化だけど、チュートリアルがめんどくさい。


「テンプレ回答しかないなら、めんどくさいんで寝ていい? ふあーあ」


 とりあえず横になって寝た。まったく、夢の中で寝る夢はみたことあるが、本当にVR空間でも眠れるものだな。



「開発中のゲームであるため……って寝ちゃった。やっぱり出ていってぶん殴っていい?」


 物陰からグラジオラスとリョウタが様子を伺っていた。飛びかからんばかりのグラジオラスの服をリョウタが引っ張って阻止する。


「グラジオラス様、お止め下さい。まだ怪我は治っていないのですから。妻は寝起きが悪いと言いましたよね? 返り討ちに遭う危険ありますよ」


「確かに寝起きの凶暴さは身をもって経験したわ。しっかし、ゲームの振りをしての説明作戦は失敗だったわね」


 嘆くグラジオラスに対してリョウタは冷静に返事をする。


「まあ、あの人は面倒くさがりだから。こうなるのはある程度予想付いたけど。元々チュートリアル飛ばす人だし、問い合わせもテンプレ回答続くとキレて退会もしょっちゅうだったから、今回もテンプレばかりだから飽きてしまったみたいだし」


「だって、本物の異世界だというとまた信じないから。ログボもイベントもないのは本物の異世界だから当然だし」


 リョウタは腕組みして考えた後、提案した。


「今度ここへ呼ぶ時には偽イベントをしかけるか、朝起きた時にログボのふりをしたポーションなど雑貨を置いておきますかね?」


「うーん、それをやるとログボの雑貨にケチを付けそうで運営こと私に対する不満が高まりそうだから言うこと聞かないかも。

 でも、ゲームと勘違いしているから死の恐怖や罪悪感ないから容赦なくやって敵を倒せるのよね。悩ましいわ」


「このまま、僕が妻をゲームと認識させたまま誘導していきます。また何かあったら打ち合わせしましょう」


「そうね、それが現時点ではいいわね」


 グラジオラスは諦めたように同意した。


「悔しいけど、あの女はスキル無しに等しいのに強い。彼女に頼るしかないわ」


「……凶暴をスキルにしたから倍増しているのでは」


「何か言った?」


 グラジオラスがジト目で聞き返してきたのでリョウタは慌てて否定した。


「とにかく、ユウさんと僕は目覚めて戻ります」


「もしかしたら、この世界を救う鍵は彼女自身より彼女を如何に制御できるかだわね。頼むわ」


「分かりました」


 こうして、ユウの誘導作戦は失敗してしまった。課題はまだまだ多そうだ。しかし、やらねばならない。ユウを抱えながらリョウタはため息をつくのであった。

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