第20話 女神との定期打ち合わせ・第三回

 リョウタはまたあの白い部屋にいた。


「なんか新しい情報があったのかな?」


 キョロキョロしてみるが、また姿が見当たらない。


「また包帯替えてて遅れてるのかな?」


 そう思ってたら、案の定女神が現れた。少し足元の包帯が取れかかっている。


「グラジオラス様、あぶな……」


 リョウタの警告も間に合わず、彼女は足元の包帯をもう片方の足で踏んで派手に転んでしまった。


「あいたたた、ごめんごめん。包帯取り替えてたのだけど、慌ててしまって」


「あー、動かないでください。僕が包帯巻き直して治癒魔法かけます。全快まではいかなくても痛み止めくらいにはなるでしょう」


 やはりそうだ。タイプは似ていても、ユウさんと違ってグラジオラス様はドジっ子要素があるようだ。ユウさんは少なくとも不注意による怪我は見たことがない。トラックにはねられても、きっとトラックが破損するか両手で受け止めるような気がする。

 不意打ちとはいえ、ユウさんが女神に勝ったのはその違いかもしれない。そんなことを考えながら包帯を巻き直し、錫杖で癒しの光を出す。宗教が違っていても使える魔法は同じだが妙な気分となる。


「ありがとう、優しいのね」


「ところで新しい情報ありましたか?」


「大してないわ。あなたが昼間に聞き込みしたのと同じくらい。ところで仏教徒のお坊さんの格好してるのはなぜ?」


「諸事情で」


 ユウさんが浪費したツケとは言いたくない。


「まあ、日本人は大抵は仏教徒だし、宗教にいい加減……ゴホン。寛容だからいいわ。それ、法衣も錫杖もかなり霊力が高いわ。最強ランクだから手放してはダメよ」


「それは僕も感じてました。やはり前の持ち主は徳の高いお坊様でしたか。でも、異世界でずっとお坊さん……。それよりもユウさんにすっ転ばされて擦り切れたらどうしよう」


「大丈夫よ、破れにくいように強化魔法をかけてあげる。そのくらいすごい法衣だわ」


 そういうとグラジオラス様は法衣に手を当てて何か唱えだした。法衣が一瞬光る。


「これでよし、自動修復機能も付けたからちょっとした傷みなら勝手に直るわ。錫杖は元々頑丈みたい。年季物というより考古学的な年数が経っているだけど現役だから相当なものね」


「ありがとうございます。最強の武器と法衣という訳か。その最初の持ち主に会ってみたかったな」


「まあ、どこかで知ることになるわ。ところで仲間にした子どものことだけど」


 昼間の出来事をほぼ把握している訳か。いや、待てよ。ならばさっきの格好について聞いてきたのはわざとかいっ! 女神にまでいじられる僕は一体……。


「あの子になんだか違和感を感じるわ」


「実は魔族という疑いですか?」


「いえ、嘘はついてない。光の洗礼の印からもちゃんと光のエネルギーを感じるし。ただね、魔族と人間のハーフ、光の洗礼済という事情を差し引いてもあの子から感じる魔力が強いの。何かおかしいから気をつけて」


「それは眼帯をつけて左手に包帯を巻いて『鎮まれ、鎮まれぇ! 左手よ!』とか目を押さえて『くっ! 封印されし眼がぁ!』と言い出す危険性ですね。あの年頃には時々ありますからね」


「ちげーよ。なんで魔力があるファンタジーの世界で中二病なんて出るか。

 ハッ! いけない、私としたことが下品な言葉を。本人も気づいてないみたいだけど、うーん、うまく言えないけど何かおかしいの」


「少なくとも 、ティモ君はユウさんの言うことには従うと思うので、あまり心配してないです」


「ホントにあの女、子どもにもえげつないことするわね」


 グラジオラス様は片手で頬杖(もう片腕はまだ吊っているからだ)つくようなポーズでため息ついた。


「セイレーンの時もティモ君の時も、僕はちゃんと警告したのですけど、どっちも言うこと聞かなかったからなあ」


「あなた達、子どもが産まれたらどう育っていくかなんとなく想像つくわ」


「余計なお世話です。それより話がズレています。結局有力な手がかりはないし、魔王封印の地であり、ティモ君の目的地でもあるのでサイドの谷へ向かってみます」


「そうね、頼んだわ。間違っても奥さんが封印を壊さないように見張ってね。あの女がいると嫌な予感しかしない」


「……その点だけは僕も同意です」


「あとはね、サイドの谷は寒いからそういう備えもしっかりね。じゃ、朝だから今日はここまで」


 そうして僕は目覚めた。まあ、今回は法衣の強化してもらえただけでも良かった。少なくとも繕いものの必要性は無くなる。

 しかし、最強クラスの防具に武器なのに銅貨五枚で手に入ったということは異教徒の物だと鑑定眼が鈍くなるのか、知識不足によるものか。


「知識って大事」


 僕は改めてそう思った。

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