第21話 ゲームという割には現実的な推測

 サイドの谷は北部にあり、寒いところらしいので、防具屋と道具屋に立ち寄って防寒具などを買うことにした。まあ、元の世界のお坊さんだって袈裟の上にダウンコート着ることだってある。こっちでは更に街中で浮くのは確実だが仕方ない。途中にも街があるからそこにもいい物がありそうだし、気が早いかもしれないが、情報収集や下調べも兼ねている。


 それに予算があればティモ君の武器類なども新調させたい。


「いろいろあるなあ。炎パックの力を弱めたカイロなんてのもある」


「ああ、それは破裂しないようにギリギリまで魔力を抑えて内部に炎の力を溜めておけるんだ。効き目は一晩くらい」


 ティモ君が出番が来たとばかりに解説する。


「いわば使い捨てカイロか。ふむ、砂鉄とバーキュライトが取れれば魔力の要らない使い捨てカイロを作って一儲け……」


「ユウさん、だから金儲けモードに入らないで!」


 僕がツッコミ入れるが、本人は意に介さず炎が中で燃えている水晶を手に取る。


「じゃ、この炎入り水晶は? 見た目が不思議だな」


「それはね、パックより強い炎の魔力を水晶に封じ込めた炎水晶。いざと言う時に投げると強い炎攻撃ができる。それ以外にも身体も暖めたり、灯りにもなる。便利だけど高いよ。他にも氷や雷などいろんなタイプがある」


 品物を聞くとティモ君が解説をしてくれる。子供とは言え、この世界の人が一人いるだけでも情報が入るのはありがたい。ああでもない、こうでもないと品定めをしていたら店主が声をかけてきた。


「お客さん達は冒険者かい?」


「はい、魔王封印が解けかかってると噂を聞いて確かめに行こうかと」


「うーん、行くの止めた方がいいよ?」


「もちろん、道中の鍛錬は欠かしませんが、何でですか?」


 店主がお約束のセリフを言い出した。どうせ帰ってきた者はいないとか、一帯は冒険者の骨だらけとか。でも、王国軍がガードしているから必要無いということか?


「あそこは今は立ち入り禁止で無人だよ」


 へ? 話が違う。


「変だな、どっかで封印場所は王国軍がガードしていると聞いたぞ。なのに無人? 軍隊はどこへ?」


「王国軍? それが皆倒れてしまって」


 店主は予想外の返事をした。倒れたって何があった?


「軍隊が? 魔族の襲撃か? 魔王封印が解けかかっているから魔力にやられたのか?」


「いや、はっきりわからないがある時、異臭がしてバタバタ倒れてしまったらしい。離れると治るが、近づくと具合が悪くなるので撤退せざるを得なくなった。それでガラ空きになったから冒険者達が我こそは先にと行くのだけど同じ目に遭って帰ってきた。鳥ですら上を通ると落ちるくらいだ。魔王の呪いとも言われてるね」


「ふむ、空間の歪みで火山か温泉地が近くに現れたのだろう」


 ユウさんがポツリとつぶやく。変にリアルだが、異臭という点からして僕も同意見だ。恐らく火山性ガスを出す空間が近くに出現して軍隊は酸欠を起こしたのだろう。しかも谷だ。火山性ガスは確か酸素より重くて滞留しやすい。


「恐らく那須の殺生石と同じだね。ユウさん、どうする? 話からして近づくと酸欠起こす。かといって封印を強化なり対策しないとこれが続く。歪みがまた起きれば、火山性ガスの噴出口はどっか移動するかもしれないけど時間が無い」


「原発の廃炉作業並の難度だな。ほっとくと危ないが近づいても危ない。かと言って作業用ロボットなんて無いしなあ。うーん」


「……君の発想はいつも斜め上だね。さすがにプルトニウムやセシウムよりは安全でしょ」


ユウとリョウタが話し込んでいる時、ティモがそっと店主に聞いた。


「おじさん、二人が何を言ってるのかわかる?」


「いや、さっぱり。東方の国は不思議の国と言うから、こちらには無い物を言ってるのじゃないか?」


「本当に不思議なものがいっぱいある国なんだね。いつか行ってみたいなあ」


「海を越えるのが大変らしいぞ。隣の国が侵攻しようとしたら神の加護によって軍艦が全滅したという話があると東の商人から聞いた事ある」


「それはすごい! あの二人はそんな海を越えてきたのか。だから強いのだね」


 ティモ君と道具屋のおじさん達が何やら話しているが、僕達は協議を続けた。


「酸素ボンベみたいな物を探すか作るかだな」


 ユウさんの提案に僕は異論をとなえる。


「ファンタジーで酸素ボンベねえ。皮袋に空気入れて吸うしか思いつかないな」


「皮袋でも縫い目から空気が漏れるぞ。難易度高いゲームだなあ。普通はどっかにヒントなり攻略サイトあるのだが、開発中のモニタープレーだからそれも無いし」


「ニカワか蝋を使って塞ぐ? それでも大きく作ってもせいぜいゴミ袋十リットル分くらいが限界だよね。かさばるし、戦闘すると僕はともかくユウさんは酸素使うし 」


「その時はリョウタの分を使うか」


「その答えは予想できた。僕だけ殺す気ですか」


 いや、本当に死ぬ。女神の采配で元の世界に戻るだけなのかもしれないが。ユウさんはゲームと勘違いしているから僕に対する鬼畜度がいつもより高い。と、思ってたらまともな見解を出してきた。


「いや、確か那須の殺生石だって観光地として成立しているのだから、サイドの谷もずっとガスを出している訳ではないと思う」


「あ、そっか」


「カナリヤを持ち歩く訳にいかないから、鳥が飛んでいるかどうかを目安にして、飛んでいる時に探索、異臭がしたら皮袋ボンベを使って撤退が現実的だろう。様子を見るだけならそれで足りる。再封印の時はまたは考えないとならないがな」


 すごい、ユウさんがまともなことを言っている! 初夏だけど雪が降らなければいいけど。


「リョウタ、今、なんか失礼なことを考えなかったか?」


「い、いや、そんなことないよ」


 僕は慌てて首をブンブン振って否定する。女神もユウさんも勘が鋭い。人間でも神でも女性は鋭いものなのだろうか。


「あとはリョウタの解毒魔法とここに売っている魔法グッズで何かあるかだな」


 そうだ、僕の魔法で解毒しながら進む方法もある。魔力回復グッズも多めに買っておかないとならない。

 僕達は道具屋をくまなく眺め、買い物を続けた。

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