第22話 いざ出発。けど旅立ちが何かがおかしい
こうして旅支度を整え、僕達は北へ向かって街を出た。容疑者の情報などいろいろ錯綜しているが、結局は最低限のミッションをクリアすることを優先して行くことにした訳だ。
もし、クリアに間に合わなくて元の世界で懲戒免職になったら、女神様に頼んでこの世界にユウさんとスローライフでも送るかな、でも頑なにゲームと信じているユウさんをどう説得するのかが問題だが。
街の外に出るのは初めてだ。ダンジョンである程度鍛錬はしたからゴブリンくらいなら楽に倒せるだろう。
と、思ったらやはり現れた。まだ二十メートルくらいしか歩いてないのに。
お約束のスライムだ。幸い一匹だけ。良かった、例のアレを見ずに済む。
「ティモ、あれから何か盗めたりするか?」
「そうだね、たまにいい宝石が出るけど、それには生け捕りにして手を突っ込まないとならないから意外と難しいね。スライムって柔らか過ぎるから」
「生け捕り……。いい宝石……」
ユウさんの目がキラリと光ったのは気のせいか。
「ユウさん、序盤から欲張ると……!」
僕の声掛けも空しく次の瞬間、スライム目掛けて剣を投げて地面に固定した。
「ほい、これでどう? 真っ二つにしない限り生きてるから」
「た、確かに生け捕りだけど剣でどうしてスライム刺せるのさ」
そういえば、僕がダンジョンで杖でつついた時も皮が弾けたものの、ノーダメージだった。ユウさんはわらび餅のようにサクサクと剣でスライム団子作っていたが、この世界でもスライムは物理攻撃は難しいものだったのか。
「少年、物事は深く考えたら負けだ。とにかく探れるならやってみろ」
「ティモ君、ユウさんはいろいろな意味で規格外だから」
「う、うん」
引きつった顔で彼はスライムを外側からグニグニ触っていく。
(あれって、スライムにとっては痛そう。やはりこの世界にはスライム権は無いのか)
「小さいけどあったよ」
ティモ君がブルートパーズみたいな水色の宝石を取り出した。小さいとはいえ、パチンコ玉くらいの大きさなら確かに大きい。今まで取れた宝石はコショウ粒くらいだったからだ。
「よし、よくやった。カットもなかなか綺麗なものだ。じゃ、このスライムは用無しと」
ユウさんは地面からスライムごと剣を抜き、ブンっと剣を振って真っ二つにした。スライムは消滅して金貨一枚に変わった。
「ユウさん、相変わらず鬼畜すぎる。って、地面に刺すのは剣が痛むのではないの? 昨夜もそうだけど剣は投げる物ではないから」
「そうかなあ、『七人の侍』では刀を土に刺すシーンがあったけど」
「ユウさん、ジョブは剣士でしょ。忍者じゃないのだから投げるの止めて」
「えー、じゃ次からまた地道にスライム団子にするの?」
「す、スライム団子?」
ティモ君ですら引きつっているということは団子という菓子の概念があるのか知らないが、剣でサクサク刺したり振って真っ二つにするのは普通ではない戦い方ということだ。あとを付けてきたのは三日目からで初日のスライム団子は見ていなかったのか。そういえばゲームでもスライムは魔法攻撃がメインであったような気がする。
ユウさんがふくれっ面をして不機嫌そうだ。ダメだ、このままの戦い方では次の買い替えの前にミスリルとはいえ、剣が折れかねない。よし、七人の侍も出たし、その方面で攻めるか。
「ユウさん。剣士はいわば西洋の侍。剣は刀、刀は侍の魂の一部と言うべき大事なものだ。ユウさんは魂を粗末に扱っている。それは良くないことだ」
「む、確かにそうだ! 買い替えするとはいえ、剣は大事な魂の一部! そうだな、本来の使い方をしよう」
僕達のやり取りをポカンとした顔で見ていたティモ君がハッと気づいて声をかけた。
「ふ、二人とも早く先に行こうよ。戦い方の議論は後にしてさ。まだ街を出たばかりだよ」
そうだった。まだ二十メートルでスライムごときで議論しては埒が明かない。そのまま、北上を続けるべく僕達は歩き出した。
「そうだよ、ユウさん。魔王の元に近づくにつれ強い敵が出る。すなわち金貨や価値の高い宝石がもっと出てくるから、ここでスライム団子にするよりお金になるよ」
「それもそうだな。ちょっと目先の欲に走りすぎた」
(ユウさんが強いとはいえ、この調子でホントにあと十七日でミッションクリアができるのか?)
手がかりが少ない、ユウさんは強欲かつ凶暴。女神からもストッパーを頼まれたものの、不安を感じつつ僕達は歩き続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます