第2話 ステータス開けるならゲームだろ、それ。

 下は宿屋の食堂だった。これもよく見るRPGの光景だ。おかみさんと目が合うと「ああ、リョウタさん達起きたのね。じゃ、朝ごはん出すよ」と言って皿を持ってきた。


「リョウタ。設定を本名にしたのか? ネットリテラシーから本名は危険だろ?」


「だから、ユウさん、ここは異世界だって……」


「まあ、登録してしまったなら仕方ない。フルネームではないし、カタカナなら、なんとかなるだろう」


「君は本当に人の話を聞かないし、現実を認めないね」


 皿にはパンとスープと言う簡素なメニューであった。文句を付けたいところだが、無料モニターであり、なおかつ無課金ユーザーなら仕方ない。味はするけど普通の味だ。


「で、リョウタは先に起きてたからゲーム操作はある程度調べたのだろう?」


 イメージしてたふんわりしたパンではなく、なんだかカリカリで堅いパンをスープに浸して食べながら夫に尋ねた。なんだかせんべい鍋の劣化版だ。やはり無課金勢には食べ物にも厳しい。


「えーと、おかみさんから聞いた話では僕らは昨夜チェックインしてたらしい。『夫婦のパーティーでこの組み合わせは珍しいですね。普通は逆です。でも、少し戦力補強した方がいいですよ』と言われた。最低限でも魔法アイテム買うか、黒魔道士を雇わないとクエストは厳しい。だからギルド行って求人広告見よ……」


「却下」


 私はあっけなく提案を拒否した。


「珍しい云々はともかく、人を雇うには無課金ユーザーを課金させるというのがお約束だ。課金させようという魂胆には乗らない。アイテムでいいよ」


「いや、だからゲームじゃなくて異世界だと」


 リョウタは食い下がってきた。そりゃ、ゲーム気分を忘れて楽しみたいのはわかるが、ここまでくどいとイラッとする。するとリョウタは思い出したように言ってきた。


「あ、じゃ、これは? 『ステータス』と言うと本人にしか見えないものが見えるよ。職業、属性、レベルとか」


『ステータス』


 リョウタに言われた通りにつぶやくと目の前にウィンドウが現れた。


『名前 ユウ

 性別 F

 職業 剣士

 Lv五 無属性

 所持金 銀貨二枚、銅貨十枚

 スキル 容赦ない凶暴さ』


 なんか、変なスキルだ。普通は腕力10%増やら、炎耐性が強いなどではないのか? 


「リョウタ、ウィンドウが開くならゲームではないのか?」


「いや、異世界の中にはステータス確認出来るものもあってね」


「そんな都合のよい異世界あるわけないだろ。ウィンドウが開くなんてむしろVRゲームだ」


私が反論するとリョウタは少々困った顔したが、諦めたようで話題を変えてきた。


「ところで、スキルなんだった? 僕はやはり白魔道士Lv五だった。スキルは怪我だけではなく軽い病なら治せるそうだ。レベルアップすれば重い怪我や病も治せるよ。レベル一のスタートでないだけ良かった」


「……剣士でレベル五、スキルは“容赦ない凶暴さ”だそうだ。このゲーム、変じゃないか? これ、スキルじゃなくて性格じゃないか。 だから開発中のゲームなんだろうけど」


「え、えーと。いや、あなた達は異世界に召喚されましたって夢の中で女神様に言われたのだけど覚えてない? レベルも現在の体力や精神力を元にしたと言って……あれ? そこから先の記憶は無いな?」


「それ、ただの夢だろ。似たような夢見たが、チュートリアルが面倒だが飛ばし方が分からないから出てきた女をあちこちパンチやキックしてたら飛ばせたようだが」


「それ、気絶させたのでは……。だから、急に途切れたのか……」


 リョウタが絶句しているが、私は残りのスープをパンで寄せ集めて食べ終わるところだった。リョウタはゲームのことばかり話しているからだ。


「あれ、じゃ、あれは共同でチュートリアル見ていたのをすっ飛ばしてしまったのか。リョウタはキチンとチュートリアル見るもんな

。強制終了させたのはすまない。

とりあえず宿を出たら残金でアイテムなり装備を揃えよう。ゲーム初期のお約束だからな。イベントからいきなり始まるのもあるが、大抵のゲームは街並みや世界観知るには片っ端から村人への聞き込みやギルド行って仕事探す。リョウタもさっさと食べろ。腹が減っては戦はできぬぞ」


「はあ……」


 なぜかリョウタは頭を抱えていた。リョウタはしっかり説明を読み込むタイプだが、私はよくチュートリアルをスキップするタイプだから、共同でチュートリアル見ていたのなら、その点は悪かったなと思う。


 あ、そうだ。あれを念の為にやっておくか。


「おかみさん、ちょっと頼みあるのだけど、この銅貨を竈に暫く入れさせて。ちょっと作業したいんだ。取り出すのは自分でやるから」


「はあ、構わないですけど火事にならないようにしてくださいね」


 私は銅貨を一枚ずつ赤くなるまで焼き、冷ます作業を繰り返した。こうすることであることが簡単にできる。役に立つかはわからないが、そうでなければ普通に銅貨として使うだけだ。


「ユウさん、また何か企んでいる……」


 さすがにリョウタは鋭い。詳細までは理解してないが勘づいたようだ。

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