【完結】最凶の奥様、異世界をゲームと思い込み暴走もとい、無双する
達見ゆう
第1話 ファンタジーはフィクションだろ、現実には存在しない!
「ユウさん、起きて。朝だよ」
夫のリョウタの声で目が覚める。
「んあ?」
奇妙な声を上げたのは寝起きが悪いだけではない。まるっきり見覚えが無い部屋だったからだ。ツインベッド、清潔ではあるが時代がかかったような木造の部屋。なんかRPGゲームの宿屋のようだ。
「昨日ビジホテにでも泊まったっけ?」
昨夜の記憶を思い起こす。確か、お取り寄せ商品がいくつか届いていて、ワインとおつまみセットに、コレクションの鉱石セット、それから趣味の薄い本。それをどうしていたっけ? 出かけるシチュエーションは無かったと思うのだが。
「あー、そうそう。ワインが美味しくてビンを一本開けたっけ。で、鉱石セットも眺めてたな」
「ユウさん、その後のことは覚えてないの?」
リョウタが心配げに顔を覗き込む。しかし、リョウタの格好がおかしい。いつも腹や尻がはみ出たジャージなのに、今日はダボッとしたローブ姿だ。
「リョウタ、体型隠したいのはわかるが、ハッキリ言おう。ダサいぞ、それ」
「いや、これはヒーラー、つまり白魔道士の服だから。って、話が逸れたけど、僕達はどうやら異世界に飛ばされたみたい」
「は?」
異世界? 何を言ってるのだこのメタボ、いやマイダーリンは。
「昨夜のユウさんが取り寄せた鉱石セットに綺麗な紫色と緑色の四角い石があったじゃない」
そう言われてぼんやりと思い出した。昨夜の記憶が蘇る。
「いやあ、やはりこのフローライトの原石はいい物だ。この四角いフォルム、美しい紫色、セットで色違いの緑も揃ってるからどうやって飾るかなあ」
お取り寄せワインを飲み上機嫌の私はうっとりとフローライトを眺めてた。美しく結晶した原石はほぼ八面体の形で台座に固定されていた。
「ユウさんは本当に石が好きだね」
リョウタは自分のワイングラスになみなみとお代わりを注いだ。ったく、ワインはガブ飲みするものじゃないし、さっきからお高いおつまみも私よりもたくさん食べている。酔いが醒めたらまた四十肩マッサージの刑だな。ま、今は取り寄せた石を堪能しよう。たくさん注文したからどのショップからのか忘れたが。
「ああ、ちなみ紫外線を当てると光る物もあるが、それが採れる鉱山は閉山して高いんだよな。熱を加えるとパチパチと光って弾けるから和名は蛍石という。真四角に結晶するのなら、パイライトもいいぞ。見た目金色で作り物みたいな真四角な結晶も素晴らしい」
「石のうんちくは何回も聞いたよ。それでさ、明日になったらちゃんと届いた他の品物を整理してよ。なんか冊子も着てたから」
そうだった。BLの女王と呼ばれる更紗マリア先生と桜海リカ先生の新作を買ったのであった。明日、じっくりと読もう。
ワインを一本空にした時、リョウタが箱の中にブラックライトがあるのを見つけた。
「ユウさん、ライトが入ってたから、さっきのフローライトに当てたら光るのじゃない? 当ててみようよ」
「お、天然のフローライトで光るのは珍しいぞ。貴重なロジャリー鉱山か、ダイアナマリア鉱山かな? とにかく早速当てよう」
ブラックライトを二つの石に当てたとき、青く光り始めた。
「お、ホントによく蛍光するな。よし、部屋の灯りを消してもっとよく見える……」
「ユウさん、その必要がないくらい強く光ってない?」
「確かに、って蛍光ってレベルじゃない! 発光だ! リョウタ、ライトを消せ!」
「とっくに消してるよ! なにこれ!」
そのまままばゆい光が続き、私たちは酔いもあってその後の記憶がない。
で、起こされたリョウタから突拍子もない説明がされたわけだ。
「……リョウタ、私をおちょくってるのか?」
「いや、僕だってありのままを話しているだけ。だからここは異世界っぽいんだ」
彼はワインを飲みすぎて強い光を浴びて記憶障害でも起こしてるのか? 私がなおも疑いの目を向けるとリョウタは説明を続けた。
「だから、いろいろ変なんだよ。僕のベッド脇に着替えが置かれてたけど、ローブに杖と、魔道士セットだし。
じゃ、証拠見せるよ。ユウさんの脇にあるこの剣を借りるよ」
よく見ると私のベッド脇に青銅の鎧、同じく青銅の剣に兜が置いてある。リョウタは剣を取ると手の甲に傷を付けた。みるみる血が流れる。
「リョウタ、いくらなんでもそれはヤバくないか? 宿で自殺なんて賠償金かかるぞ」
「ユウさんは相変わらず冷徹だなあ。で、この杖をかざすと」
リョウタが杖をかざすと薄青色の光が出て、血が止まり、傷口も綺麗に治った。私も彼の手を取ったが傷なんか最初から無かったようだ。
「これで分かったでしょ? ユウさんの脇にある服も異世界の戦士じゃない?」
いや、絶対に嘘だ。異世界なんてフィクションだろ。ラノベやアニメだけの話でこんなことがある訳ない。
いつかリョウタがブラジルの地下組織に攫われた時と似ている。リョウタは黄泉の世界と言ったが、黄泉の世界なんて神話だし、フィクションだし、日本の地下だから地球の裏側のブラジルの地下組織だったはず。それは確かだ。
ならば、この状況はどう整合性を取ればいいのだろう。シンプルに考えて石が光ってここにいた。ならば導かれる答えは一つ。
「リョウタ、もしかしたらあれは石の形をした新作のゲーム機なのじゃないか?」
「へ?」
「いや、私も通販やら、モニターやら、懸賞やら片っ端から応募しているからよく覚えてないが、きっと新作のVRゲーム機のモニターに当選したのだ。あの発光がゲーム起動のサインだったのだろう。だからゲームみたいな世界にリアルな触感。どうやってリセットやセーブするかわからんが、とりあえずプレーをするか」
「いや、スイッチも何も無い石ころの形のゲーム機という方がよっぽど非現実的だけど……。ユウさん、相変わらず僕の言う事、まったく信じないね」
何故かリョウタはガッカリした顔をした。せっかく新作のゲーム機が当たって無料でプレーしているのに何が嫌なのだろう。
「で、まずは朝というからには着替えて朝飯だな」
傍に置いてあった服を着る。確かに鎧を着るアンダーウェアであり、そのまま街を歩くこともできる中世の服だ。リアルな感触はさすが最新鋭のゲーム機だ。
まあ、いい。早いところセーブポイント見つけて昨日取り寄せた更紗先生の新作を読まないとな。
「じゃ、朝ごはんに行くか、リョウタ」
私達は部屋を出た。VRゲームでも食べ物に味があるといいなとちょっと期待した。
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