第3話 無課金勢は地道に手っ取り早い仕事を探す

 宿を出ると私たち二人の所持金はカツカツとなった。あんな簡素な朝食付きで銀貨三枚とはぼったくりもいいところだ。味はあったがあまり美味しくなかったし、相場も調べないとならないな。


「すみませーん、仕事探しでギルド行きたいのですが」


 リョウタが村人に声を掛ける。ふっくらとした体型で白魔道士の服装の彼は人の警戒心が緩むのかサッと教えてくれた。


 私が道を尋ねた時は用件を言い終わらないうちに何人も逃げたのに、なんだこの差は。ゲームのモブキャラなんて男女差別しないのではないのか? それとも剣士は恐れられる存在なのか? 普通は女性には優しいと思うのだが。それともスキルがだだ漏れして凶悪なオーラでも漂っているのか?


「ギルドはこの近くにあるって。この大通りを真っ直ぐ行って三つ目の角を右へ行ったところだそうだ」


 まあ、いい、とりあえずこのゲームをサクサクこなして元に戻って更紗先生達の薄い本を読みたいし。まだ石も届く予定だ。こんな所でグチグチ言っても仕方ない。


 ギルドは朝から大盛況だった。さすがネトゲは課金勢が沢山いる。モニターなのに課金するのは理解できないが、少しでも有利になりたいからこんな時間でも盛況なのだな。

ギルド内の掲示板にも貼り紙がされているが字の形が独特で読めない。ゲームなんだから素直に日本語書いてくれと思ったが、しょうがないから窓口の人に聞いてもらうようにリョウタに託した。


「すみません、初心者向けの仕事を探し……」


 リョウタが言い終わらないうちに他の冒険者達に割り込まれて追いやられてしまう。ここでは優しさは通用しないようだ。さすがネトゲ廃人は容赦ない。

 しょうがないので私が割り込んで聞いた。


「申し訳ございませんが、お仕事探しております。初心者でも稼げる簡単な仕事ございませんか」


 丁寧に聞くが窓口はもちろん、冒険者達も一瞥して無視してきた。そうか、女性だからと舐められているようだ。ワイロも必要かもしれない。

なんだか初期から攻略が難しいゲームだ。運営に報告したいがさっきのステータス画面にはお問い合わせ欄は無かったな。プレー終えたら文句付けないと。それとも課金させようと仕向けているのか。


「あ、ならば手付金が必要ならこちらでいかかでしょうか」


 私は銅貨一枚を取り出し、指に挟み力を入れて折り曲げてから渡した。


 その瞬間、冒険者達はモーゼの海のごとく割れ、窓口の人の態度も青くなっていった。チョロい。これは真っ赤になるまで炙り、冷ませば大した力がなくても曲げられる一種のトリックだ。おかみさんに頼んで炙っておいてよかった。いや、VRゲームだからこのくらいの力加減は誰でも簡単に調整できるはずだ。なのに何故周りは恐れるのだろう。


「ユウさん、銅貨を炙っていたのはこのためか……相変わらずエグい」


「し、初心者なんですか? 本当に?」


 心無しか受付の声が震えているが、気にしない。


「正確にはレベルは五なんだが安全パイをとってレベル一向けからの仕事をしたい。それに連れが白魔道士だけの最低限のパーティーなんだ」


「あ、ああ、そうなのですね。な、ならばダンジョンに住み着いた迷惑亜人を追い払うのはどうでしょうか。冒険者達はレベルに関わらず心を折られたり、取り込まれてしまうそうなので。ダンジョン主も困っているので初心者向けですし、金貨十枚支払うそうです」


「迷惑亜人? もう少し詳しく。ここに来たばかりだし、第一、貼り紙の文字が読めないんだ」


「ダンジョンの一階なのですが、地底湖が天然のプールになっているそうです。適度な暗さで、日焼けしないからと獣人達がそこで連日のように遊んでいるそうです。獣人なので討伐対象なのですが、数々の猛者が手こずっているので報奨金が上がって行きまして。ダンジョン主は冒険者を入れて一儲けをしようとしたから赤字で困っているのとか。男性の冒険者が失敗しているので、あなたは女性だからもしかしたらうまくいくかもしれません」


 ダンジョン主、一儲け、このゲームはいちいち入場料をとるとはエグい世界だな。課金させようという姿勢を感じる。しかし、獣人がなんで日焼けを気にするのだ?

 いろいろツッコミどころ満載だが、今の私達には金貨十枚は魅力的だ。


「確認するが、ここは万一死んでも蘇生できる施設はあるの?」


「は、はい。死体が綺麗なら教会で蘇生可能です。あとはレベルの高い白魔道士でもできます。討伐対象のモンスターは死ぬとアイテムや貨幣に変わりますので蘇生できませんが」


「リョウタ、この仕事でいいな?」


 隅にいるリョウタに聞くと無言ながら大きくぶんぶんと首を縦に振った。よし、初仕事は決まった。


 しかし、上級者向けゲームなのか、変にいろいろと凝ってるな。

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