第4話 リョウタの憂鬱
とりあえず、妻と一緒にRPGゲームをやっていたり、彼女がラノベを読んでいたことは正解だったと安堵した。世界観の飲み込みが早い。しかし、この頑として異世界を認めずゲームと信じ込むのはいかがなものだろう。現実主義なのに目の前の現実を信じないのはこの人の過去のトラウマから来ている特性であり、魅力なのだろうけど。
そして、どうやったら元の世界に帰れるのかまでは女神は教えてくれなかった。というか、白い部屋から女神が「あなたは異世界に召喚しました」と説明をしている途中に目覚めてしまったのは彼女が女神を殴り倒してたのか。
大抵の話だと女神は何らかの形でサポートしてくれるのだが、最初から居ないのはそのせいか。もしかしたらまだ気絶しているのかもしれないが、目覚めてもこんな俺達のサポートはしてくれないだろう。困ったものだ。
そして、彼女のスキルが「容赦ない凶暴さ」というのは一体なんなのだ。それはスキルではなく元々の性格だ。ぶん殴られた女神の腹いせかもしれないが、それがスキルなんて余計に事態が悪化しかねない。
いつぞやも自分が黄泉の国にさらわれた時、妻は追いかけてきた餓鬼達を火炎瓶で容赦なく丸焼きにしたこともある。あれも黄泉の国云々を信じない妻は餓鬼ではなくテロリストと思い込んでいたが「夫を攫ったテロリストに容赦なぞ要らぬ」とガンガンと投げていた。愛情故の攻撃とも言えるが、人間(実際には悪鬼だが)相手にも容赦しないから、異世界のモンスターなんて、どんな目に遭うのやら。
まあ、持ち前の気の強さで仕事を取れたのはいいことだ。アイテム屋へ行き、残金で買えるだけの補助アイテムと魔法アイテムを買い、チラシの裏に書いてくれた地図を元に「ケッペルズ・ダンジョン」へ向かう。
「あのー、ギルドから紹介されましたリョウタとユウと申します」
ユウさんに任せると要らんバトルが始まるので僕が声をかける。建物の奥からオーナーと思われる男性が出てきた。恰幅が良かったのだろうが、痩せこけてしまったと思われるダブついた服だ。心無しか顔色も悪い。心身共に参っているのか、それとも当てにしていたダンジョン商売が儲からなくて困っているのか。
「どうも、オーナーのケッペルズです。ああ、女性の戦士なら少しは大丈夫かな」
ケッペルズさんは何故か安堵した。男性だと失敗しやすいということなのだろうか。
「ギルドから一階部分に獣人が住み着いて困っていると聞きましたが、詳しく教えてください」
僕が自然と情報収集役となるため、穏やかに尋ねる。
「そうなんです! 奴らには困っているのです。それこそ、うじゃうじゃと一階の地底湖に獣人たちが居て占領しているのです。冒険者達に駆除を頼みはしているのですが、ある者は取り込まれたのか帰らなくなり、ある者は心を折られて『リア充爆発しろー!』と半泣きで逃げ出すのです。おかげで二階以降の探索や整備が進まないし、風評被害も起きて閑古鳥が鳴くわで弱ってるのです」
「取り込まれる? 泣き出す? 心理攻撃か?」
「心理攻撃なのでしょうね。泣いて逃げた冒険者は皆、無傷でしたから」
ユウさんが首を傾げるが、それは僕も同じだ。帰らなくなるというのも死ぬというより、同じ穴のムジナになるというかミイラ取りがミイラになるのか。でも討伐対象なら油断させて襲っているのかもしれない。
「とにかく、様子を見てもらえれば。あ、念の為に聞きますがお二人の関係は冒険者仲間ですか?」
「いや、一応夫婦だ」
ユウさん、一応ってなんだよ。僕はとりあえずの夫なのか? だから、パシリに使っているのか? ……いや、よそう。世間ではそれを「尻に敷かれている」というのだ。しかし、大抵の男は彼女には敵わないと思う。なんで僕は夫を続けていられるのだろう?
「ああ、逃げた冒険者達の様子からして独身っぽいから、夫婦なら大丈夫かもしれません。期限は授けませんが、早く討伐してくれたらその分報奨金増やしますから」
「よし! 行くぞ! リョウタ。最初からボーナスステージとはチャンスだ!」
「だから、ゲームではないってば」
「とにかく降りて様子を見よう。作戦が必要ならば一度撤退もありだ」
珍しくまともなことを言っているが、やはりゲームだと信じている。コンテニューできないのは理解していないのは不安だが、当座の資金も必要なのも事実だ。
僕たちはそうっと入り口から階段を降り、問題の場所へたどり着いた。
「容赦ない凶暴さのスキルが発動しませんように」
僕はそっと祈った。
しかし、それは無駄な祈りだったと三十分後(体感時間)に判明する。
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