第5話 ユウ、スキル発動!
地底湖は確かに一階の奥部分にあった。ダンジョンだけあって広いが、一階には平坦な地面と地底湖しかない。多分、獣人や冒険者たちがめぼしい物を採りつくした後なのだろう。ならば、普通はさらに降りるはずだが地下に降りる階段前に地底湖があり、それと彼らに阻まれる。でも彼らは攻撃しない。
まるで禅問答だが、答えはすぐにわかった。
「イェーイ! そこのお嬢ちゃん、一緒に泳がない?」
「えー。どうしよっかな。友達にも聞かないとぉ」
「ねえ、頼んだカシス蜂蜜酒まだー?」
「すみませぇん、ボールとってくださあい」
「ね、写真魔法覚えたから一緒に撮ろうよ」
獣人たちと一部の冒険者が一斉に地底湖の天然プールで遊んでいた。
「ふむ、これはちょっと前に流行ったナイトプールってやつか。今は見かけなくなったが。ん? リョウタ、どうした?」
リョウタは頭を抱えてしゃがんで震えている。ぶつぶつと「リア充爆発しろ、爆発しろぉぉぉ」と呪詛の言葉を吐いている。白魔導士がそんな汚い言葉で罵倒していいのだろうか。というか、ナイトプールに村でも焼かれたか?
「やだあ、あのデブキモっ」
「ホントに陰キャはリア充爆発しろなんて言うんだー」
「久々の人間なのに陰キャなんて大ハズレじゃん」
様子を見てなんとなく理由はわかった。腕に覚えのある剣士や格闘家タイプはイケてる男性が多い。モテる者は獣人女のナイスバディに引き込まれて一緒に遊んでハマって抜けられなくなり、そこの我が夫みたいな戦士以外のジョブの非モテタイプは陽キャな彼らにトラウマをえぐられて泣いて逃げ出すのか。なるほど納得。
しかも、ビーチボールっぽいのを投げたり、飲み物売ってる屋台もある。本当にここはダンジョンなのか?
って、その前にリョウタは妻帯者なのに、なんでこんなに彼はダメージを受けるのだ。こんな美人な嫁がいるのに失礼なやつだ。
「はあい、そこの戦士のおねえさ~ん。俺たちと一緒に泳がない? 人間だけどボーイッシュな美人だよね」
いわゆるウェイ系の獣人が声をかけてきた。迷惑亜人と言われるだけあって異種族にもナンパしてくる。
「断る」
奴らの誘いは秒の速さで断った。目的は遊ぶことではなく、彼らの駆除なのだ。
「リョウタ、もう一度確認する。獣人は駆除対象モンスター。人間は遺体がきれいなら蘇生可能だったな」
「リア充爆発しろ、リア充爆発……。え? ユウさんの言うとおりだけど、どうやって駆除するのさ。剣で切るには数が多いし、動いているから人に間違って斬りつけるかもよ?」
私はザックから一つのアイテムを取り出した。
「さっき買った魔法パックだ」
「ま、まさか、ユウさん。それを使うの?」
「今、これを使わなくてどうする。せぇーのっと! アイス魔法パーック!」
リョウタが言い終わらないうちに私は魔法パックを地底湖に向けて投げた。瞬時に湖面は凍り、獣人がいたところは穴が開き、冒険者の人間は氷漬けとなった。そう、買ったのは氷属性の魔法アイテム。本来なら炎系モンスターへの攻撃に使ったり、川や湖を渡る時に一時的に凍らせるものらしい。
「あ、あわわわ。人間もいるのになんてことを」
「どんな理由であってもリョウタを傷つける者は許さん。それに人間は蘇生できる。元モンスターがいた氷の穴の底には恐らくアイテムや金貨があるだろう。さ、少し寒いがアイテムを拾うぞ。早くしないと溶けてまた水になる」
「ぼ、僕のためと言ってくれるのは嬉しいのだけど、手段がエグいよ」
そう言って私達は地底湖のくぼみを探り始めた。獣人の胴としっぽと足の形に空いているので拾いにくかったが、いくつかの宝石、金貨に銀貨。ポーションなどアイテムは回収できた。屋台も探ったが主は逃げた後らしくお金は無くなっていた。まあ、目の前でこんなこと起きれば普通は逃げるよな。
「チッ、売上金を持って逃げたらしい。びた一文残って無い」
「ユウさんの方が悪人に見える……」
「何か言ったか?」
「な、何でもありません。早くオーナーに報告に行こうよ」
依頼主に報告して様子を見せたときは唖然とされたが、「手っ取り早く駆除するにはこれしかなかったので」と私が笑ってない目でいうと何か納得したようで、報奨金をもらえることになった。
「ポンペイの遺跡みたく石膏を流したら獣人の下半分の模型ができたのかなあ」
「ユウさん、エグいことを考えないの!」
なぜか真っ青な顔のリョウタに窘められた。きっと氷の中で冷えたに違いない。味覚もそうだったがリアルな寒さに水濡れの感触。最近のVRは進化したものだ。その点は運営はいい仕事している。今夜は風呂付きの宿に泊まりたいものだ。
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