第6話 運営(女神)のえこひいき?

「うーん、報奨金は確かに色をつけてもらえたが、ゲットした金貨や宝石を半分以上取られたのは痛かったな」


 昨日よりやや良さそうな宿屋(もちろん風呂付き)にて夕飯にありつきながら私達は今日の反省会を開いていた。


「しょうがないよ、結構な人数の冒険者を引っ張り出して蘇生させるからお金かかるのでしょ。急がないと傷むし。今回はクエスト中の事故扱いにしてもらえたけど、意図的にやったら殺人でしょっぴかれるからね」


「ゲームだから垢BANだろ。チャラ男嫌いだからあれしか思いつかなかったのだよね。でも、スピード解決したから報奨金以外にダンジョン探索優先権とやらを貰えたのは良かった。ま、宝石でもレアストーンのアウイナイトは守り切ったし、それで良しとするか」


「また君は思い込み激しくて、なおかつ人の話を聞いてないね……。それにレアストーンと言っても、それって砂粒みたいに小さいし、マイナーで人気ないからあっさりともらえたのでしょ。僕も聞いたこと無い名前だもん」


「この石の価値を知らないとは不憫だなあ」


「高く売れないでしょ、こりゃ。いや、ユウさんは売るつもり無さそうだけど」


 氷漬けの冒険者はかなり多かったようで、蘇生させるための掘り出しや解凍の手間賃、教会への搬送代としてゲットした宝石や金貨を経費として取られてしまった。

 リア充の色気に溺れ続けたのをある意味救出したのに、男って奴は。しかし、こんなに早くアウイナイトが手に入るとは。獣人は本来なら上位モンスターなんだろう。他にもエメラルドもあったが経費として取られてしまった。アウイナイトは独特の青でわかったがルーペが欲しいなあ。実装されてないかなあ。


 とはいえ、こんなに早く解決してくれたからと報奨金とは別にダンジョン探索優先権なるものをくれた。ただし、あちらも早く儲けたいから三日間ほど再開せずに貸切状態にしてくれるというだけだから、早く探索してレベルアップしないと他の冒険者に宝箱を取られてしまう。なるべく早くレアストーンをゲットせねば。


「早くレベル上げしないとね。明日は装備とアイテム買い足そう。攻撃魔法アイテムは

 まあ、使い方はアレだったけど意外と有効だったし」


「ならば、ちゃっちゃっとやるぞ、リョウタ。とりあえずダンジョンのモンスターで剣を試したいし、早くセーブポイント探して更紗先生の本読みたいし」


「だからゲームでは……」


「しかし、今日の地底湖は懐かしくもシュールだったな。昔読んだ児童書で開拓期のアメリカが舞台なんだが、大寒波が来て、人間程の食用カエルが慌てて湖に飛び込むが間に合わずに、凍って湖一面がスケキヨのカエルの足バージョンの湖になるんだ。それを切って冬の食料にするシーンがあるが、よく考えれば春になるとエグいことになるよな。あれの逆バージョンだったのか」


「……あの、ユウさん。僕達一応食事中。で、君が食べてる肉は食用カエルだよ」


 この辺は海から離れているから川魚や食用カエルがタンパク源だ。好奇心強い私はカエルの串焼き、リョウタは川魚のハーブ焼きを食べていた。リョウタは相変わらず食の好奇心が乏しいというか、安全パイを選ぶ人だ。どうせゲームなのだからどんどん試せばいいのに。彼はゲームではなく本物の異世界と言い張るが、あんなのはフィクションに決まってる。だからここもVRゲームだと言っても聞かない。


「んー、それもあって思い出した。

 それにしても、あの本のタイトルなんだったか忘れたなあ。しかし、カエルって意外とうまいな。鶏肉みたいな味だ。無課金ユーザーでもそこそこの物が食べられるのは収穫だ」


「だからさ、食事中でそんな話を……いや、もういい」


 何故かリョウタは頭を抱えてしまった。今日のダンジョンでも何らかのトラウマを刺激してしまったようだし、話題を変えるか。


「そうだ、あれでも経験値入ったのかな? ステータス!」


 ウィンドウが開く。これがあるのもゲームだと思う理由なのだが、リョウタは信じない。

 それより数値だ。結果的に大量に討伐したため、レベルが五から十一になっている。体力と腕力もかなり上がっていた。


「ん? スキルが変わっている?」


 スキルの欄が「容赦ない凶暴」から「容赦なく、かつ冷徹極まりない凶暴」に変わっている。


「リョウタ、運営へ通報したいのだがどうすればいいのだ? さすがにスキルの表示が『冷徹極まりない凶暴』というのは何らかの悪意を感じる」


(そりゃ、ナビゲーターである女神を殴ったし、今日の人間を巻き添えにした討伐をすればそうなるよね)


 リョウタは何か言いたそうな顔をしているが、何故か話さない。


「さあ、僕もわからない。何かで言える機会があれば言えばいいのじゃない? 僕もステータス見よう。あれ?」


『名前 リョウタ

 性別 M

 職業 白魔道士

 Lv七

 スキル 軽い病気の治癒、解毒

 所持金 金貨十七枚

      銀貨二十枚

     銅貨九枚』


「変だな、何にもしてないのにLvアップしてスキルも増えてる。所持金は二人の合算だね」


「同行してるだけで何割か経験値入るアレだろ?」


 私はつまらそうに焼き鳥ならぬ焼カエルをつまみ、エールで流し込んだ。


 ああは答えたが、バグにしてはひどい。私はスキルどころかもはや悪口、片や何もしてないのにレベルアップ。不公平な配分だ。無料モニターでなければ運営に殴り込みに行きたいところだ。まあ、何もしなくてリョウタのレベルやスキルが上がっているなら良いバグだろうし、それはちゃっかりいただこう。


(もしや、今日の様子を見て同情された? それとも以前の黄泉の国のイザナミさんみたく気に入られたのか? まさか女神ってデブ専多い?)


 なにかリョウタが複雑な顔をしている。嬉しくないのだろうか?


「なぁに、シケたツラしてんのさ。さ、飲み切ったら早く寝て回復して明日は探索の日に当てるぞ。ダンジョン探索優先権を有効に使わないとな」


「それに、二十一日感無断欠勤すると僕達は公務員だから懲戒免職だよね。早くクリアしないと」


「なんだよ、そんな心配してたのか。大丈夫でしょ。さ、飲め飲め」


 レベルアップした割には浮かない顔をしているリョウタを励ますようにエールを注いだ。


(作者注・ユウの会話に出てきた児童書は実在しますが、作品名作者名を失念してしまいましたので引用元が書けません。

 開拓期のアメリカが舞台で開拓者の一年を書いた話だったと思います。人間ほどある大きさの食用ガエル、大寒波が来て入れたコーヒーが瞬時に凍るけど冷める前に凍ったから開拓者達がふうふう冷ましながらコーヒーをぺろぺろ舐める、ぶっとい鎖を棒にひっかけて「これがガラガラ鳴る低度ならそよ風だ」とスケールが大きい不思議なお話でした。

 この手がかりのみで作品名など分かった方はコメント欄にご連絡ください)

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