第54話 ラスボス戦が何かがおかしい・2
リョウタの熱い要望もあり、気分良くアンコールを歌っていたら何かクレーム付けてきた奴が現れた。カッとなって口喧嘩していたら突然リョウタがキレたのには驚いた。
リョウタが怒るところは初めて見たし、何よりも岩をも砕く馬鹿力には驚いた。あれは火山岩の中でも硬めの花こう岩なのに、たった一突きであんなに気持ちよく割れるものなのか。
錫杖の力なのか、このゲーム内では何かの補正がかかっているのかもしれない。いざという時は錫杖で物理攻撃してもらおう。
しかし、おかげで頭が冷えた。ここは現れた詠唱者は魔王側のナンバー2であるコニャックとわかったし、理由もわかったからズバッと正論を返したのに、相手はまた杖を構えてきた。
ゲームなのだからそういう設定と割り切れば良かったのだが、歌を下手と言われたからいい印象などあるはずもない。
相手が戦う姿勢なら、仕方ない。気持ちを戦いに切り替えよう。
いよいよラスボスだ。これを倒せば封印を解く魔法は発動しないから、再封印しなくてもいいのかもしれない。空間の歪みも無くなるから封印場所にも行けるだろうし、そこで魔王が出現したらとにかく物理攻撃で倒すまでだ。
うむ、なんとなくわかってきた。私が無属性の理由。
それは子供の頃のポリシーが「言っても分からないやつには力で分からせる」だった。さすがに現実にはできないから、代わりにゲームで剣士や格闘士など物理攻撃系を選んでいたし、剣道も習っていた。
クラスで女子達が占い雑誌でワイワイやっていたが、「あるかどうか分からない超能力やおまじないより、先に物理的な行動をやったらいいのじゃない」と言ってドン引きされたこともある。
つまり、ゲームや漫画のようにファンタジーはファンタジーで楽しむし否定しないが、魔法より力と信じているから、このゲーム内でも自動的に剣士になったのだろう。そして、そのこだわりがどの魔法も頼りにしない「無属性」となったのだ。
ならばティモがいつか言っていた「スゴい技」はなんだ? もしかしたら普段から力任せに殴るように斬っているこれのことか?
そう考えているうちにコニャックが何やら詠唱を始めていた。リョウタがクイックをかけてくれたから、こちらが素早く行動を起こせる。
「手始めにこれをくらいなっ!」
とりあえず、ヒュドラの剣を鞘に入れたままコニャックをぶん殴った。殴られれば少しは驚いて詠唱が途切れるはずだ。
しかし、コニャックは打撃を受けても変わらず詠唱を続けている。なるほど、ナンバー2だけある。
「ダークアタック!」
技の名前が聞こえた、思ったら強い衝撃を受けた。魔法でも闇属性の衝撃波なのだろう。ふっ飛ばされたが私はすぐに立ち上がり、剣を構え直した。
「噂には聞いてましたが、やはり凶暴な方ですね」
「そんなところまで知っているとは。私も有名になったものだ」
「ええ、使い魔達から情報を得ていました」
「じゃ、今回は自らお出ましか」
「ああ、使い魔はなかなか戻らないし、下手くそな歌が谷に響いて集中がさすがに乱れました。途中で使い魔達が気絶していたからまさかと思いましたが」
まだ下手というか、この万年課長もとい万年ナンバー2のくせに。いや、望んで万年ナンバー2だからちょっと違うか。
「下手くそは余計だ。では、ちゃんと剣を使うか」
私はそういうと、ヒュドラの剣を鞘から出した。
『いよいよ戦いか、かつて仕えた方ではあるが……』
「そ、その色はヒュドラのウロコ! まさかヒュドラまでやられたか!」
私の剣を見たコニャックは驚いた顔をしている。って、見た目でわかるとはさすがだ。
「いや、殺ってはいないけど」
『うむ、コニャック様には済まないが……』
「なんと、ジンジーニャが可愛がっていたヒュドラまでやられるとは……」
いや、本体は生きてるから。
「ジンジーニャお気に入りとはいえ、私にとっても大切な部下、それすら倒すとは許せぬ」
「あの、これは分身で……」
「ますます、あなたを倒さなくてはならなくなった。ヒュドラよ、仇は取るぞ」
話を聞いてない。コニャックは自分の世界に入り再び詠唱を始めた。
『あのお方は昔から、自分の世界に入ると人の話を聞かない方だ』
『相変わらずだ』
うーん、時々いるな。こっちの話を微塵も聞かないやつ。そういうときこそ、私の信条。
「言っても分からないやつには力で分からせるっ!」
私は再び剣を構え直した。
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